ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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339話:少年と兄弟仲

 ああ、思い出した。

 このパーティーと遭遇するのは二度目じゃないか。

 確か前回はここより一つ下の十二階層で、断頭蟷螂(ギロチンマンティス)という魔獣と僕らが戦っていた時に横槍を入れてきた連中だ。

 

 まだトラウマ治療が進んでいないマリウスが戦っていたので、本来の実力が出せず苦戦していた。

 それを見てうちの方が強いから、こっちのパーティーに入れと女性陣を口説いてきたのだ。

 まあその後すぐに〈コラン君〉だった僕が断頭蟷螂を瞬殺して黙らせたのだけど。

 

 十二階層に到達していた連中が、どうして十一階層で全滅しかかっていたのか? という疑問は事情を聞いて判明した。

 

「まさかあの傷が完治するなんて……本当にありがとう。なんてお礼を言えばいいか」

 

 僕が助けた冒険者の名前はデミトリ。

 人の好さそうな、朴訥な雰囲気の彼が〈フェイトオブディスティニー〉の本来のパーティーリーダーだそうだ。

 

 デミトリは二ヶ月ほど前に迷宮内で負傷してから休養していて、今回が迷宮復帰戦だった。

 つまり前回僕たちが遭遇したときは不在で、弟のドグルが代理のリーダーを務めていたのだ。

 

 ドグルは兄と比べると柄も性格も悪かったが、要領だけは良かった。

 他の強いパーティーの後ろを気取られない距離で尾行し、この十一階層の守護者である白霧夜叉を倒させる。

 そして自分たちも白霧夜叉が復活する前に十二階層へと降りたのであった。

 

 階層守護者の自力撃破は必須ではない。

 倒された階層守護者が復活するまでには時間がかかるので、尾行せずとも偶然ニアミスした他パーティーが通過することもある。

 また他の階層になるが迷宮の端を通過すれば、階層守護者との戦闘自体をやり過ごすことも出来た。

 

 格下をスルーするのも、格上をスルーするのも自己責任だが、後者は相応のリスクを伴う。

 それでもリスク承知で下層に潜って、より高額な魔獣の素材や宝を手に入れようとする輩は一定数存在する。

 そこにはドグルも含まれた。

 

「復帰早々で死にかけるなんて、僕は冒険者に向いてないのかもしれないな」

 

「そんなこと言わないでくれ兄貴! 復帰したてで新しくした装備に慣れてないだけだ。次はきっと上手くいく」

 

 このドグルという男、柄も性格も悪いのにめちゃくちゃ兄思いであった。

 無理して十二階層に潜ったのも、デミトリが休養している間に新しい装備を整えるためだし、真っ先に治してくれと僕に縋ったのもドグルだ。

 今も兄の無事を喜び涙を流していた。

 

「この恩は必ず返すぜ。〈カオステラー〉のトウジ様」

 

「あ、はい」

 

 初対面の時とのギャップが酷すぎて若干引いている僕がいる。

 僕も前世ではドグルと同じ弟という立場だったので、兄を思う気持ちは分からないでもない。

 いや、正直に言うなら僕は二度と兄に会えないので、ちょっと羨ましいとさえ思っている。

 

 そういえば僕が小学生の頃、中学生の兄が交通事故に遭ったことがあった。

 電話口で驚く母親の声、慌てて仕事から帰ってきた父親、病院に駆けつけると包帯から血を滲ませてベッドに横たわる兄の姿。

 

 帰宅途中に車に撥ねられ、全身擦り傷と足の骨折という怪我を負ったのだ。

 命に別状はなかったが痛ましい兄の姿に驚き、このまま死んでしまうのではないかと不安になって大泣きしてしまったのを思い出した。 

 

「トウジ?」

 

「なんでもないよ」

 

 何かを感じ取ったのか、心配そうに見上げてきたシンクの頭を優しく撫でる。

 またもや未熟な精神に引っ張られてしまったか。

 反省、反省。

 

