ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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302話:少年と神の性質と方針

 こうして僕はねんがんの人間の体を手に入れた。

 めでたしめでたし。

 勝ったッ! 第10部完!

 

 とはもちろんならない。

 

 鏡で確認したが、どうやら益子藤治の九歳か十歳頃の体になっているようだ。

 なんとも懐かしい姿になったものだ。

 

 典型的な日本人……平たい顔族なので、見目麗しい〈カオステラー〉の面々と比べると劣等感を感じずにはいられない。

 先程は妙に可愛がられたが、きっと揶揄れたんだろうなあ。

 溜息と共に俯いてしまうのもやむなし……いや、外見で差別するような皆ではないと分かってはいるんだ。

 

 急に姿形が変わったせいで情緒が不安定になっているのか?

 〈コラン君〉になった時も小一時間ほど呆然としていたのを思い出す。

 

「トウジ君どうかした? やっぱり体の調子よくない?」

「ああ、いや、体は大丈夫だ」

 

 レジータの心配そうな声に慌てて顔を上げて返事をする。

 声の主は異国情緒漂う(エキゾチックな)美人ではなく、二足歩行する狐の女の子だ。

 

 レキやミーナといった兎人族の狐版といった感じで、名前は〈ホロカちゃん〉。

 〈コラン君〉の妹分、つまり北海道胡蘭市のゆるキャラである。

 〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉にレジータが憑依していた。

 

 今僕がいるのは、アトルラン四番目の大陸〈リガムルバス〉にあるヨルドラン帝国。

 帝都から南下した迷宮都市ラーナムの、冒険者クラン〈カオステラー〉が拠点にしている建物だ。

 

 朝食を終え一息ついたところで、そのまま拠点の食堂で状況確認を始めたわけだ。

 この姿になる前の最後の記憶は、五番目の神無き大陸〈カンナウルトルム〉の外様の神の侵略拠点であった塔の外に出たところまでだが……。

 

「あれから何日経ってるんだ?」

「丁度一週間かな」

「そんなに」

 

 着実に伸びている〈コラン君〉の乗っ取り期間に背筋が凍る。

 〈義憤〉より制御しやすいはずだったのに何故乗っ取られたのか。

 次に意識を奪われたら、数か月? それとも何年? それとも……。

 

 怖くなり再び俯く僕の体を、誰かが背後からそっと抱きしめた。

 冷え切った指先には暖かい手が重ねられ、その熱がゆっくりと伝わってくる。

 背中からも広がる温かさと仄かに香る甘い匂いによって、次第に僕の緊張は薄れていった。

 

「こういう時くらい私たちを頼ってくれていいんですよ。トウジ様」

「ああ、うん。ありがとう。もう大丈夫だから」

 

 平静を取り戻すと急に気恥ずかしくなってきたので、僕はルリムからいそいそと体を離した。

 エゾモモンガの毛皮越しでは感じにくかった人のぬくもりが懐かしくて、ちょっと涙が出たのは秘密だ。

 

 ちなみに「懐かしい」のカウントは生前の数年も含まれ……おっと、これは以上は別の涙が出るから考えるのをやめよう。

 

「この体になったのは〈コラン君〉と関係あるんだよな?」

 

「そうなの。〈コラン君〉が全然引っ込まないから〈変容と不朽の神〉にお願いして、トウジ君の意識が主導権を握れる体に変えてもらったの」

 

「初めて聞く神の名前だな。つまりこの体は別に用意したのではなく、〈コラン君〉を変容(メタモルフォーゼ)させたのか」

 

 レジータの話によると塔の外で〈コラン君〉に意識を乗っ取られた当初は、そのうちトウジの意識が戻ってくるだろうと皆が楽観視していた。

 ところが数日コラン村で過ごしても一向に人格が切り替わらない。

 

 どうやら神気の供給源が〈義憤〉から〈寛容と曖昧〉に代わったことにより、人格の境目も寛容且つ曖昧になってしまったのが乗っ取りの原因のようだ。

 

 神は自らの分体を作ることが可能で、分体同士や本体は常に互いの情報を共有している。

 外様の神の潜伏先である塔内部は外界から遮断されているため、情報の共有も出来ない状態だった。

 

 それが塔の外に出て他の〈寛容と曖昧の女神〉と同期したことにより神気の力が活性化。

 人格の乗っ取りに至ってしまった。

 

 〈コラン君〉の人格が浮かび上がる条件と、神気の供給源である神の性質は密接な関係がある。

 もし先に〈時と扉の神〉が神気の供給源なっていたら、乗っ取りは無かったかもしれない。

 

 強制的にこの姿にしてもらわなかったら、永遠に意識は乗っ取られていた可能性も……。

 いかんいかん、またルリムに抱きしめられる前に気分を変えよう。

 

「細かい話だけど、サシャは女神でレジータはただの神なんだな」

「そこは各神を崇める信奉者の呼び方が反映されていたり、神本人の意向だったりかなー。サシャは後者だね」

 

 あ、はい。

 その辺拘りそうだもんねサシャは。

 

「〈コラン君〉は別に悪さするわけじゃないけど、四次元頬袋の中にいるサシャたちとは一切連絡が取れなくなっちゃったの。あと頬袋に仕舞ったものはお願いすれば出してくれるけど、新しいお酒とかは出せないみたい」

 

 当たり前かもしれないが、〈コラン君〉の人格はコラン君として振る舞っているようだ。

 饅頭や大吟醸といった〈商品〉を取り出す能力は益子藤治に与えられた能力なので、本家の〈コラン君〉には使えないか。

 

「皆で相談して、とりあえずトウジ君の人格だけでも取り戻そうって話になったの」

 

 〈変容と不朽の神〉とはその名の通り変化と不変を司っていて、変容の力で対象の姿形を変えることができる神だそうだ。

 

「どうして子どもの姿なんだ? 大人の姿の方が色々助かるんだが」

 

 子どもの体になった今、人格は取り戻したものの四次元頬袋や基本的な戦闘能力などは一切合切失ってしまった。

 

「それはルーちゃ……〈変容〉の趣味だから諦めてちょうだい」

 

 まじかよ、ルーちゃんやってくれたな。

 

「単純に体が小さい分コストが掛からないってものあるけどね。だからお願いを聞いてもらっても私のこの体は消滅せずに済んだの」

 

「う、我儘言ってごめん」

 

 これにはただ謝るしかない。

 レジータが〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉に憑依しているのは、神であることを隠すだけじゃなく、少なくなった神気を霧散させないための処置でもあったのだ。

 

「あはは。無事に? 〈コラン君〉に戻ったら沢山お酒ちょうだいね」

 

 二足歩行の狐の女の子の姿をしたレジータが、はにかみながら頭を掻く。

 

「その時は浴びる程呑んでくれ。改めて状況を確認すると、〈コラン君〉の姿から人間……人種の姿になって加護の力は使えなくなった。サシャ、エリス、ブロンディアとは連絡も取れない。こうなると解決方法は一つしかない、か」

 

 酒呑み放題という報酬を聞いて「やっほい!」と叫びながら小躍りするレジータを眺めながら今後の方針を考える。

 というか方針は色々あって脱線していたけど、元より決まっている。

 

「ラディソーマに行って〈混沌の女神〉に直談判しよう」

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