〈残響する凱歌の迷宮〉の第六層 〈大森林〉には蝙蝠竜のエヴァオルシム(略してエヴァ)と、闇の眷属のグレムリンたちが隠れ住んでいる。
エヴァがシンクをナンパ、もといストーキングしてきたことを切っ掛けに彼らとは知り合った。
エヴァの第一印象は最悪だったが、同族が居なくて一人ぼっちな可哀想な奴だった。
グレムリンも闇の眷属ではあるが温厚な種族で、魔術具の作成に長けている。
彼らに久しぶりに会いたい気持ちもあるが、あまり寄り道もしていられない。
歩き茸を撃退した僕たちはさくさくと迷宮を進み、十一層 〈白霧街〉までやってきた。
階層としてはここが目的地である。
あとは転移装置のある隠し部屋まで行くだけだが……。
『ほーっほっほ。そんな冴えない攻撃で私は倒せないわよ。冴えないのは顔だけにしておきなさいな』
なんとも酷い台詞を吐きながら、真っ白な巨人が棍棒を振り回していた。
裾の長いゆったりとしたローブ姿で、真っすぐで長い髪が地面に届きそうな位置まで伸びている。
顔は凛々しく美しい女性のもので、全身が白い霧から出来ているため美術品の石膏像のようだ。
この巨人は十一階層の守護者、白霧夜叉である。
その正体は〈寛容と曖昧の女神〉の分体で、〈コラン君〉の四次元頬袋内に閉じ込められてるサシャとは同一の存在だ。
白霧夜叉は先着していた僕らとは別の冒険者パーティーと戦っていた。
男だけの五人パーティーで、前衛が三人、後衛が二人だが、既に前衛の二人が地面に倒れている。
そして最後の一人の前衛も棍棒を受け止めきれず、盾と兜が弾き飛ばされた。
このままだと全滅するのも時間の問題か。
『ほらほら、根性見せなさいよ。あら、貴方の素顔はなかなかイケてるじゃない。他の連中は始末して、この子だけ攫っちゃおうかしら』
神の言葉は一般人には聞き取れないことを良いことに言いたい放題だ。
「助けはいるか!」
「すまない、頼む!」
本人たちの了承を得てから、僕たちは助太刀に入った。
マリウスが白霧夜叉の正面に立ち、棍棒の連撃を盾で受け止める。
その隙にシナンとルリムが側面から斬りつけていた。
『げえっ、またあんたたち!?』
「よーし私も」
フィンも張り切って《風刃》の魔術を唱える。
とはいえ本気を出すと周囲が大惨事になるので手加減していた。
『風舞え 凪舞え
複数の小さな風の刃が白霧夜叉を襲う。
個々がシナンたちの斬撃に負けない威力で、白い体を削ってひびが入る。
『ぐぬぬ、かくなるうえは一人でも道連れに……見たことのない弱そうなガキがいるわね。よし、死なばもろともおお!』
相打ち覚悟で白霧夜叉がこちらに突っ込んできた。
「ちぃっ、待ちやがれ」
慌ててシナンたちが攻撃を加速させるが止められない。
足や背中を斬りつけられ、体が大きく欠けてしまったがお構いなしだ。
『チェストォォォォ』
棍棒を振りかぶったまま走ってくる白霧夜叉。
「坊主、逃げろぉぉぉぉ」
助太刀した冒険者たちの一人が叫ぶのと同時に、棍棒が僕の頭の上に振り下ろされた。
熟れた果実のようにぐしゃりと潰される光景を幻視したのか、冒険者たちが顔を背ける。
もちろん幻視は所詮幻視であって現実にはならない。
ぐしゃりどころか、がきんという硬い者同士がぶつかり合う音が響き渡り、冒険者たちの視線が再び集まる。
空中に現れた半透明の分厚い板が棍棒を受け止めていた。
雪の精霊であるユキヨが生み出した《氷壁》だ。
確かに僕自身は弱いかもしれないが、護衛は非常に優秀なので僕を狙うのは悪手だと言える。
「だからある意味、誤チェストなんだよなあ」
『ゴチェ!? あんた私の言葉が? もしかして』
白霧夜叉の彫像のような顔が器用に歪む。
見た目は硬質なのにどういう仕組みなのだろう。
ちなみに優秀な護衛二号であるシンクも、棍棒を防ごうと両手をクロスさせて僕の前に立っていた。
しかしいくら僕が子どもの姿とはいえ、シンクよりは背が高い。
もしユキヨが防御してくれなければ、僕の上半身は熟れた果実になっていただろう。
「ん”っ」
振り向いてそのことに気が付いたシンクが、頬を赤くして照れ隠しと言わんばかりに白霧夜叉の脛を殴った。
ばかん、と砲弾が直撃したような轟音と共に、白霧夜叉の右足の膝から下が爆散した。
体勢を崩した白霧夜叉の顔面が目の前に降りてくる。
僕も一回くらい反撃してもいいよね? ユキヨに守られなかったら即死していたわけだし。
というわけでこっそり練習していた精霊魔術のお披露目だ。
なお氷系魔術はユキヨとの阿吽の呼吸が過ぎて、練習のし甲斐がないので除外している。
『
『顔はやめて、せめてボディーに……』
『―――槍衾』
詠唱により構成が展開される。
そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現した。
一瞬だけ、天地がひっくり返るかのように大地が揺れる。
次いで轟音を響かせながら地面から飛び出したのは、土でできた
一本一本は精々直径十センチ程だが、それが白霧夜叉の足元、五メートル四方の範囲でいくつもせり上がる。
土製ではあるが、魔素を帯びたつららの硬度はシナンたちの得物と同等かそれ以上か。
つららは白霧夜叉の体を易々と貫いた。
どこかで聞き覚えのある暮れなずんでそうな台詞を最期に、白霧夜叉の顔を含めた全身が砕け散る。
顔には直接当たらなかったのだが、衝撃が伝播してしまったようだ。
「うおっ、あぶねえ!」
僕の放った魔術 《地槍》の範囲が広すぎて、助けようと駆け寄ってきたシナンたちまで串刺しになりそうになっていた。
これには冒険者たちも目を見開き、顎が外れそうなくらい口を開けて驚愕している。
ううむ、これでも結構抑えたつもりだったのだが。