 冒険者たちはこれでもかと僕に感謝の言葉を述べてから、迷宮から撤退していった。

 ちなみに〈フェイトオブディスティニー〉と命名したのはデミトリだそうだ。

 ……やるな、兄貴。

 

 

 

 

『さっきはよくも串刺しにしてくれたわね』

 

 〈フェイトオブディスティニー〉の面々を見送り、周囲に他のパーティーがいないことを確認してから、僕たちは白霧街の隠し区画へとやってきた。

 そこで待ち構えていたのは、仁王立ちの白霧夜叉であった。

 

 といってもその大きさはフィンと同じくらいと小さく、大人の頭の高さくらいの位置でふわふわと浮かんでいる。

 

「誰が聞いてるか分からないから、独り言も程々にね」

 

『うぐっ。まさかあんたがトウジだったとは。ちんちくりん過ぎて分からなかったわ』

 

「男神を寝取られたからって人種に手を出すのは神としてどうかと……」

 

「手を出す?」

 

『わーーー! それ以上は言うなっ。言うなーーー!」

 

 売り言葉に買い言葉で、先程〈フェイトオブディスティニー〉のイケメンに粉掛けようとしていたことを暴露しようとすると、白霧夜叉は慌てて僕の口を塞いでくる。

 僕の言葉を聞き取ったフィンが、不思議そうに首を傾げていた。

 

「じゃれるのはこれくらいにしよう。サシャを〈コラン君〉の中に閉じ込めることになってしまい、申し訳ない」

 

『別に気にしてないわよ。あんたに付いて行ったあのサシャが調子に乗ったのが悪いんだし』

 

 神は分体を作ることが可能で、個々に人格もあるが大元はひとつだ。

 〈コラン君〉の中にいるのも、先程 《地槍》で串刺しにしたのも、今目の前に浮かんでいる白霧夜も、全員が同じサシャである。

 

『それで今日はなんの用?』

 

「ちょっと〈智慧の神〉と《交信》するのに嘆きの塔まで」

 

 僕が〈混沌の女神〉に《神降ろし》を拒否られたので、〈智慧の神〉にチクりに行く旨を説明する。

 

『なんか……えらい事になってるわね。中柱同士が邂逅するなんて何百年ぶりかしら。それにしても怠惰なあのレジータがそこまで動くなんて珍しい』

 

「そのレジータなんだが、すっかり神力が衰えて困ってるんだけど、なんとかならないかな」

 

 リュックから頭だけ飛び出していた〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉を取り出し、サシャの前に掲げる。

 最近ほとんど休止状態で、ただのぬいぐるみと化していた。

 

『わざと本体と同期を切ってるから、神力も通ってないみたいね。ほら、その個体は転移でグレーゾーンなことをやってるから、同期すると臆病な本体が間違いなく大騒ぎするから面倒なのよ』

 

 神の分体同士は普段から同期―――つまり意識の共有がされていた。

 大陸間の転移は下界への過干渉ということで、公になるとよろしくないらしい。

 そこまでしてくれたレジータには、本当に頭が下がる思いだ。

 

『私の神力を分けようか?』

 

「え、いいの?」

 

『任せなさい』

 

 そう言ったサシャが〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉に近付くと、そのまま同化するようにして消えてしまった。

 次の瞬間には、ホロカちゃんがぱちりと瞬きをして、高らかに笑い出す。

 

『ふははは! ついにやったわ。これで私も外に出られる』

 

『ちょ、なんでサシャがいるの!? ここは私の場所よ』

 

『少しくらいいいじゃない。どうせあんたの神力じゃろくに動かせないでしょ』

 

『少しどころか乗っ取る気満々じゃない! や~め~て~』

 

 目覚めたレジータとの言い争いが始まり、ホロカちゃんがびくんびくんと震え出した。

 ……あれ、もしかして余計なことをしたか?

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