ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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323話:少年とリリンとリン

 十分ほどしてリリンたちが戻ってきた。

 先程の出来事はまるでなかったかのように、いつも通りの余裕のある笑みを浮かべている。

 

「それじゃあ運ぶわね」

 

「う、うん。オネガイシマス」

 

 気まずさでぎくしゃくしている僕をよそに、リリンはてきぱきと眠る馬二頭と馬車の下に変形させた翼を潜らせる。

 セリとリンの兄妹は闇の眷属の魔力に抗えそうにないので、馬共々魔術で眠ってもらうことにした。

 

 翼を網のように広げて、馬の胴体と馬車の車体を空中に持ち上げると、空飛ぶ馬車のできあがりだ。

 リリン本人は御者台に座り、いつのまにかその隣にフレンがいた。

 フィンとユキヨは面白がって馬車に追従するように空を飛び、他の面子は馬車内に乗り込んでいる。

 

 遠目に見れば二頭引きの空飛ぶメルヘンな馬車かもしれない。

 しかし近くで見ると肝心の馬は眠りこけ、網状の翼から飛び出した四肢はだらんとしているので、なかなかに異様な光景だ。

 

「折角の空の旅なのに、二人に見せられなくて残念ですね」

 

「それなら機会を見て私が二人を抱えて飛びましょう」

 

 膝の上で眠るセリの髪を撫でながら呟いたルリムの言葉に、同様にリンの頭を撫でていたヘルカが答える。

 アナは窓から外の景色を眺めてはいるが心ここにあらずで、左手中指に納まっている指輪をしきりに触っていた。

 

 その指輪こそが魔術具の〈紆余魔折〉で、邪人の魔力を隠蔽している。

 闇森人という邪人であるルリムとアナは、これを常に身に着けていなければ先程のリリンのように怖れられてしまう。

 

 ある意味最悪は回避したとも言えなくもない。

 もしアナがうっかり〈紆余魔折〉を外してセリとリンの兄妹に拒絶されていたら、心に負う傷はより深いものになっていただろう。

 

 母親のルリムからは自身の魔力について説明は受けているはずだが、こうやって実際に目の当たりにしたのは初めてだ。

 アナは元々大人しいというか遠慮しがちな性格なので、更に委縮しなければよいのだが。

 

「私からしっかり言い聞かせておきますから、大丈夫ですよ」

 

 心配そうにアナを見ていたからだろう。

 ルリムからそっと耳打ちされた。

 お母さんにはなんでもお見通し、といったところだろうか。

 

 

 

 リリンの翼による遊覧飛行は竜渓谷の頂上を少し過ぎたところで終了。

 

「今晩はユキヨとシンクを借りるわよ」

 

「あ、ハイ」

 

「……じゃあよろしく」

 

 未だにぎこちない僕に何か言おうとするのをやめて、リリンは飛び去って行った。

 ここから先は馬と兄妹を起こして普通に地上を進み、小一時間で旧ラディソーマ側の麓へ到着する。

 

 こちら側には門や砦のようなものはないのだが、頂上での発光や轟音は届いていたようだ。

 登るのを躊躇った商人の馬車が数台止まっていた。

 そこへ丁度僕らが降りてきたものだから、当然質問攻めにあう。

 

「おい、あんた。頂上で何があったんだ!?」

 

「さあ? わからないわ。頂上を過ぎたところであの光と音がして、慌てて逃げてきたのよ」

 

 といった感じで御者のリリエルにはすっとぼけてもらい、その場をそそくさと後にする。

 もし彼らが無理に竜渓谷を登っても、そこにあるのは削られた標高と大穴だけで危険はない。

 通過することはできないから、登っても骨折り損ではあるが。

 

 その後は特に問題が起きることなく、夕暮れ前には本日の宿となる街に到着した。

 

「ふいー、今日は色々あって疲れたな」

 

 夕食を澄ませ、質素で清潔な宿のベッドに僕は倒れ込む。

 ダブルサイズのベッドが四つ並ぶ大部屋を貸し切ったので、今晩は全員一緒だ……ユキヨとシンクはリリンに貸し出すけど。

 

 ちらりとセリとリン兄妹を見ると、二人は仲良く並んでベッドに腰を落ち着けている。

 スラム街育ちなので最初は柔らかいベッドに慣れない様子だったが、次の夜にはもう熟睡できるようになっていた。

 

 これまでは廃墟に隠れ周囲を警戒しながら、冷たい地べたで眠るのが常だったそうだ。

 月並みな想像しかできないが、さぞかし大変だったであろう。

 

 リリン襲来によるショックも尾を引いていないようでよかった。

 あんなにギャン泣きしていたのに流石は子どもか、二人とも寝て起きてからはけろりとしている。

 

 もうリリンと会うことはないだろうしこのまま忘れてもらおう。

 などと考えていると、リンがベッドからぴょんと飛び降りて僕の元までやってきた。

 

「ねえ、トウジお兄ちゃん」

 

「なんだい?」

 

「あのきれいな服を着て羽のあったお姉ちゃん、名前はなんていうの?」

 

「……リリンだよ」

 

「あっ、わたしと名前が似てるんだ……。こわくて泣いちゃってごめんなさい。よくわからないけど、すごくこわかったの。わたしが泣いたせいでリリンお姉ちゃんも泣いてて……ごめんなさい」

 

 自分が怯えたことでリリンを傷付けてしまったのを後悔しているようだ。

 俯いて目に涙を浮かべながらスカートの裾をぎゅっと握っている。

 

 けろりとしているなんて言ってごめん、しっかり覚えているし気にしていたのか。

 いや、兄のセリはベッドの上で大の字になって既に寝ているから、あっちは間違いなくけろりだ。

 

 子どものうちは女の子の方が成長が早いなんて言うが、地球の同年代の子どもと比べてもリンはしっかりしているな。

 孤児に限らずこの世界の子どもたちは自立するため、もしくは労働力となるために早く大人になることを求められているからか。

 

「わかった。リリンにはリンが謝ってたって伝えておくよ。大丈夫、許してくれるさ」

 

「ほんと?」

 

 僕が慰めるように頭を撫でると、リンがようやく笑顔を取り戻す。

 そうそう、子どもはそうやって元気に笑ってないとね。

 

 いつも通り大人たちによる(僕と同じ)ベッドの争奪戦が始まりそうだったので、リンとアナの手を引っ張ってセリの眠るベッドに飛び込んだ。

 

「「「あっ」」」

 

 という声が聞こえてきたが聞こえない。

 今晩は子どもたちで固まって寝ることにするのだ。

 

 その夜僕は夢を見た。

 近代的なビルが立ち並んでいるので、懐かしい日本の景色……というわけでもないようだ。

 夢の中の僕は赤と黒のゴスロリドレスを身に纏い、蝙蝠のような翼を生やし、ビル群の上を飛んでいた。

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