「それで大陸の外のへの連絡と移動手段についてだが……」
「えっ?」
「えっ」
〈冬東協会〉の幹部オズワルドからそう話を振られて、思わず素で聞き返してしまったゆるキャラである。
そういえば大陸の外のへの連絡と移動手段がないか、調査を依頼していたんだった。
予想外のタイミングでシンクたちと再会を果たし、移動手段もほぼ解決したため完全に忘却の彼方だったぞ。
イスロトの街の近郊にある古戦場跡へゆるキャラたちは訪れていた。
名前の通りここは古の戦場の跡地で、無数に広がる遺跡群に無法者たちが住み着いている。
ここはイスロトの街からのあぶれ者が集まる、スラム街としての役割を持っていた。
ハクアを追いかけてきた黒い竜を撃退した後、古戦場跡を飛び出したままだったので、もう脅威は去ったと伝えに戻って来たのだ。
竜の姉妹ばかりを構っていたら、妖精さんと精霊さんがへそを曲げていたので今日は連れてきた。
逆に姉妹にはコラン村でのんびりしてもらっている。
フィンは初めて来た場所だからか好奇心全開で飛び回り、ユキヨはゆるキャラのマフラーの中でうたた寝をしていた。
「依頼費用として支払ってもらった大金に見合う情報を得ようと必死だったんだが、〈神獣〉様からしたら、依頼したことを忘れる程度のはした金だったか」
「いやいや、急に振られて驚いただけで、ちゃんと覚えてるから」
本当は忘れてたけど。
それを咎めるようにジト目で見てくる、意外と面倒な性格をしていたオズワルド。
おっさんのジト目とか誰得なんだ。
「それじゃあ何か有力な情報が手に入ったのか?」
「まず先に移動手段だが、開拓船というのがある」
アトルランと呼ばれているこの異世界には大陸が五つある。
各大陸は創造神の分身である中柱の神が管理し、闇の眷属や邪人、魔獣といった脅威から人種を守護していた。
ところが今ゆるキャラたちがいる第五大陸カンナウルトルムだけは、管理者たる神が不在だ。
中柱の神々は創造神が自らの力を分け与えて生み出すのだが、ペース配分を間違って四柱目で打ち止めになってしまったのだ。
とんだうっかりさんである。
そのおかげでこの大陸では人種の版図は狭く、未開の地が沢山残されていた。
故に他大陸から開拓船がやってくるそうだ。
「西に大陸最大の港を有するフレッサという国があるんだが、そこに不定期だが他大陸からの開拓船団がやってくる。各大陸の守護神の祝福をたっぷり授かり、強力な加護を持つ精鋭たちを護衛にした船団だ。それでも毎回船の半数近くが脱落するらしいがな」
この世界の詳しい航海事情は知らないが、嵐に呑まれて沈没したり、壊血病になったり、海の魔獣に襲われたりするのだろう。
まさに命がけだ。
「物資と開拓民を降ろした船団は補給をしてから出発元の大陸へと帰る。そこに便乗することが可能だ。第三位階冒険者の〈神獣〉殿なら護衛として乗り込めるだろう」
「その船団が丁度停泊しているとか?」
「いや、カンナウルトルムに到着するのは二か月後の予定だ。ここからフレッサまでは徒歩で一ヶ月、馬車なら半月程度かかるから、準備期間も含めたら丁度良い」
ちなみに肝心の船旅は片道で半年から一年かかるそうだ。
もちろん優雅な豪華客船でのクルーズ旅行ではなく、奴隷船のような鮨詰め状態(イメージ)で一年過ごすと思うと、過酷としか言いようがない。
「片道で半数が脱落ということは、往復だと四分の一になっちゃうのか?」
「行きの脱落者の大半は開拓民だ。帰りは護衛の精鋭たちだけだから、そこまで減ることはないようだな。それで何故到着が二か月後かと分かるのかだが、これがもう一つの依頼である連絡手段の話に繋がる。《交信》という魔術を使うんだ」
「ああ《交信》なら知ってるぞ。神々と連絡を取るやつだろ?」
「ぐっ、そうだ。《交信》は神々からの神託を授かる際に使う魔術だ」
提供する情報に自信があったのか、悔しそうにしているオズワルド。
「船団に帯同する地神教の司祭が地母神と《交信》し、フレッサにある地神教の神殿にいる司祭へ神託として情報が伝わるというわけだ」
「個人間で直接遠方と会話する魔術は無いのか?」
「数百メートル程度の距離なら《念話》が届くが、それ以上となると聞いたことがないな」
ふうむ、これまた異世界転生人的には知識無双、技術チートできそうな案件である。
戦場で一方的にタイムリーな情報伝達が行なわれて、戦局を大きく変えちゃうようなやつだ。
ゆるキャラには知識も技術もないけどね。
「《交信》の方法は神ごとに違う。〈神獣〉殿は所縁のある混沌の女神と《交信》するのが理想だが、生憎と混沌教の信者で《交信》を使える者はイスロトにも古戦場跡にも居なくてな」
混沌教の通信はなあ……仮に《交信》できたとしても何故かこっくりさん方式なうえに、碌に返事を寄越さないんだよなあの猫は。
「だが地神教で《交信》を使える人物を確保してある。追加のお布施が必要だが、すぐにでも《交信》を依頼することは可能だ。どうする?」
「えっ、いや、ちょっと待ってくれ」
「資金は潤沢にあるんだろ? 黒い竜の素材報酬を全てを冒険者ギルドと三同盟に譲渡したくらいなんだから。私用の《交信》は頻度が限られるから早めに予約したほうがいい」
「わかった、わかった。予定を決めたら連絡するよ」
ぐいぐい来るオズワルドを押し留める。
倒した黒い竜の素材は売り物になるらしいのだが、イスロトの街及び古戦場跡が襲われたのはこちらの不手際だったので、その事実を話した上で被害の補填としてすべて引き渡すことにしたのだ。
ちなみに三同盟とは古戦場跡を管理する〈冬東協会〉、〈ノーザンナイツ〉、〈シュド連盟〉のトップスリーのことである。
ハクアに乗って古戦場跡から飛び立つ際にギルドマスターが現れたのは、この黒い竜の処置について訪ねるためだったそうだ。
ニール救出のため急いでいたし、怒られると思ってスルーしちゃってすまぬ、ギルドマスターよ。
そしてそのギルドマスターは現在、ゆるキャラの横で黒髪の美女ことニールに泣き付いている。
「大陸を離れるってどういうことだ!? 聞いてないぞ!!」
あ、それも素直に言っちゃったんだ。
更にちなみにだがオズワルドが妙にぐいぐい来たのは、古戦場跡からトロール一味を退治したことを恩に感じているからだと、〈冬東協会〉の長であるダンデル爺が後でこっそり教えてくれた。
面倒だが義理堅いおっさんだったようだ。