「Guruuuuuuuun(あー! やっぱりレーちゃんだった。やっほー元気にしてた?)」
『ちょっ、やめ……』
『やめなさいよ! あんたのざらざらな舌で舐められたら、ホロカちゃんがぼろぼろになるでしょーが!』
雷虎が毛づくろいをするかのように〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉を巨大な舌で舐めまわすものだから、憑依しているレジータとサシャの両方が抗議した。
まあレジータのほうは声を詰まらせていたが。
「Gauuuu?(あれ、マーちゃんもいるんだー。久しぶりー)」
サシャの怒りをスルーした雷虎が、器用に口角を上げてにかっと笑う。
僕らは今、空駆ける雷虎の背中に乗って遥か上空にいる。
地上に巨大な虎が居座り続けるわけにはいかず、かといって郊外まで行くのも手間なので、ひとまず人目を避けられる場所へと逃げたわけだ。
雷虎の背中には僕とシンク、フィンとユキヨといったいつものメンバーが跨っている。
そしていつも通り物怖じせずに雷虎の毛並みを堪能していた。
「ふわああ。ふわっふわだ」
(気持ちいいね~)
「ん、うちの子にする」
さすがに神様は無理じゃないかな、シンクさんや。
かくいう僕も地上で肉球を触らせてもらったが。
絶妙な湿っぽさと弾力……うむ、あれは良いものだ。
雷虎が僕らの前に現れた目的、それはレジータだった。
「Gaugau(レーちゃん会いに行っても全然扉開けてくれないんだもん。なので気配見つけたらから来ちゃった)」
『だって私は……』
『だからって人の多いところに突然降りてくるんじゃないわよ! 迷惑じゃないの!』
「Garuuuu(マーちゃんマジで怒っててちょーうける)」
『むきーーー! あんたってほんとむかつくわね。どうしてこんなのが男神にモテるのよ!」
ホロカちゃんの体がわなわなと震えている。
マーちゃんというのはサシャのことだ。
確か神々には真名があって、〈寛容と曖昧の女神〉であるサシャの真名がマーなんとかだったはず。
一度聞いたが忘れてしまった。
それにしてもこの雷虎はなんだかギャルみたいな口調と性格をしている。
しかもちょっと古めの……古いといっても地球の日本基準の話だが。
見た目は白虎だが陽キャのオーラが漂っている。
区分するなら間違いなく陰キャなレジータやサシャとの相性は悪そうだ。
『特に用もないなら帰りなさいよ』
「Gau(えーもっとお話しようよー。目的地があるならこのまま送ってくからさー。てかなんで二人で狐? のぬいぐるみに憑依しているの? 竜の子やレンねーさんの使徒の子と一緒にいるの? あ、そっちの妖精の子はライにーの加護持ってるね。精霊の子は……すごっ進化してるじゃん珍しー」
めっちゃ喋るじゃんギャル雷虎。
虎の鳴き声よりも副音声として聞こえる《意思伝達》の翻訳語がメインになっちゃってる。
もっとちゃんと吠えて?
「サシャよりモテるってことは、人としての姿もあるんですか?」
『は? (威圧)私のほうがモテるし。何勝手に比較対象にしているのよ』
「Ga(あるよー。後で見せてあげよっか? てか敬語なんて堅苦しいからやめよー)」
〈校正神〉サイドの情報も仕入れたかったので、雷虎の提案を受け入れることにした。
てか本人が満足しないと帰らなそうだし……。
地上の馬車で待機しているルリムやヘルカたちには、そのまま王宮に向かうようユキヨに伝言してもらう。
以前に竜渓谷の頂上でアレフと戦った時の雷虎は好戦的で恐ろしく見えたが、こうして話してみると気さくなギャル(虎)であった。
がうがう唸る雷虎の話によると、〈校正神〉とアレフには因縁があるようだ。
「Gaugau(コーちゃんは五百年前にアッくんに告白してフラれてるの。だからアッくんの相手が寿命で死ぬのを待ってアタックしようとしたんだけど、アッくん実家に帰っちゃってさー。コーちゃんもう激おこってわけ)」
コーちゃんが〈校正神〉でアッくんがアレフかな?
「ということは竜渓谷での戦いは痴情のもつれってこと?」
「Gugugu(使徒の子が辛辣でうけるー。半分はそうだけどもう半分は違うよ。アッ君が人種に過剰に肩入れするから阻止するのが目的だったの)」
今から遡ること五百年前、アレフは人種の奴隷だったカチュアに一目惚れした。
そして当時は無数の小国家群があったこの地をまとめあげ、自らを王に、カチュアを王妃としてラディソーマ竜王国を建国したのであった。
雷虎によるとその建国行為が地上への過剰な介入と判断され、〈校正神〉が建国を阻止しようとしてひと悶着やなんやかんやあった結果、コーちゃんはアッくんに惚れたんだそうだ。
ユキヨの翻訳で会話を聞いてるシンクが、叔父さんの恋バナに目をきらきらさせている。
妙に近代的な服装をしていた〈校正神〉の姿を思い出す。
アレフに対して怒りを露わにしていたが、その内には複雑な感情があった模様。
可愛さ余って憎さ百倍というやつか。
「そのなんやかんやは置いといて、神と竜の恋愛ってありなの?」
「Garun(ダメっていう決まりはないよー。あるのは地上に迷惑をかけないってことだけ。だからあたしと使徒の子が仲良ししても問題なし。そうなったらさっきみたいに肉球を好きなだけ触ってもいいのよ……痛い! 冗談だから毛を引っ張らないで竜の子!)」
「言葉も通じないのによくやるなあ。あれ、そういえば〈校正神〉はアレフと普通に会話してたね?」
「Gauu(コーちゃんは一帯の管理者だから意思の疎通が許されているの。職権乱用もいいいところよねー)」
『その手があったか!』
ぽむ、とホロカちゃんの手を叩くサシャ。
『私も管理者になれば人種と直接会話ができるじゃない。そうしたら迷宮に来たイケメンをゲットできる!』
「Gaaaaa(いくら神々からモテないからって人種はやめときなよー。寿命が違い過ぎてすぐ死別しちゃうよ。悲しみでまた地上に瘴気を撒き散らしたら、今度こそ邪神認定されちゃうよー)」
サシャは過去に失恋して地上に瘴気を垂れ流し、それを鎮めるため人種に〈嘆きの塔〉を建立させたという前科がある。
雷虎の言う通り人種を伴侶にして死別でもしようものなら、また発狂して今度こそ邪神になりそうだ。
「……うん、迷惑だからやめて欲しい」
『なんでよっ。誰にも相手してもらえないんだから仕方ないじゃない。この際トウジでもいいわ。どうせあんた神格を得て……いたたた! 千切れるっ』
二重に不穏な発言が聞こえたが、むすっと膨れっ面のシンクがサシャの両腕を掴み、左右に引っ張ったので中断された。
「だめ、トウジはわたしのつがいなの」
『きゃああああああ! なんで私までっ。お願いやめてっ』
サシャと一緒にホロカちゃんに憑依しているレジータも痛みで悲鳴を上げた。
「(あははうけるー)」
からからと雷虎が笑った。
……だから吠えることを放棄しないで?