ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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308話:少年と本物の誘拐犯?

 ヨルドラン帝国は温暖な気候ではあるが季節は初冬である。

 〈コラン君〉の毛皮がある時は気にもならなかったが、人の身で夜空をそれなりの速度で飛べば普通に寒い。

 

 道産子でも寒さに慣れはするが、決して寒くないわけではないのだ。

 真冬でも屋内に限れば、北海道より関東圏のほうが寒いまである。

 

 北海道の建物は壁の断熱材だけでなく、二重窓になっていたりと保温性に優れている。

 暖房もエアコンより強力な石油ストーブが主力の家が多い。

 

 とにかく家から熱が逃げない作りなので、室内が暖まり過ぎて真冬に半袖姿でアイスを食べるという迷信? もあながち嘘ではない。

 というか僕も子どもの頃はやっていた。

 

 おばあちゃん家のストーブの前でバ○ラブルーを食べるのが至福で……。

 閑話休題。

 

 現在は暖を取る手段がないため、リリンが蝙蝠の翼を変形させて僕の体を覆うようにして巻き付いていた。

 風を完全にシャットダウンしているので十分に暖かい。

 

「ちょっと締め付けが強いんだが」

「ちゃんと締めないと感触が伝わらないじゃない」

 

「ん? 感触?」

「今夜は月が綺麗ね~。他色の月がないから目にも優しいし、見慣れた光景ね」

 

 リリンがわざとらしく話題を逸らす。

 そうか……蝙蝠の翼は感触まで分かるのか……。

 

 このアトルランという異世界の月には、大陸を守護する中柱の神が一柱ずつ住んでいる。

 つまり合計で五つの月があるということだ。

 

 それぞれの月は色が違うのだが、今宵の月は地球で見慣れた白っぽい月のみ。

 月の光とは太陽光の反射のはずだが、それが緑や赤やら黒やらあるのは、どういう仕組みなんですかね。

 たまに点滅もするし……。

 

 僕は一度〈混沌の女神〉が住まう月に至ったので、アトルランを宇宙から見下ろしたことがある。

 アトルランは球形の地球に似た惑星で、世界の端から海の水が零れていたり、地面を巨大な亀が支えていたりはしなかった。

 同じ次元とは限らないが、少なくとも地球と同じ物理法則に支配されているとは思われる。

 

「せめてもぞもぞ動かすのはやめてくれ」

「ちっ、わかったわよ」

 

 暫しの間、リリンの変形した翼に吊られながら遊覧飛行を楽しむ。

 深夜だから街の明かりは皆無で、白く柔らかい月明かりが街並みを照らしてた。

 きらきら輝く夜景もいいけど、これはこれで趣がある。

 

「それにしても人格を奪われたり、急に子どもになったりと貴方も大変ね」

「別に無理して付いてこなくても良かったんだぞ?」

 

「あら、私との約束を忘れたとは言わせないわよ」

「話し相手になるという約束か。でも話し相手ならティアネ以外にもコラン村や古戦場跡にたくさんいるじゃないか」

 

「その《意思伝達》のペンダントがあってもトウジとユキヨ以外とは話せないわ」

「いや現地の言葉を覚えなよ」

「嫌よ面倒くさい。それにね、闇の眷属に理解のある人って貴重なのよ」

 

 僕はリリンの理解のある彼くんじゃないのだが。

 

「それに話し相手もそうだけど、仲間になってとも言ったわ」

「仲間になれと言う割に秘密が多いな?」

「乙女に秘密はつきものなのよ」

 

 外様の神とその配下である闇の眷属には謎が多いのだが、リリンは僕に教えるつもりはないようだ。

 教える権限が無い、という捉え方も出来るような気もするが。

 

 仕方なく視線を眼下に戻すと、静謐な街並みの中に動くものを見つけた。

 

「うん? なんだろうあれ」

 

 僕が指をさすと、リリンがゆっくり飛行高度を下げる。

 暗い路地を何者かが疾走していた。

 

 道沿いの建物の屋根に遮られて姿が見え隠れしているが、上空からだと見失う程ではない。

 それは全身黒ずくめの人物で、小脇に麻袋を抱えていた。

 麻袋の口からは子どものものと思われる小さな足がはみ出している。

 

 抵抗する気がないのか意識がないのか、それとも生きていないのか、その足が動く様子はない。

 いずれにせよ露骨に不審な人物である。

 

「えーっと、誘拐?」

「そうみたいね」

 

 動く物体の正体が分かり満足したのか、リリンが再び高度を上げる。

 

「いやいや、放置はできないでしょ」

「私は人種と敵対する闇の眷属(ミディアン)なんだけど」

 

「人類に理解があるところを見せてもいいんじゃないか? 別にリリンは敵対するつもりはないんだろ」

「えー、敵対もしないけど仲良くするつもりもないわよ。貴方もなんでもかんでも首を突っ込むから面倒事に発展するんじゃない」

 

 それは自覚しているが、かといって無視もできないから。

 さすがにあの様子で事件性がないとは言い難いし、攫われた子? の末路を想像すると枕を高くして寝られない。

 

「対岸の火事なんだから放っておきなさいよ」

「またアトルランにはないことわざを……いや、《意思伝達》が仕事してるのか? とにかく追いかけてよ、リリンお姉ちゃん」

 

「お”っ」

 

 リリンが渋るので冗談半分でお姉ちゃん呼びしてみると、ユキヨみたいな淑女らしからぬ声が漏れた。

 どうやらこうかはばつぐんだったようだ。

 

 この妙なお姉さん受けの良さはいったい何なのだろうか。

 少なくとも地球上の当時の益子藤治少年にお姉さん特攻はなかった。

 

 今の体を作り出した〈変容と不朽の神〉ことルーちゃんの仕業?

 いずれ会って確認してみたいものだ。

 

「しょ、しょうがないなあ」

 

 照れてもじもじしているリリンと共に、誘拐犯の追跡が始まった。

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