(大丈夫。ほんの少しトウジの魔力が混ざってるだけだから大丈夫~)
朱の差した顔のユキヨがそんなことを念話でのたまう。
酔っ払いの酔ってない発言くらい信用がならない。
実際魔力酔いの状態だし。
僕の魔力供給によって発生した大浴場のお湯には、案の定僕の魔力自体が含まれていた。
幸いにもユキヨ以外で体に変調をきたした者はいなかったが、これは危険だろう。
だから大浴場の閉鎖を訴えたのだが……。
「見てくださいトウジ様。こんなに肌艶が良くなったんですよ。これを閉鎖だなんてとんでもない」
「そう? 元からジャンヌさんの肌は綺麗だと思うけど」
「ふあっ……そんなことはありません! ほら、触ってみてください!」
僕の言葉に一瞬変な声を上げたジャンヌであったが、すぐさま僕の両手首を掴んで自身の頬を包み込むようにして触らせる。
うん、湯上り直後のしっとりもちもちの上気した肌だね。
「湯上りならこんなものでは?」
「いいえ、普段の湯浴みではすぐにかさかさのぱさぱさに戻ってしまうのです。ところがトウジ様のお湯だとまるで十歳は若返ったようです!」
あー、いわゆるお肌の曲がり角を経験しているからこそ、細かい変化に敏感になっているのかな?
直接は聞いていない(否、聞けない)が、若くしてジュリアを生んだジャンヌの歳は、僕の中身である益子藤治より少し上くらいのはずだ。
まだまだ若いと思うのだが、どうしても娘のジュリアや長命種であるヘルカたちと比べてしまうようだ。
あとそろそろ手を離して欲しい。
次第に頬を挟む力が強くなって変顔になりつつあるから。
妙齢の美女の変顔はなかなか破壊力があるので。
「う~ん、でももし僕の魔力に当てられて具合が悪くなる人が出たら困るし……」
「入浴者の体調は厳しく監視するようにします。だからどうかお願いします!」
結局ジャンヌ及び第二陣で入浴して効果を実感した、〈混沌教〉信徒の妙齢の女性陣の懇願により、僕が滞在する間は大浴場を維持することが決定した。
本当に美肌効果があるかはさておき、僕の魔力に当てられる人が出ないか心配だったが、その後もユキヨ以外で酔っ払いは現れなかった。
あまり気にしてもきりがないし、ユキヨが稀有な例ということで納得しておこう。
鬼気迫る女性陣にきょうは……説得されたら仕方ないよね。
一回の魔力供給でお湯は三時間ほど出続けた。
「これって単純にお湯が出る装置として効率が良すぎない? 僕全然魔力を消費しないんだけど」
「普通は百人規模の魔力が必要なので、効率はむしろ悪いくらいですよ」
「そうだった」
ジュリアの指摘を受けて僕はぺちりと額を叩く。
文明レベルという意味ではアトルランは地球よりだいぶ劣るが、その代わりに魔術や神の加護がある。
飲み水だって魔術で生み出すことが可能だが、それは才能のある者だけに出来ること。
使い方を覚えれば誰でも使える道具とは違うので、地球以上に格差を生んでいるという側面もあった。
「母のわがままを聞いてくださりありがとうございました。病弱だったのが嘘のように元気になりました」
お湯の成分については詳しく調べるそうだ。
ジャンヌは美肌効果に喜んでいるだけのはずだが、もし他に効能があるのなら解明しておいてもらいたい。
後になって健康被害が出たら大変だ。
「まあこっちも《神降ろし》でお世話になるし、少しは恩返ししないとね」
というわけで探検隊セカンドシーズン到来。
今日も探検をしつつ、各所の施設に魔力供給をする計画だ。
ちなみに前回の引率役を見事に放棄したフレンは解雇である。
別名ぐっすり寝ていて起きなかったら連れて来なかったとも言う。
フレンは日によっては半日以上寝ていることもあり、今日がその日だったのだ。
これも長生き故の弊害なのかもしれない。
「それでは各施設の魔力供給部屋へご案内します。トウジ様の魔力供給する前の壁は崩れやすいですから、触らないでくださいね」
「「(「「はーい」」」)」
今回はセリとリン兄妹も参加していた。
本人たちの希望で〈混沌教〉に入信したからには、しっかりと教育を受けてもらっている。
と言っても二人は元孤児なので、まずは言葉遣いや簡単な礼儀作法を覚えるところからだ。
幸いにも新しく若い信徒は、本神殿の人々に好意的に受け入れられた。
《神降ろし》だけでなく二人の面倒を見てもらうお礼としても、張り切って魔力供給しようじゃないか。
「これなあに?」
「トウジ」
「こっちは?」
「おかあさん」
前回訪れた教室の黒板に残されていた名状しがたい落書きの説明を聞いて、セリとリン、そしてジュリアが首を傾げていた。
そうそう、普通はそんな反応になるよね。
教育区画には大浴場のようなめぼしい施設はないと聞いていたのだが……。
「トウジ! なんか裏から変な扉が出てきたよ!」
「ん! たんけんする」
「ちょ、待って待って」
好奇心を隠せないシンクが突撃しようとするので、竜の尻尾を掴んで必死に止める。
その鉄製の扉は、隣の教室の黒板の裏に隠されていた。
魔力供給で劣化していた壁が修復された影響で、壁に打ち付けてあった黒板が外れて倒れたことにより露見したのだ。
「こんな場所に扉があるなんて知りません……」
「ジュリアもこう言ってるし安全を確かめてから」
「ん、わたしがいれば大丈夫。あんしんあんぜん」
その気になった竜族の動きを止められるわけもなく、珍しく言うことを聞かないシンクに僕はずりずりと引っ張られる。
魔力供給により修復されているからか、歪みも錆びもない鉄扉が音もなく開かれた。
そこは魔力供給部屋と同じくらいの小部屋で、中央には混沌の女神像の代わりに台座がある。
台座に鎮座しているのは珍妙なブレスレットで……ええ……。
(わ~なにこれ~)
「ん、へんな形」
「変な形と色だね。でもどこかで見たような」
「トウジ様、どうしたの?」
腕を組み天を仰ぐ僕を見てアナが不思議そうに聞いてきた。
「どうして……こんなところに、コランカイザー変身ブレスレットがあるんだろう」