ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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349話:少年とご当地ヒーロー

 説明しよう! 〈コランカイザー〉とは北海道胡蘭市をこよなく愛し、胡蘭市“だけ”の平和を守るために、日夜働き続けるご当地ヒーローである!

 

 というわけで〈コランカイザー〉は胡蘭市のご当地ゆるキャラである〈コラン君〉と双璧を成す町おこしキャラクターだ。

 しかし実は〈コラン君〉が胡蘭市公認なのに対して、〈コランカイザー〉は市民有志が結成した活動団体の自主活動であり、胡蘭市公認ではない。

 

 では人気がないかと言われればそんなことはなく、〈コラン君〉に負けないくらい地元のイベントに引っ張りだこだった。

 〈コラン君〉の中の人である僕はよく〈コランカイザー〉とイベント会場でバッティングしたものだ。

 

 〈コランカイザー〉は胡蘭市の花である胡蝶蘭とオジロワシをモチーフにしていて、戦隊ヒーローと仮面ヒーローの中間くらいのビジュアルをしている。

 オジロワシの嘴を模したヘルメットに、胡蝶蘭の花弁とオジロワシの羽を掛け合わせた装飾が胸の真ん中に付いていた。

 胡蝶蘭の花弁は左右が大きいのが特徴だが、その部分がオジロワシの羽になっているので、まるで翼を広げているかのよう。

 

 公式と非公式なのに何故どちらも〈コラン〉の名を冠しているかといえば、デザイナーが同一人物だからだ。

 〈コランカイザー〉のほうが後発で公式化の話もあったが、尖ったデザイン性もあり見送られた。

 

 まず色は全身真っ黒である。

 しかも艶消しの塗料を多分に使用しているので、日陰に入ると視認性が著しく悪い。

 

 手足はライダースーツの上から包帯やベルトを幾つも巻きつけたような造形なので、正義の味方というよりは悪の怪人(ヴィラン)に見えた。

 設定も詳細は覚えていないが、負の力に抗いながら戦う、みたいな感じだったはず。

 

 個人的にカッコいいとは思うのだが、町おこし用ご当地ヒーローとして運用するには不向きなデザインだろう。

 胡蘭市出身のデザイナーが趣味で作りSNSで公開されていた〈コランカイザー〉だったが、有志によって衣装が作られご当地ヒーローとしての活動が始まると、その意外性が受けて人気が出たのであった。

 

「これってブレスレットなの?」

 

 シンクが台座に置かれた〈コランカイザー変身ブレスレット〉を手に取り、自分の腕に嵌めてみる。

 成人男性用の真っ黒なブレスレットは、シンクの小さい手首を通り越して二の腕で止まった。

 

「私にも貸して貸してー」

 

 フィンがシンクから強奪して真似するが、妖精サイズなので二の腕も通り越して(たすき)のようになっている。

 

「コランカイザー……聞いたことがあるような……。トウジ様、すみませんが書庫で調べたいことがあるのですが」

 

 ジュリアの希望で教育区画内にある書庫へと移動する。

 その部屋の中央には机が一つあり、それを囲うように棚が配置され、びっしりと本や書類が収まっていた。

 

 ここは先程の魔力供給の範囲外にあったようで壁や床は古いままだ。

 古い紙や羊皮紙が沢山あるからか若干黴臭い。

 

 ジュリアが鍵付きの机の引き出しから古びた本を取り出し、机に置くと丁寧にページをめくる。

 

「この本が〈混沌教〉の聖典なのですが……あ、ありました。ここに〈コランカイザー〉の記述があります」

 

 ジュリアの指し示す先には黒い人型の挿絵がある。

 保存状態の問題なのか、すっかり輪郭がぼやけてしまっている絵だけでは〈コランカイザー〉とイマイチ断定できなかった。

 

「文章はなんて書いてあるの?」

 

「闇に堕ちたる力をカショーにより有るべき姿へ誘う者 千変を見通し万化を操る混沌の(しもべ)……とあります」

 

「あー思い出した。煆焼(かしょう)だ」

 

 煆焼は〈コランカイザー〉の変身フレーズだ。

 言葉の意味としては鉱石などの固体を加熱して揮発成分を除去する、というものらしいが、ここでの用途は某宇宙刑事の変身フレーズ〈蒸着・赤射・焼結〉のオマージュである。

 〈コランカイザー〉の中の人である田淵君が僕に熱心に教えてくれたのを思い出す。

 

 田淵君は〈コランカイザー〉を立ち上げた有志の一人で、よくバッティングしたイベント会場のバックヤードで話をしたものだ。

 ゆるキャラとヒーローという差はあれど、同じ中の人ということもあり田淵君とは仲良くなった。

 彼は今も元気にご当地ヒーローをやっているだろうか。

 

「ちなみにちらが〈コランクン〉の記述です」

 

 別のページにはやはり輪郭がぼやけた、頭身の低い雪だるまのような挿絵があった。

 

「〈コラン君〉も〈コランカイザー〉も普通に聖典に出てくるんだな」

 

「〈混沌の女神〉様の使徒の方々なのですから当然では?」

 

 現地人的にはそうなのだろうけど、素性を知っている僕からすると不可解でしかない。

 アトルランと地球の時間軸は同一なので、太古から〈コラン君〉と〈コランカイザー〉が存在するというのはおかしな話だ。

 

 しかしニールがやってきた平行世界の地球も存在していることから、時間軸がずれた別の平行世界があっても不思議ではない。

 そういうものだと納得するしかないのだろう。

 

「結局これってなんなの」

 

「〈コランカイザー〉っていう〈コラン君〉の親戚? みたいなのに変身する道具なんだよ」

 

 襷がけを通り越してベルトのように変身ブレスレットを装着しているフィンに返事をする。

 見てなかったけど、どうやって背中の翅を通過したんだろう。

 

「変身!? どうやって変身するの?」

 

 変身と聞いてわくわくしだすキッズ。

 大層に隠してあったのだから、このブレスレットは本物のはずだ。

 

「試しにやってみるか。狭いから廊下に出よう」

 

 変身ポーズは田淵君に教わったので覚えていた。

 フィンからブレスレットを受け取り腕に通し、両足を開いて構える。

 ブレスレットの嵌っている右腕を水平に持ち上げ、小指から順に握り拳を作ると合言葉を唱えた。

 

「―――煆焼」

 

 ………

 ……

 …

 

「何もおこらないね」

 

 って変身できないんかい!

 期待で輝かせていたキッズの目が失望のそれに変わる。

 なんだか僕が失望されたみたいで非常に解せぬ。

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