・〈コラン君〉に人格を乗っ取られたトウジであったが、〈変容と不朽の神〉の力を借りて、益子藤治の十歳の頃の姿になることにより人格をなんとか取り戻した
・改めて亡国ラディソーマへ赴き、〈混沌の女神〉を《神降ろし》して直談判することを決意。馬車に乗って出発
・道中で攫われている少女を発見。リリンと追跡する
・その少女は亡国ラディソーマの王女ヘルカだった。無謀な独立戦争を起こそうとしている兄シヴァンを憂いていた。トウジの旅に同行することに
・孤児のセリとリン兄妹を助ける。多少観光しつつラディソーマの入口の竜渓谷に到着
・竜渓谷にある帝国軍の砦を竜が襲撃。その竜はシンクの叔父アレフで、彼こそがラディソーマ初代国王であった
・竜渓谷の頂上でアレフと帝国周辺を守護する〈較正神〉のしもべが戦闘。アレフが圧勝するが、シンクに恥ずかしい所を見られて逃亡
・ラディソーマに到着。《神降ろし》しようとするが……
331話:少年と過保護な者たち
僕は自分で思っていたよりも動揺していたようだ。
ようやく〈混沌教〉の本神殿に到着し、あとは《神降ろし》をするだけのところまできた。
猫こと〈混沌の女神〉に会えば、元の益子藤治の体は手に入らないとしても、四次元頬袋の中にいる神々を救出し、〈コラン君〉に人格を乗っ取られる問題も解決するはず。
そう思った矢先に、猫からの *さがさないでください* という《交信》。
額面通りに受け取るなら、会うつもりはないから自分のことを探すな、といった失踪する人が書き置きで使うような言葉だ。
希望が……ゴールテープが見えたところで遠ざかった気がして、不意に視界が歪む。
おおっと、目から汗が。
両手でぐしぐしと目をこすっていると、周囲がざわつき空気が張り詰める。
「トウジ様を泣かせるなんて、〈混沌の女神〉様でもちょっと許せないですね」
「ん、ゆるせない」
(トウジ泣かないで~)
殺気立つ皆の様子にジャンヌとジュリア母娘が怯えている。
歪む視界越しでも分かるほど顔色が青ざめていた。
「だ、大丈夫、だから」
精神が子どもの肉体に引っ張られているせいで、感情が上手く制御できない。
しゃくりあげるような声しか出せず、皆の怒りのボルテージを上げる結果となり、落ち着くのに数分を要した。
「もう落ち着いたから、放してくれ」
「本当ですか? もっと甘えて頂いて構いませんよ?」
何故か僕はジュリアの膝の上に乗せられ抱っこされている。
慰めようと皆が取っ替え引っ替え僕を抱きしめ回し、ジュリアが最後の番だった。
人のぬくもりというのは、心を落ち着けるのに効果があることは十分理解した。
リリエルたちはさすがにもう慣れたが、初対面の人に抱かれると違う意味で落ち着かなくなる。
いくら見た目や精神が子どもに引っ張られていても、中身はアラサーのおっさんなのだ。
うら若き乙女と密着するなど、犯罪以外のなにものでもない。
ああ、もちろんジュリアの前に僕に抱き付いていたジャンヌさんも乙女だよ?
見上げると殺気に怯えていたのが嘘のように、ジュリアはどこか恍惚とした表情で僕の頭を撫でていた。
げに恐ろしきは信仰心か。
「前に会った時は嫌な素振りはなかったんだが。何か状況が変わったのだろうか」
〈残響する凱歌の迷宮〉内で外様の神〈黒茨卿〉の残骸に腹を突き破られ、治療のために〈混沌の女神〉の住まう月に至った時のことを思い出す。
時間の制約があって長くは話せなかったが、避けられている感じはしなかった。
あれ、もしかして「時間がない」ってそういうことか?
