ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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315話:少年と兄妹

「それじゃああの子は生き返ったわけじゃないの?」

 

「うん。その手前かな」

 

 僕の問いにフレンがいつも通りのぼーっとした顔で答えた。

 とても先程大量出血(致死量)したとは思えない落ち着きようだ。

 

 僕たちは今、ルブランという街の衛兵詰所の一室にいる。

 騒ぎを聞いて駆け付けた衛兵たちに、大柄の男と少年少女共々、僕らは身柄を拘束された。

 

 あれだけの出血にも関わらず死者どころか重傷者なしということで、衛兵たちは一様に首を傾げていた。

 地面や体に付着した血も《洗浄》の魔術で綺麗に洗い流してしまったので、余計に幻だったかのように感じられる。

 

 取り調べの結果、やはり男は傭兵崩れの人さらいで、少年と少女はスラム街に住む兄妹だった。

 男は少年を旧ラディソーマへ連れて行き、奴隷の少年兵として売り飛ばすつもりだったのだ。

 

 そうと知ったヘルカの怒りのボルテージは上がりっぱなし。

 自分の兄が起こそうとしている戦争のせいなのだから仕方がない。

 

 ヘルカ自身が出張ったところで、解決できないどころか悪化させる可能性があった。

 膝の上で硬く握られた拳が無念さを訴えている。

 

 さすがにここで騒ぎは起こせないので、素直に〈混沌教〉の巡礼で旧ラディソーマにある本神殿へ向かう途中だと説明した。

 僕らの処遇についてはこの場にいる衛兵たちだけでは手に余るようだ。

 

 「領主様に確認を取るため、暫くここでお待ち頂きたい」と、僕らを取り調べた衛兵長によって衛兵詰所の一室に押し込められたというわけだ。

 

 僕らは後ろ盾であるデクシィ侯爵家の家紋の入った馬車、及び通行証代わりの手形を所持している。

 しかし肝心の貴族当人がいない。

 

 邪人であるルリムとアナは身に着けている〈紆余魔折〉という魔術具によって正体を偽装しているのでセーフ。

 竜族のシンク、妖精のフィン、精霊のユキヨは人種の勢力圏では非常に珍しい存在だが、敵対種族ではないのでこちらもセーフ。

 

 シンクは竜族ではなくヘルカと同じ竜人族だと誤魔化した。

 この時点でヘルカの素性もほぼバレたようなものだが、さてどうしたものか。

 

 ちなみに〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉に憑依している〈時と扉の神〉レジータだが、神力の低下が著しく普段は活動を休止している。

 なので現在はアナが後生大事に抱きかかえた、只のぬいぐるみと化していた。

 

 そうなったのは僕のせいなので早くなんとかしたいが、今は身動きがとれない。

 というわけで冒頭の雑談に戻る。

 

「魔術で傷を癒しても意識は戻らず、かといって死んでるわけではないと……。心停止からの心肺蘇生か? ええと、心臓は止まってもすぐに動かせばまだ助かるんだよ」

 

 一般知識の範囲内で、脳への酸素供給が重要であることを皆に説明する。

 心肺が停止しても五分以内に心肺蘇生が開始されれば、そこそこの確率で救命できた……はず。

 アトルランでは心臓が止まるイコール死という認識だったようで、ルリムやオーディリエが驚いていた。

 

「へえ~。心臓よりも頭のほうが大事だったんですね」

 

「生命蘇生は神の領域です。しかし一部の伝承では人種の英雄が蘇生を行なったという記録があります。もしかしたらこれらはトウジ様の言う心肺蘇生だったのかもしれませんね」

 

「ふふん、さすがはトウジ様」

 

 何故か胸を張りドヤっているリリエルは無視するとして、

 

「フレンの血液には単純に傷を癒すだけでなく、もう一段階上の心肺蘇生を促すような効果もあるということか」

 

「多分そうかな。助けられる気がしたから血を飲ませてみたの」

 

 飲むというか溺れていたわけだが、無事生き返ったのでよしとしよう。

 さて、その兄妹は身寄りのないスラムの孤児ということで、取り調べが終わり次第放逐される予定だったが、僕が衛兵長にお願いしてこの場に残ってもらった。

 

 恐ろしい出来事に遭遇した直後だし、このまま放り出されても彼らには再び辛い生活が待っているわけで、少しお節介をしてやろうと思い立つ。

 

 兄がセリ、妹がリンという名前だ。

 二人は部屋の隅っこを陣取り、セリがリンを守るように背中に隠している。

 何故なら……。

 

「ねーねー二人はどんなところに住んでるの?」

 

(のど乾いてない? 冷たいお水飲む? 氷出すよ?)

