ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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324話:少年と幻夢の廃都

 夢の中の僕が青空の下を飛んでいる。

 しかしそれは僕本人ではないため、僕の意志で体を動かすことはできなかった。

 赤黒のゴスロリドレスを着た、と(・)あ(・)る(・)彼(・)女(・)の視線を共有しているような状態だ。

 

 眼下には見慣れた近代的なビル群が広がっているのだが、妙な違和感が付きまとう。

 具体的に何だと問われると分からない。

 

 なんとなくデザインが見慣れないというか、日本っぽくないというか。

 いやまあ彼女が空を飛んでいる時点で只の日本ではないし、そもそもここは夢の中だ。

 物事に整合性を求めるほうが間違っているか。

 

 彼女の目を通して暫く空から街並みを俯瞰していると、前方で突如爆発が起こる。

 高層ビルの窓が赤く光ったかと思うと、内側から破裂して窓の硝子が空中に飛び散った。

 飛び散ったのは硝子だけではなく、オフィス用品の椅子や机、そして人。

 

 それを見た彼女は急加速。

 周囲の景色が一気に流れ、耳元で荒れ狂う風音が支配する。

 

 どうやら視覚と聴覚を共有しているようだ。

 急加速によるGや素肌に受ける風圧は感じ取れない。

 

 落下する人目掛けて全力で飛び、地面に激突する寸前に変形させた蝙蝠の翼で受け止めた。

 間一髪間に合ったが、中年男性と思われるその人物はぴくりともしない。

 

 それもそのはず、先の爆発によるものか頭部の右半分が消し飛んでいた。

 残された左目は大きく見開き、苦悶の表情のまま絶命している。

 

 彼女は男性を地面に下ろして寝かせると、手でそっと目を閉じてから再び空へと舞い上がった。

 ビルの壁すれすれを上昇し、一呼吸もしないうちに爆発のあった地点へと到達する。

 

 そこは酷い有様だった。

 何もかもが破壊しつくされ残っているのは、僅かな骨組みと真っ黒になったビルの支柱だけだ。

 

 この広い空間に先程の男性一人だけだったとは考えにくい。

 現に上下の階では慌ただしく逃げ惑う人々の様子が窓越しに見える。

 一つ階層がずれていれば、黒焦げになったのは彼らだったであろう。

 

 見通しの良くなってしまったビルの向こう側に浮かぶ犯人を見つけて、彼女は突撃する。

 勢いのまま槍状に変形させた翼を繰り出すが、対象に突き刺さる直前で見えない壁に阻まれた。

 

 衝撃を受け止めた瞬間だけ、正六角形を並べたハニカム構造のようなものが見えた気がする。

 攻撃が通らないと分かると、彼女はすぐさま飛びずさり対象と距離を取った。

 

「また現れましたね、旧世代の劣等種が」

 

 抑揚の少ない、感情の乏しい機械音声のような女性の声音が対象から発せられる。

 歌や実況動画で聞き慣れているやつだ。

 

 白を基調とした法衣の上から白金の鎧を着込み、両刃の鋸(のこぎり)のような物騒な剣を持っている。

 そして背中では純白の羽がゆっくりと羽ばたいていた。

 

 金髪赤眼の美しい女性だが、目に生気は宿っておらず表情も人形のように硬い。

 それがある種の神秘性を演出していてまるで天使のようだ。

 きっと攻撃に参加してもタップしないのだろう。

 

「ようやく劣等種たちに引導を渡し、世界に平穏をもたらす時が来たのです」

 

「前もそう言って私に壊されたのを覚えていないの? それに私たち劣等種に平穏はないのかしら」

 

「超越種(オーバーロード)たるわたしたちは唯一のわたしなのですから、勿論覚えています。わたしの平穏の礎となり死ねるのですから、それ以上の平穏はないでしょう?」

 

 彼女の問いに天使(仮称)は瞬きもせずに物騒で不可解な言動を繰り返す。

 死は救済とでも言いたいのだろうか。

 

「まったく。自己進化するシステムなんてものを造った研究者たちがまだ生きていたなら、蹴っ飛ばしてるところだわ」

 

「種の存続繁栄に個の意識など不要なのです。そのようなものがあるから争いが生まれ、傷付け合い、やがて滅ぶのです。はじめからひとつならその心配もありません」

 

「争いを生むという観点では一理もないとは言わないけれど、個を失ったらもう人間じゃないわよね」

 

「当然です。我々は人間から進化した唯一無二の、単一の存在なのですから」

 

「ならやっぱり私は人間を辞められないわ……ひとりは寂しいもの」

 

 後半は彼女の独白のようなものだったが、それを聞いた天使は「ふん」と鼻で笑う。

 その笑いも機械的で無機質なものであったが。

 

「寂しさなどという無駄な感情を持つから劣等種なのです」

 

「あら、寂しさすら感じられないなんて、進化どころか退化しているのでは―――」

 

 彼女の挑発が天使の逆鱗に触れたようだ。

 天使の姿が消えたかと思うと、急に目の前に現れた。

 

 鋸のような剣を振り上げたまま、前蹴りを放ってくる。

 その振り上げた剣は使わないんかい、という僕のツッコミは当然彼女にも天使にも伝わらない。

 

 彼女は翼を盾のように展開して蹴りを受け止めるが、その威力はすさまじく後方に弾き飛ばされた。

 爆発のあった階層へ押し込まれ、残っている支柱のうちの一本に激突しそうになる。

 

 彼女は蝙蝠の翼を羽ばたくようにして支柱に打ち付け、その反動で直角に軌道を変えた。

 直後、追いかけてきた天使の左拳が支柱にめり込む。

 

 ビル全体を揺らすほどの衝撃が走り、支柱は粉々に打ち砕かれてしまった。

 支柱は何本かあるので、一本が砕けてもビルが崩れることはないだろう。

 

 これ以上の被害を出したくないのか、彼女はビルから脱出し天使から距離を取る。

 そんな彼女を射抜かんと、天使は剣の切先を向けて光線を放つ。

 

 ちなみに光線は剣からではなく爛々と輝く赤眼からだ。

 とにかく剣は使わないスタイルらしい。

 

 再び盾状にした翼で防御した彼女であったが、赤く輝く光線は翼を貫き肩に突き刺さった。

 じゅう、という肉が焼けるような音がして肩から煙が上がる。

 

「ぐうっ。威力が上がっている!?」

 

「わたしは劣等種とは違って日々進化しているのだから当然です」

 

 攻撃が通用するのを見て、無表情な人形のような顔の口角が上がる。

 ビルの端まで来ると天使は光線を連射した。

 翼では防げないと知り高度を上げながら回避に徹する彼女であったが、どうやら天使のほうが一枚上手のようだ。

 

「避け続けていいのですか?」

 

 追いかけるように上昇して、ついに彼女の頭上を取った天使が悪魔のような笑顔を浮かべる。

 そして薙ぎ払うようにして光線を放つ。

 上を取られたということはつまり、彼女の背後にはビル群があるということになる。

 

「させない!」

 

 少しでも被害を抑えようと、天使に向かいながら彼女は翼を広げる。

 果たしてそれは最善だったのだろうか。

 

 彼女……リリンの翼と体が天使の光線によって真一文字に切り裂かれる。

 更に防ぎきれなかった光線が地上のビル群を薙ぎ払い、大爆発を引き起こした。

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