ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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332話:少年と変態(二回目)

「やっぱり室内は落ち着くわね。アウトドアも嫌いじゃないけど、連日では野生に還ってしまうもの」

 

 などと言いながら〈混沌教〉の本神殿の一室で優雅に紅茶を呑んでいるのは、闇の眷属(ミディアン)で吸血鬼のリリンである。

 連日屋外にいたにも関わらず、纏っている赤黒のゴスロリドレスや艶やかな銀髪に汚れはひとつもなかった。

 

 仲間のルリムとアナは邪人で、外には闇の眷属のリリンも待機している。

 そう本神殿を仕切るジャンヌとジュリアに伝えると、二人は異質な魔力を隠しているルリムとアナだけでなく、リリンまで受け入れて個室を用意してくれたのだ。

 さすがに他の信者には秘密にしているのでリリンは廊下側には出られないし、部屋への出入りも窓からになるが。

 

「創造神に連なる神のお膝元にいて大丈夫なの? 苦しかったり痛かったりしないの?」

 

「人を悪霊みたいに言わないでちょうだい。ちょっと魔力の質が違うだけじゃない。傷つくわぁ」

 

 その魔力の質の差が致命的で、セリとリン兄妹に泣かれリリンのトラウマスイッチがONになってしまったのはつい最近のこと。

 迂闊に引き合わせてしまった僕に原因があるので、傷ついたと言われるとぐうの音も出ない。

 

「ごめん」

 

「冗談だから本気にしないでよ。貴方を泣かせたら私が怒られるじゃない。セリとリンとも仲直り? できたら問題ないわ」

 

 そうなのだ。

 先程リリンと兄妹は再会を果たしている。

 

 心の準備ができていたこともあり、初回の時よりかなり落ち着いて会話ができていた。

 怖がってしまったことにしおらしく謝るリンを、リリンが驚いた様子で見つめていたのが印象的だった。

 異質な魔力に完全には馴染めずまだまだ距離があったが、子どもは適応能力が高いのでそのうちスキンシップできるようになるかもしれない。

 

 ただリリンは闇の眷属の中では珍しく友好的な、イレギュラーな存在だ。

 慣れ過ぎて普通に危険な闇の眷属に遭遇した時に、逃げ遅れたりしないよう気を付けなければ。

 

「それでこれからどうするの?」

 

「まず《長距離転移》でラーナムにある〈混沌の語り手(カオステラー)〉の拠点に戻って、〈残響する凱歌の迷宮〉内にある白霧街の転移装置を使って〈嘆きの塔〉に移動。塔内の〈智慧教〉に《交信》を依頼。レジータが〈智慧の神〉に〈混沌の女神〉の所業をチクって……」

 

「レン姉、〈混沌の女神〉の《神降ろし》に立ち会ってもらうわ」

 

 僕の説明をレジータが引き継いだ。

 〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉の体で腕を組み、うんうんと頷いている。

 

 《神降ろし》で神の御前まで道を開くことはこちらでもできる。

 しかしいくら扉の前でチャイムを鳴らしても、応答するかは神次第だった。

 そこで〈混沌の女神〉の兄的立場である〈智慧の神〉に立ち会ってもらい、無視できないよう呼びかけてもらう作戦だ。

 

 ちなみに儀式で捧げられる魔力量が多ければ多いほど、神への呼びかけ自体が大きくて目立つものになるらしい。

 これは是非とも大量に魔力を捧げて、こちらを無視できないようチャイムを十六連射してやらねば。

 

「なら私はお留守番かしらね。転移の魔力消費も馬鹿にならないでしょうし」

 

 〈コラン君〉謹製の回復アイテムである〈コラン君饅頭〉や〈ハスカップ羊羹〉が手に入らない今、前ほどばかすか魔術を乱用できない。

 まあ乱用できる状況が異常であるのだが。

 

 《長距離転移》の魔力消費量は距離と転移する人数に比例した。

 ここからラーナムまでは結構な距離があるので、転移する人数は最小限に絞る。

 僕とシンクにフィン、ユキヨとレジータ、そして《長距離転移》を唱えるルリムだ。

 

 ラーナムに到着後は〈残響する凱歌の迷宮〉内にある白霧街まで迷宮を進む必要があるが、その人員は向こうで確保させてもらうとしよう。

 リリンを含めた他の面子は留守番だ。

 

 セリとリンの兄妹については、これ以上僕らの旅に連れ回すことはできない。

 最寄りの孤児院に預けることも考えたが、二人の希望もあって〈混沌教〉に入信してこの本神殿で働くことになった。

 

 留守番する皆に《神降ろし》の準備をお願いしたのだが、誰が〈混沌の女神〉を体に宿す巫女役をやるかで揉めた。

 巫女になれる条件は〈混沌教〉信者であり、神の器として耐えうる健康な大人であることと、穢れなき乙女であるということ。

 

 最後の要件は時代錯誤も甚だしいが、この異世界では時代相応だから仕方がない。

 条件に当てはまるのは、ヘルカとジュリアと……。

 

「は? 私が乙女だということに何か問題でも?」

 

「いや、何も言っていないが!?」

 

 何故かリリエルが僕に対して凄んできた。

 性格が奔放だからといって、そっち方面も奔放とは限らないだろう。

 ただ奴隷時代に前のご主人様とロマンスがあったみたいだから、意外といえば意外だが。

 

「ほら! そうやって疑いの眼差しを向けるんです。酷いわっ」

 

「あらトウジ、貴方なら匂いで分かってたんじゃない? リリエルから滴る未通ならではの豊潤な血の香りを」

 

「……」

 

 僕が黙秘していると、ご丁寧にユキヨがリリンの言葉を翻訳してリリエルに伝えてしまった。

 

「未通……血の香り……はっ」

 

 察したリリエルが股間を押さえると、ガニ股の姿勢でひょこひょこと後ずさった。

 おいやめろ。

 僕を変態集団に巻き込むんじゃあない。

 確かに〈コラン君〉の嗅覚をもってすれば判別できなくもないが、しないっての。

 

「それじゃあオーティリエ、後の事は任せたよ。巫女はヘルカかジュリアにお願いしてくれ」

 

「はい、お任せくださいトウジ様」

 

「ああん、冗談、冗談ですから。私も候補に入れてくださいいい」

 

「実際問題、神を体に宿すとなると負担も大きいんだろうか」

 

 抱き付いてくるリリエルの角を掴んで押しやりつつ、変態共の所業を見て気恥ずかしそうにしていたヘルカとジュリアに話を向ける。

 

「そのようなこと、お気になさらないでください。信仰する神をこの身に宿すことができるなんて、光栄なことです」

 

「であれば純粋な人族より頑丈な竜人族の私をご指名ください。どんな苦痛にも耐えてみせましょう」

 

 お互いにそんなことを言い合い、視線の火花が散った。

 なんだかこっちはこっちでお互いをライバル視している感じだ。

 

 僕としては誰かを指名するつもりはないが、知り合って間もないジュリアにお願いするのは気が引けるかも。

 体力面でヘルカが優れているというのも一理あるし、それなら冒険者のリリエルでもいいだろう。

 

 あー、〈混沌の女神〉サイドからすると、降りたくない体とかあるのだろうか。

 ある意味リリエルの体に入るって罰ゲーム……。

 

「ああっ、また何かけしからぬことを考えていますね」

 

 ちっ、なかなか鋭いな。

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