ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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306話:少年と選抜メンバー

「シンクに乗って飛んでいくのは駄目よ」

 

 〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉に憑依しているレジータが、両腕を体の前でクロスさせて大きなバッテンを作った。

 

「あー、なんだっけ? 縄張りみたいなのがあるんだっけか」

「そうよ。地域ごとに支配者がいるの。このあたりは〈較正神〉ね。あいつは几帳面だから見つかると厄介よ。どこまでも追いかけてくるし仲間も呼ぶし」

 

 較正神は小柱の神で、その名の通り誤りを正したり、偽りの姿を見破ることに長けている。

 秤やノギスを渡せば較正してくれそうだなあ、という感想を当時抱いたのを思い出した。

 

 各地域には支配者が存在している。

 僕の転生スタート地点だったリージスの樹海だとシンクたち竜族がそうだ。

 

 支配者は神や竜族であったり、亜神であったり、海辺なら巨大な海洋生物だったりするそうだ。

 人種は弱者故に支配者たり得ない。

 版図を広げ続けている帝国であってもだ。

 

 なので支配者を刺激しないように、帝国へ入る時は馬車の旅だった。

 

「五つ目の大陸にいた時は、支配者のことなんてすっかり忘れてバンバン飛び回ってたけど大丈夫だったぞ?」

 

「あそこは神無き大陸だからね。そもそも支配者が存在しない地域もあるの。あと支配者によっては自分の支配領域に無関心だったり、強くないから関わろうとしなかったり。〈大地熱の神〉もあれでも一応支配者なのよ」

 

 へー、あのカピバラがね。

 というわけで再び馬車の旅が決定した。

 

 旧ラディソーマ、現モーリュ辺境伯領へは竜渓谷を通る最短ルートで七日ほどかかる。

 竜渓谷の左右には険しい山脈が連なっているため、迂回するとその約三倍の二十日はかかるというわけだ。

 

 今回はもちろん竜渓谷を通る。

 〈カオステラー〉の活動費として四次元頬袋に仕舞ってあった竜族の財宝の一部を渡してあったので、それを返してもらい旅の資金に充てる。

 

 さて旅の面子だが、同行が確定しているのはレジータ、シンク、フィン、ユキヨと、ニールたちに同行しなかった竜巫女フレンの五名。

 まあ前者四名は嫌といっても勝手についてくるのだが。

 

 フレンは何か思う所があるようで、ニールと別れてでも僕に同行するそうだ。

 ちなみにフレンは僕の姿の変化には興味がないようで、マイペースに拠点でぼーっとして過ごしていた。

 

 逆に同行不可なのは迷宮挑戦中のマリウスと〈カオステラー〉の運営担当のライナード。

 クルールも兄マリウスの貴族としての仕事のフォローで留守番だ。

 馬車の定員を考慮するとあと三名くらいなのだが……。

 

「はいはい! 〈混沌の女神〉の本神殿との調整役として〈混沌教〉信者の私は必要だと思います」

「む、そうだな」

 

「はいはい! トウジ様のお世話係が必要だと思います」

「うーん、そうかも? でも三人はいらないんじゃないかな……ああ、うん、なんでもないです」

 

 いい大人が二人とも泣きそうになっていたので断われなかった。

 こうしてリリエルとルリム、アナにオーディリエの同行が決定。

 ちょっと定員オーバーだが僕とアナは子どもだから二人で一人分だろう。

 

「見事に女子どもしかいないな。襲われない?」

 

 初めて馬車で旅をした時、山賊に襲われたことを思い出す。

 全員捕まえて農場送りにしたけど、彼らは元気にしているだろうか。

 

「シナン一緒に行かないか?」

「逆に聞くが、俺をその中に放り込むのか?」

 

 心底嫌そうな顔をするシナン。

 おかしいな、僕を除けばハーレムだというのに。

 

「国境でもないですし、帝国内の主要街道ならトラブルなんて滅多にないですよ。私もトウジ君のハーレムに加わりたかったなあ……」

 

 クルールが悔しそうにしながら僕の頭を撫でる。

 別に僕のハーレムじゃないし、シナンが居てもいいと思うのだが。

 

 〈カオステラー〉の他の男といえばアレスとジェイムズがいるが、タリアとサンドラを含めた彼らのパーティーは所用でラーナムを離れていた。

 アレスは帝国の地方の豪農の三男坊なのだが、上の兄の結婚式に参加するため里帰りしているのだ。

 

 タリアも同郷で一緒に里帰りすることになったので、残り二名も仲間としてついて行った。

 そういえば彼らとの出会いも山賊に襲われた時だったな。

 

「貴族用の馬車を使えばより安全ですよ。貴族に手を出せば報復が怖いですからね。シャウツ男爵家の馬車をお貸ししますよ」

 

 マリウスそれは本当かい?

 そこまで念押しされると逆に前振りにしか聞こえないぞ。

 

「仮に盗賊の類に襲われたとしても、シンク様がいれば戦力としては十分かと」

「ん、まかせて」

 

 別のテーブルでアナと一緒にホットミルクをごくごく飲んでいた竜の幼女が、名前を呼ばれてこちらに振り向いた。

 大層などや顔に加えて、口周りにミルクの膜がくっついて髭みたいになっているので微笑ましい。

 

 

 

 

 多少不安は残るものの、それから二日かけて出発準備をして、三日目の朝に旧ラディソーマ領を目指して出発した。

 移動は馬車だが、宿泊は道中に立ち寄る村や街だ。

 

 もちろん日暮れまでには村や街に到着する計画だし、万が一野宿になってもいいようにテントも用意してある。

 とはいえどこかの四人組みたいに、宿を取る前にご飯を食べたりしない限り野宿はないだろう。

 メシより宿である。

 

 御者は経験のあるリリエルとルリム、オーディリエが交代でする。

 その横は最初こそシンクやアナ、フィンやユキヨが面白がって座っていたが、すぐに飽きたようだ。

 それ以降はフレンがぼーっとしながら座っているのが定番になる。

 

 御者台に美女二人が並んでいるので、すれ違う人の視線を男女問わず集めていたが、マリウスの言う通り盗賊に襲われるようなことはなかった。

 実にのんびりとした初日の馬車の旅を終え、到着した街で宿を取り一泊。

 

 この調子ならトラブルなくラディソーマまで行けそうだな、なんて油断したのがいけなかったのだろうか。

 

 その日の深夜、僕は誘拐された。

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