ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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303話:少年と精霊魔術

 ラディソーマというのは、今いる四番目の大陸〈リガムルバス〉では唯一 〈混沌の女神〉の本神殿がある場所だ。

 本神殿の祭壇で《神降ろし》を行なえば、あの猫こと〈混沌の女神〉と直接対話ができるそうだ。

 

 これまでに何度か《交信》で連絡を試みても繋がらず、一度は直接会えたがイレギュラーな事態だったため、こちらの要望を言う余裕もなかった。

 要望とはもちろん「人間の姿に戻してくれ」である。

 

 この世界には〈コラン君〉の姿で転生させられたわけだが、それには何か理由がありそうだった。

 理由を聞いたうえでNGであれば諦めよう……と思っていたが、〈変容と不朽の神〉にこうやって子どもの姿に変えてもらったので、他の神を頼るのもありかもしれない。

 エリスとの約束の件もあるので、まずは〈混沌の女神〉との対話が先だが。

 

 本来なら真っすぐラディソーマへ向かうはずだったが、道中で闇森人(ダークエルフ)の母子を助け、訳ありの男爵令嬢と遭遇し、シンクの姉のハクアたちの消息を追って迷宮に潜り、外様の神と戦い五番目の大陸に飛ばされ、邪人のトロールを退治し、偶然探していたハクアたちと出会い、外様の神のリベンジマッチを返り討ちにし、シンクたちと無事合流したものの、子どもの体になってしまった。

 

 まだやるべきタスクは残っているが、一旦は自分のことを優先させて欲しい。

 

「そういえばフィンとユキヨはこの体にたいして興味ないんだな?」

「そんなことないよ? リリエルと三人で真っ先に弄ったもん」

 

 あ、はい、とっくに飽きてたってことね。

 改めてトウジ少年の体を確認してみよう。

 

 体格は益子藤治の九歳か十歳頃のもので、身体能力も普通の子どもと同じ。

 〈コラン君〉のように驚異的な膂力や翼による滑空、黄色い鳥足による蹴りといった能力の他に、四次元頬袋も使えなければ、商品を取り出すこともできない。

 

 なんでも跳ね返すチートな赤いマフラーも失われてしまった。

 著しく弱体化したといえよう。

 

(姿は変わっても魔力は変わらないね~)

 

 マフラーの中という定位置を失ったため、ユキヨは僕の頭の上でうつ伏せに寝そべっていた。

 鏡越しに見る彼女は露出の高い雪女のような恰好もあって、グラビア雑誌の表紙みたいになっている。

 

「唯一変わらないのが魔力かあ。でも肝心の魔力を流す武器も聖杯もないんだよなあ。早く力を取り戻さないと」

「そうだよ。早くしないと饅頭、じゃなくてサシャたちも閉じ込められたままなんだから」

 

 今さらっと本音が飛び出していたぞ、フィンさんや。

 フィンやユキヨが豊潤な魔力たっぷりの〈コラン君饅頭〉や〈ハスカップ羊羹〉が食べられなくなったから死んでしまう、ということにはならない。

 

 元々食べない状態で生きていたのだから当然で、あくまで美味しいとか、余剰魔力が進化の糧になるとか、そういった話だ。

 ただし回復アイテムの役割もしていたため(というかこちらがメイン)、今後戦闘が起きた時のことを考えると不安になる。

 

 まるで真冬の北海道の寒空の下に、防寒具なしで放り出されたような気分になってしまう。

 大人の人間の姿に戻れたとしても、こんな調子では先が思いやられる。

 

「ほーら、大丈夫、大丈夫ですよー」

 

 じっと側で様子を見守っていたルリムが、僕の心理を素早く読み取ってあやしてくる。

 真正面から抱きしめられ、甘い香りと共に柔らかいものに包まれた。

 巨大な胸越しだというのに彼女の心音が聞こえてきて、朝食後の満腹感もあり眠気が……って子どもか、いや子どもだったわ。

 

 などと脳内でノリツッコミ出来るほどにあっさりと精神が安定した。

 母 (じゃないけど)の愛は偉大というわけか。

 もう大丈夫だと言っても放してくれないので、ルリムに抱きしめられたまま考える。

 

「魔力があるなら、ブライト伯爵に預けてある魔術具の中に何か自衛に役立つものがあるかも。この姿で会うのはちょっと嫌だけど仕方ないか」

 

 あのマッドサイエンティストに神の力で人種の子どもの姿になりました、なんて知られたらリリエルたちとは違う方向で弄り倒されそうだ。

 

「それ以外に魔力を有効に使う手段っていったらなんだろう」

 

「魔術じゃないの?」

 

「いやそうなんだけど、いくら練習しても僕には使いこなせ……いや待てよ、僕なら可能性はあるのか?」

 

転生して間もない頃、フィンの故郷である妖精の里(アルヴヘイム)で、里長のフレイヤから魔術を教わったことがある。

 フィンは順調に魔術を習得していったが、当時の僕は魔術を発現させるための構成が編めずつまづいていた。

 

 魔術というのは魔素(マナ)、構成、詠唱、魔力、発生源の五つの要素で成り立っている。

 魔素は魔術を発現させるのに必要な媒介で、構成は魔術の発現内容を決める設計図。

 詠唱は発現させるための呼び水で、魔力は発現に必要な対価。

 発生源は発現を促す存在だ。

 

 姿形が変わった今、構成が編めるか再挑戦する価値はありそうだ。

 フレイヤ先生曰く構成は唱えたい魔術を想像すると自然と脳裏に浮かぶそうなので、試しに《持続光》が発動する様子を想像してみる。

 

 ルリムの胸から顔を離し、振り向いた先のテーブルの上にあるコップを対象にした。

 これがLEDライトのように煌々と輝くのを想像して……。

 

「あっ」

 

 その感覚を説明するのは難しい。

 何故なら既存の五感で表せるものではないからだ。

 

 にも関わらずまるで最初から知っていたような、手を動かしたり歩いたりするのと同じくらい、いともたやすく行なえそうな奇妙な感覚がある。

 未知の感覚に体が驚き、ぶるりと震えた。

 

「トウジ様どうしました? おしっこですか? 一緒に行きますか?」

 

「違うしそうだとしても一人で行けるから。いやね、《持続光》の構成が編めたっぽいんだよね」

 

(ピカっと光るの? やってみて~)

 

『輝き 焼付け 熱は及ばず (たけなわ)の折りまで 天照らせ』

 

 ユキヨに急かされるまま詠唱する。

 教わったのは結構前になるが、意外と覚えているものだな。

 

「その詠唱からすると、精霊魔術なんですね」

「あっ、なんか嫌な予感」

 

 詠唱により構成が展開された。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現する。

 

 《持続光》は見事に発動した。

 それはもう大光量でだ。

 

「ぎゃーーーーー目が、目があ」

(まっぶし~~~~)

 

 まるで目の前に太陽が現れたかのような光が現れ、食堂全体が真っ白になる。

 目を閉じても光が貫通してくるものだから、皆がパニックに陥った。

 

「トウジ様、止めて、止めてくださいっ」

「これどうやって止めるの!?」

 

「構成を編む時と同じです! 光が消えた状態を想像してください」

「ちょっ、僕のお腹を目隠しに使うのやめてっ、こちょばしくて(くすぐったくて)集中できない」

 

 思わず北海道弁が出るくらい慌てたが、なんとか《持続光》の解除に成功。

 もっと魔術の練習をしたかったが、拠点内では禁止されてしまった。

 ぐぬぬ……。

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