ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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34話:ゆるキャラと竜巫女

 いきなりのメディルの土下座に周囲がざわつく。

 シンクの咆哮を聞いて他の家から出てきたウルスス族の皆さんは、何事かと野次馬……ならぬ野次熊となって遠巻きに見ている。

 

 同様に外に出ていたヴァー君家族も驚いた様子だが、イレーヌの姿が見当たらない。

 大騒ぎになってるが、もしかしてまだ寝てるのか?

 

 ゆるキャラも急な展開に驚いたが、一番面食らったのは土下座されているシンクだ。

 

「え、ちょ、ちょっと待って。なんのこと?」

「お願いします……お願いしますっ」

 

 とりあえず土下座をやめさせようと腕を掴むが、メディルが必死過ぎてなかなか地面から離れない。

 シンクは見た目は幼女でも竜の膂力を持っているので、その気になればメディルを持ち上げることも容易だが、怪我させるのを恐れて無理も出来ないようだ。

 困り果てたシンクが涙目になってゆるキャラに助けを求める。

 

「ト、トウジ。たすけて」

「はいはい、メディルも一回落ち着こうね」

「ぷっはー、美味しかった。あれ、みんなどうしたの」

 

 自分の体の半分くらいの大きさの羊羹一本を、まるで恵方巻のように一気食いしていたフィンは、食べ終わってようやく周りの騒ぎに気が付いた。

 相変わらずマイペースな奴である。

 

 興奮状態で泣きながら土下座しているメディルをどうにか落ち着かせて、ヴァー君宅の客間で今度こそ詳しい事情を聞く。

 メディルの事情をまとめるとこうだ。

 

 

 

 メディルはリージスの樹海の外、近隣にあるコノギ村という小さな村で姉と二人で住んでいた。

 人種の父親と狐人種の母親は、メディルが物心付く前に二人とも流行り病で死んでいる。

 両親は村の外の出身でコノギ村には親戚もいないため、当時子どもだった姉妹は生きる術もなく路頭に迷ってしまった。

 危うく村の共有財産の奴隷として売られるところだったが、そんな姉妹を不憫に思った隣人の猫人族の女性が後見人となり助けてくれた。

 コノギ村は亜人に対する差別意識が強く、決して住みよい場所とは言えなかった。

 それでも三人は仲良く肩を寄せ合って静かに暮らしていた……のだが、事件は一ヶ月前に起きた。

 守護竜に捧げる生け贄として、姉が選ばれたのだ。

 一年に一度、リージスの樹海及び近郊を支配する守護竜に捧げる生け贄として、うら若き乙女を竜巫女(たつみこ)として祭る儀式があった。

 樹海の入り口に竜の信奉者が建てた神殿があり、そこで竜巫女の生き血を捧げる儀式だ。

 体内の血を全て捧げるため、竜巫女は命を落とすことになる。

 毎年支配内の街や村々が持ち回りで竜巫女を用意していて、今回はコノギ村の番だった。

 竜巫女に選ばれる基準はうら若き乙女で、尚且つ()()()()()()

 村長からの命令に対して、後ろ盾も何もない亜人の娘に拒否権は無い。

 無論メディルと猫人族の女性は猛反発したが、姉本人が二人を説得して正式に竜巫女となってしまった。

 メディルは最後まで納得できず、直談判しに村長を訪ねるとこう罵られた。

「ならば代わりの生贄をお前は用意できるのか?お前の姉の代わりに死んでくれる娘を用意できるなら、交換してやってもいいぞ。亜人のお前が用意できるならな」

 当然そんな相手がいるはずも無く、メディルは何も言い返せなかった。

 そして村長の次の言葉に凍りつく。

「そもそもお前が竜巫女のはずだったのに、姉が懇願してきたから代えてやったのだ。自分の命が助かっただけでも有難く思え」

 確かに姉は竜巫女に選ばれるには少し年齢が上であった。

 まさか、自分の代わりだったなんて……。

 姉が必死に説得してきた理由を知って、目の前が真っ暗になる。

 唯一の肉親である姉を犠牲にして自分だけ生き残るなんて出来ないし、姉に死なれるくらいだったら……。

 そしてメディルは決心した。

 姉を再説得はできないだろうし、生け贄の舞台となる神殿に乗り込んでも途中で止められるかもしれない。

 ならば守護竜に会って直接懇願するしかない。

 こうしてメディルは誰にも何も伝えず、一人でリージスの樹海を目指して出発した。

 

 

 

 聞くも涙語るも涙の物語が終わると、号泣している熊さんが二人。

 ヴァー君ママと朝帰りのロブ嬢だ。

 

「なんて可哀そうなんでしょう!」

「辛かったよね、大変だったよね」

 

 ヴァー君宅の客間には椅子が四脚しかないので、メディルとシンク、フィンとゆるキャラ以外の面々には申し訳ないが立ち聞きして頂いている。

 客間の入口付近で話を聞いていた熊系女子二人は、巨大なタオルのようなハンカチで涙を拭いたり、噛みついたりして……千切れた。

 

「よく一人で樹海に入って無事だったな」

「いや、私たちの発見が遅れたら命は無かっただろう」

 

 一方で冷静に分析しているのが、ヴァー君と寝坊したイレーヌだ。

 ヴァー君パパも横で静かに頷いている。

 

 イレーヌはまだ完全に覚醒していないのか、普段と違ってダウナー系な雰囲気を醸し出している。

 普段から凛々しいので朝が弱いのは意外だな。

 

 フィンは会話の内容に興味がないのか、話の間ずっとメディルの狐の尻尾の手触りを楽しんでいた。

 メディルもよく気にならなかったな……。

 

「それで、生け贄なんてもらってるのか?」

 

 ゆるキャラがそもそもな疑問をシンクに投げかけると、皆の視線が一斉に赤い髪の幼女に集まる。

 一部からの非難するような視線を感じ取ったのだろう。

 シンクが再び涙目になりながら慌てて口を開く。

 

「だからちょっと待って。生け贄ってなんのこと?私は知らない……」

 

 リージスの樹海を守護する絶対強者である竜族のわりに、彼女は以外と他者からの非難に弱い。

 でもまあ守護竜の代理の代理だから仕方ないのか。

 シンクにしらばっくれられてメディルも慌てる。

 

「お願いします!私はどうなっても構いません。だからお姉ちゃんは許してください。守護竜グラボ様!」

 

 ……ん?グラボ様?

 なんだそのパソコンに差さってそうな竜の名前は。

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