転生直後も忙しさを理由に、碌に説明もせずに去っていた。
向こうがそう言っているだけで、本当に忙しいかなんて分からない。
「《神降ろし》って当然神の同意がなければ降ろせないよね?」
「まずは《神降ろし》について説明します。《神降ろし》はこの〈混沌教〉の本神殿にある月至の祭殿にて、新月になる五日前から行なわれます。祭殿中央の霊廟に〈巫女〉が籠り、その周囲を他の信者が囲い、祈りと魔力を交代で捧げ続けます。そして新月の夜を迎えると霊廟と月へ至る道が開かれ、神が〈巫女〉の体へ降臨します」
「ううむ、やっぱり降臨を拒否られる可能性がありそう」
「過去に三度 《神降ろし》が行なわれた記録があるのですが、一度魔力不足で失敗した以外は成功しているようですが」
「問題ないわ」
アナの抱えていた〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉が突然喋った。
憑依している〈時と扉の神〉のレジータだ。
急に喋り出したぬいぐるみを見てジャンヌとジュリアが驚いている。
「《神降ろし》は確かに最後は神側の意志次第になるけど、私がなんとかする。混沌を司るが故にレン姉は色々と自由奔放だけど、今回はちょっと酷いわ。トウジが可哀想」
「なんとかするって、どうするんだ?」
「〈智慧の神〉にチクるわ」
〈智慧の神〉って誰だっけ。
「第一大陸ラクスロムアを守護する中柱の神」
僕が疑問符を浮かべていると、アナが自身が習ったことを思い出すように呟いた。
ああそうだった。
この世界は創造神によって造られ、五つある大陸は五つ目のカンナウルトルムを除き創造神の分身である中柱の神が守護している。
第一大陸ラクスロムアを〈智慧の神〉、第二大陸オルガムルカを〈混沌の女神〉、第三大陸リアドアレルを〈試練の神〉、現在僕らがいる第四大陸リガムルパスが〈地母神〉である。
「中柱の神たちは大陸が出来た順に四兄妹なの。つまり〈混沌の女神〉の兄である〈智慧の神〉から叱ってもらおうというわけ」
「その理屈だと〈混沌の女神〉って神々の中でも三番目に偉いのか」
世も末だなあ。
「というわけで先に〈智慧の神〉と《交信》したいの」
「えっ、ここでできるの?」
僕の疑問に首を横に振ったのはジュリアだ。
「《交信》はそれぞれの神の信者でしか行なえません」
「ですよね。それじゃあ〈智慧の神〉との《交信》は無理なんじゃ」
「トウジは既に《交信》が出来る場所に訪れているし、すぐに行こうと思えば行けるわよ」
そんな場所あったっけ。
これまでの旅路で〈智慧の神〉に関係してそうな場所は……。
「もしかして〈嘆きの塔〉?」
「正解」
「〈嘆きの塔〉といえば帝国北部にあり、ここからですと馬車で一ヶ月はかかってしまいますが」
すぐに行ける、という言葉に引っ掛かったジャンヌが首を傾げるが、こちらにも心当たりはある。
「ジャンヌさんたちになら教えても大丈夫か。他言無用でお願いしますね。何を隠そう、こっちのルリムとアナは《長距離転移》の魔術が使えるんです」
僕の台詞で皆の視線がルリムとアナの母娘に集まった。
二人とも注目されると思っていなかったようで、きょとんとしている。
「あっ、そうか。ラーナムにある〈
合点がいったルリムがぽんと手を叩く。
「《長距離転移》? そのような魔術の存在を聞いたことがありません。このお二人は一体……」
ジャンヌの疑問も無理はない。
ルリムとアナは闇森人と呼ばれる人種に仇名す邪人で、《長距離転移》は彼らのみに伝えられる深淵魔術なのだから。
ジャンヌとジュリアには色々と協力してもらう必要があるから、こちらの状況は一通り説明してしまおう。
そう決めて、僕は改めて仲間の詳しい紹介を二人にするのであった。