ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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335話:少年と支部長と追跡者

 冒険者ギルド、ラーナム支店の支部長は役人然とした人族の男だ。

 くすんだ金髪をオールバックで固め、ギルドの制服は首元のボタンまできっちり閉められていて、几帳面さが伺える。

 

 何度か顔を合わせているが、普段はポーカーフェイスなナイスミドルだ。

 しかし今は珍しく驚いた表情を浮かべている。

 

「〈変容と不朽の神〉の力ですか。ここまで姿が変わるものなのですね」

 

 何故か僕がトウジであるとバレたため、支部長には事情があって姿を変えていることだけ説明した。

 

「部下から報告があった時は何かの間違いかと思ったのですが、念のため()()をかけて正解でしたね」

 

 その()()に見事に引っ掛かり、執務室に連行されたのが僕とシナンである。

 いや、僕はとぼけようとしたのだが、シナンが「あれ、なんでバレたんだ?」と呟いてしまったのがいけない。

 僕も露骨に目が泳いでいたけれども。

 

「えっと、それで処罰か何かされるので?」

 

「ああ、そういうわけではありません。ただ伝えたいことがありまして」

 

 本来なら偽名を使った二重登録は処罰対象だが、僕の立場や事情を鑑みて不問にしてくれるそうだ。

 その代わり冒険者証で僕がトウジであると看破したことは他言無用となった。

 

 支部長曰く「さすがに全ての冒険者は無理ですが、上位であったり特別に重要な冒険者は監視対象なんですよ」とのこと。

 どうやら僕が想像していた採取した血液によるデータベース化は、限定的に運用されているようだ。

 

 機密情報だから他言無用なだけであって、残念ながらプライバシーが考慮されているわけではなかった。

 個人情報なんて酒場で尾びれ背びれを付けつつ酒の肴にするのが、この世界でのスタンダードである。

 さかななだけにね。

 

「何一人でニヤニヤしてるんだ?」

 

「おっとなんでもない。それで伝えたいこととは?」

 

「ギルドマスターがトウジ様を探しています」

 

「ギルドマスターって帝都の?」

 

「はい、筋骨隆々なあのお爺さんです」

 

 そう言われてギルドマスターの姿を思い出す。

 ギルドの制服はズボンは膝から下が、ジャケットは肩から先が引き千切れて無くなっていて、丸太のような足と腕が剥き出しになっていた。

 胸元には軍人の偉い人が付けていそうな勲章がいくつも付いていて、首から上にはそれに見合った老練な顔。

 

 名前は確かリック・アーノルド。

 見た目と苗字も相まって、未来から人類抹殺のためにやってきたか、攫われた娘を救うために孤島に乗り込むあの人の姿と重なる。

 

「マスターからはトウジ様を見つけ次第、連絡するようにと言われていました。なんでも迷宮に同行したいのだとか。出入口以外での迷宮からの脱出方法を見つけ出したいようです」

 

「あー、その話ですか」

 

 さりげなく僕がシナンに視線を送ると、彼は僅かに顎を引いて頷いた。

 これならもう()()には引っ掛からないだろう。

 

 迷宮は基本的に出入口以外から外に出られない。

 しかし僕らは白霧街で〈嘆きの塔〉へと移動できる装置を発見した。

 

 この情報はフレックを通してデクシィ侯爵家にしか報告しておらず、冒険者ギルドには伝わっていないようだ。

 必要なら公爵家が情報を公開するだろうから、僕らは黙っておく。

 

「まあそれは口実で、実際はマスター本人が迷宮に潜りたいだけでしょう。トウジ様が二重登録したことはマスターにもすぐ伝わりますので、今頃帝都を出てこちらに向かっているかもしれません。もしマスターにまとわりつかれるのが嫌であれば、適当に誤魔化しておきますので、先に迷宮に入ってしまってください。そのために二重登録したのですよね」

 

「確かにまとわりつかれるのは困りますが、支部長は僕らの味方をしていいのですか?」

 

「ええ構いませんとも。マスターは周りに迷惑をかけすぎなのです。元第一位階冒険者なので現場指揮はできるし、冒険者からの信頼は厚いですが、それだけでは冒険者ギルドは回りません。なのに他の仕事はすべてサブマスターや各支部長の私たちに丸投げです。これまでどれだけマスターの尻拭いをしてきたことか。この前なんて無計画に大型魔獣を狩って、死骸が他の魔獣を呼び寄せて周辺の村に危うく被害が出るところでした。それに対して文句を言えば、今度は大量の魔獣の死骸をギルドに持ち込んで解体所をパンクさせたり……」

 

 失言しないよう身構えていたのだが、その心配は不要だった。

 代わりにマスターへの愚痴が出るわ出るわ。

 

「トウジ様の第二位階冒険者への昇格の話もマスターの独断です。しかもその目的は自分が迷宮に出張るためですから質が悪い。マスターが迷宮の深層に潜るなら、相応の同行者が必要になりますので」

 

「昇格の話は受けるつもりはなかったのでお構いなく。実力も実績も足りてないだろうし」

 

「それがどちらも足りていると言えなくもありません。大勢の目撃者の前で第一位階冒険者 〈国拳〉のオグト様と引き分けていますから」

 

 そういえばそんなこともあったなあ。

 帝都入りする時、オグトにアナが邪人だとバレて殺されそうになったのだ。

 僕が庇ったのでそのまま戦闘になったが、クルールの仲裁で引き分け扱いになった。

 

「実績とはギルドの依頼に対しての達成度合いのことを示します。なのでオグト様と引き分けたことは素晴らしい武勇ですが、ギルドの定める実績とは意味合いが違います。ただ第一位階冒険者と同等の実力なら、戦闘を要する依頼の大半をこなせるのでは? と言われれば、それはそうなのですが」

 

「強引な昇格は無用な軋轢を生みそうですね。他の冒険者も面白くなさそうだ」

 

「そう! そうなんですよ! トウジ様は分かっていらっしゃる。マスターが強引に物事を進めるから、部下や冒険者からの不満を解消するのが大変で……」

 

 しまった、支部長の愚痴スイッチを入れてしまったようだ。

 それから三十分ほど、中間管理職の大変さを聞かされる羽目になった。

 

 シナンは開幕三分で居眠りを決めこんでいる。

 おのれ裏切り者め。

 

 よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。

 愚痴り終わった支店長の顔はすっきりしていた。

 

「すみません……愚痴を言える相手というのも、なかなかいないものでして。この埋め合わせは後日必ずしますので」

 

「ははは、大丈夫ですよ。それじゃあマスターが来ないうちに迷宮に逃げ込みますね」

 

 帝都からラーナムまでは馬車で半日ほどの距離だ。

 うかうかしていると蜂合わせるので、今日中に迷宮に入ってしまおう。

 

 筋肉モリモリマッチョマンがどこまでも追いかけてくると思うと普通に怖い。

 脳内では早速あのBGMが流れ始めた。

 デデンデンデデン。

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