 

 フィンとユキヨが質問攻めにしているからである。

 セリは男に攫われる際、眠り薬を嗅がされたようで意識を失っていた。

 目覚めれば衛兵の詰所で、謎の連中と一緒の部屋に軟禁されているのだから、警戒するのも無理はない。

 

「な、なんなんだよ。あんたたちは!」

 

 セリの目つきは僕と同年代とは思えない程に険しい。

 それほどに過酷な環境で妹を守りながら生きてきたのだろう。

 

 そう思うとおじさん(今は子どもだが)の目も潤んでしまうというものだ。

 一方のリンはセリと無事に再会できてほっとしているようで、年相応の可愛らしい笑顔を浮かべている。

 

 自分が生死の境を彷徨ったことはあまり覚えていないようだった。

 覚えていても辛いだけなので、そのまま忘れたままでいて欲しいものだ。

 

「ふわああああああ。かわいい!」

 

 はい、ふわああを頂きました。

 リンはいかにも女の子が好きそうな妖精さんと精霊さんを目にして、セリとは対称的にニッコニコだ。

 セリの背後に庇われているが、一生懸命身を乗り出してフィンたちに触ろうと手を伸ばしている。

 

「まあまあ、そんなに警戒しなくても取って食ったりしないから。むしろ何か食わないかい?」

 

「携帯食しかないけど干し肉と黒パン、どっちがいいかな? それとも両方食べる?」

 

 僕が動くよりも早く、ルリムが荷物の中から携帯食を取り出してくれる。

 こういう時こそ〈コラン君〉印の饅頭や羊羹の出番なのだが、生憎とストックがなかった。

 衛兵に頼んだら何か買ってきてくれたりするだろうか?

 

「い、いらねえよ」

 

 携帯食を持ってずいっと迫る褐色の肌のお姉さんにセリがたじろいでいる。

 と言いつつも視線は干し肉に釘付けだ。

 

 スラム街の孤児というだけあって、二人ともそれに相応しい体躯をしている。

 つまり痩せ細っていた。

 

 本当なら今すぐにでも干し肉に齧りつきたいに違いない。

 その日を生きるのに精一杯だと思うと、おじさんの目も潤むというもの(しつこい)。

 

「俺たちに構うな! 捕まえて売っ払うつもりだろ」

 

「そんなことしないよ。別にお金に困ってないし」

 

「じゃあなんで飯を食わせようとするんだよ」

 

「うーん、気まぐれ?」

 

「気まっ!?」

 

 僕のあんまりな物言いにセリの声が裏返る。

 

「ほら、貴族なんかがよく施しで炊き出しをしたりするだろう? あれと同じだよ」

 

 取り繕うような説明はせず、あえてストレートに言ってみた。

 セリの鋭い目つきの裏に、他者の言葉を信用しない疑り深さを感じ取ったからだ。

 

「いいのかい? 気まぐれだから、いらないならもうあげないけど」

 

「お兄ちゃん、おなかすいた」

 

「……ぐっ。わかったよ。その肉くれよ」

 

 妹の訴えに屈した兄は、ルリムの手からひったくるようにして干し肉を奪った。

 そしてリンに分け与えると、二人で一心不乱になって干し肉に齧りつく。

 その様子をルリムは怒るでもなく、微笑みながら見守っていた。

 

「それにしても、いつまで閉じ込められるんだろう。今晩はここで一泊になるのか」

 

 軟禁されている部屋は会議室のような場所で、複数の椅子とテーブルが乱雑に置かれていた。

 それらを部屋の端に動かせば全員横になれそうだが……。

 

「おまたせ。おお、本当に子どもになってるな」

 

 扉の方から聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。

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