ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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305話:少年とガレージキット

「ユキヨの魔術は普通に無詠唱なんだな」

(? だってわたしのは本当は魔術じゃないもの)

 

「え、そうなの?」

「精霊が引き起こす現象は、私たち人種が介することによって初めて魔術と呼ばれるようになります」

 

 マリスによるとユキヨがつららを生み出す行為は、我々が手足を動かすのと同じだそうだ。

 そもそも精霊は魔術が使えなかった。

 ただし発現する現象としては魔術そのものなので、定義上区別されているだけなのだが。

 

「言われてみればそうか。ユキヨは雪の精霊だから氷雪系の事象を起こすことはできるけど、魔術として炎や風を起こしたりは出来ないか」

 

 精霊というのは己の司る事象に特化した存在であった。

 

「今更だけど暖かい室内とかにいて大丈夫なのか?」

(自分で冷やすから大丈夫~)

 

 その気になれば体を冷気で覆いながら風呂にも入れるとのこと。

 果たしてそれを風呂に入っていると言ってよいのか。

 

「マリス先生、質問です」

「はい何でしょう?」

「精霊魔術以外の構成はどうやったら編めるんですか?」

 

 僕が手を上げて質問すると、マリスは少し上を向いて顎に手を当てて少し考え込む。

 綺麗な栗色の髪がさらさらと流れた。

 

「うーん、そうですね。トウジ君は精霊魔術に適正があるみたいなので、他の魔術の構成は編めないか、編めても精霊魔術の構成よりは劣ると思います」

 

 発現させる魔術を想像すると自動的に構成が思い浮かぶのだが、その際に意識して構成を変えようと思えば出来なくもないそうだ。

 また野球で例えるなら、同じカーブを違う投げ方で投げようとする、といったところか。

 

 確かに最初に覚えた、慣れた投げ方が一番カーブを上手く投げられるだろう。

 器用な人なら複数の投げ方で同等のカーブを投げられるかもしれないが、そこに労力を費やすなら他の球種を投げられるようになったほうが良いか?

 

 ちなみに構成と詠唱の紐付けも感覚的に分かるそうだ。

 魔術師の師弟関係というのは、教師と生徒というよりもコーチと選手の関係に近い気がする。

 

 手本通りの画一的な答えを示すのではなく、個人個人に合った魔術を見つけてアドバイスする感じだ。

 現代日本人だったので映画やアニメ、漫画といった媒体から様々な視覚効果(エフェクト)を見る機会があった。

 

 故に魔術のイメージはしやすいのだが、それだけでは足りないらしい。

 プロ野球選手の変化球を見ただけで投げられるわけがないので、そりゃそうか。

 

「ふうむ、それなら当面は精霊使い(エレメンタラー)トウジを目指したほうがいいのかなあ」

「……既に立派な精霊使いだと思いますけど。これはゴーレムですか?」

 

 マリスのしかめっ面の先にはユキヨと同じくらいの大きさの《氷弾》で作った氷像がある。

 正しくはロボットなのだが、この世界にロボットの概念は無さそうなのでゴーレムという表現になったようだ。

 

 某機動戦士っぽいが、こいつは電脳戦機のほうである。

 主人公機に換装パーツが追加され、全身に追加アーマーを纏い肩にはキャノン砲を担いでいる我が愛機で……って僕は誰に説明しているのか。

 

 光の精霊を行使した《持続光》はうまく制御できなかったが、ユキヨを相棒にすると異常に細かい制御ができた。

 氷の塊をロボットの姿に造形できるくらいに。

 残念ながら非可動だが。

 

 イメージだけでは足りないと言ったばかりだが、足りてしまった。

 

「私は精霊魔術に詳しくないのですが、おそらくトウジ君とユキヨさんには何か契約関係のような繋がりがあり、その影響だと思います」

 

「ずるい! トージ、私とも契約しよ?」

「いや妖精とは無理でしょ」

 

「ぐぎぎぎ」

(うへへへ)

 

 再び空中で地団駄を踏むフィンと、蕩け顔のユキヨ。

 すまないフィン……この穴埋めは何か別の形でするから。

 そもそも穴埋めする義務があるかどうかは疑問だが。 

 

 これなら精霊魔術を自衛にも使えそうだが、問題はユキヨに魔力を供給する度によろしくない声と顔になることだ。

 数をこなせば慣れるだろうか? 慣れたら慣れたで依存症になってそうで怖いな……。

 

 

 

 さて、魔術の練習ばかりもしていられない。

 ヨルドラン帝国内にある、旧ラディソーマ竜王国へ向かう準備をしなければ。

 

 拠点の食堂に戻ると帝国の男爵位を持つマリウスとクルールがいたので、旧ラディソーマについて聞いてみる。

 

「現在はモーリュ辺境伯が管理しているね。旧ラディソーマ、現モーリュ辺境伯領は帝国の西部にあり、竜渓谷と呼ばれる場所を越えた先にあるんだ」

 

「む、竜渓谷、なんか聞いたことある」

 

「その昔、帝国が版図を広げる最初の標的になったのがラディソーマ竜王国だったの。竜渓谷は当時の帝国と竜王国の境にある、亜竜たちの住んでいた谷よ。当時の帝国と竜王国を行き来するには竜渓谷を迂回する必要があった。でも最短距離で侵攻するために帝国は竜渓谷に攻め込み、棲み処としていた亜竜をすべて討伐したの」

 

「詳しいね、クルールお姉ちゃん」

「はううっ」

 

 僕がリクエスト通りにお姉ちゃん呼びをすると、隣に座っていたクルールが身悶えた。

 今日もトレードマーク(カラー?)となっている緑系の真新しいドレスが似合っている。

 出会った当初は色々な事情があってドレスも着古したものだったが、最近は兄のマリウスが迷宮で稼いでいるのでその限りではない。

 

 それにしても先程のドラミアーデもそうだが、世の女性は幼い弟の言動に対して皆こう悶えるものなのだろうか?

 前世でも一応弟だったが、姉は居なかったのでわからない。

 

「現在も竜渓谷と呼ばれてはいるけれど名ばかりで、亜竜は一匹も居ないわ。迂回して旧竜王国に入ろうとすると、竜渓谷を通るよりも三倍近い日数が掛かるの。迂回する半分の時間と兵站で竜渓谷を制圧して竜王国に侵攻したのだから、初代皇帝の慧眼ね」

 

 思い出した、竜渓谷は守護竜グラボの故郷だ。

 パソコンに挿さっていそうな名前の竜は四十余年の間、帝国に隣接するレヴァニア王国を守護する竜として君臨している。

 

 誰にも知られていないようだが、クルールの説明にあった帝国の竜渓谷侵攻の被害者で唯一の生き残りだ。

 そして生き残った経緯には猫こと〈混沌の女神〉が関わっていた。

 

「それじゃあ僕らも()()で旧ラディソーマに行くなら、竜渓谷を通るのが最短なんだね」

「そうだね……うん? 陸路以外の方法があるのかい?」

 

 僕の発言にマリウスとクルールの兄妹は仲良く首を傾げていた。

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