皆でぎゃーぎゃーと騒いでいるうちに、旧ラディソーマ王宮の上空付近に到着した。
さすがにこのまま入ることはできないので、雷虎には大通りから少し離れた人気のない裏通りに降りてもらう。
『はい、これがあたし人の姿。イケてるでしょー』
雷虎がカメラのフラッシュのように一瞬だけ光る。
眩しさで瞬きした次の瞬間には、巨大な白虎の姿は掻き消え、代わりに一人の少女が立っていた。
「うわあ」
その姿を一言……いや、一息に言って表すなら、巫女服黒髪ツインテミニスカニーソ白ギャルである。
属性の過多が過ぎる。
思わず頭痛が痛いみたいな言い回しになってしまった。
ギャルメイクをばっちり決め、ゴテゴテのネイルをした指でダブルピースまでしている。
てか巫女服なのにミニスカってお水感が……まあユキヨの雪女風着物もミニスカなので見慣れてはいるが。
『ちょっと、なんで引いてるのよー』
「質問なんだけど、その見た目って自分で決めてるの?」
『どゆこと? あたしは創造神のマミーに作ってもらった時からこの姿だけど』
ということは創造神の趣味なのか?
神々や竜族、精霊や闇の眷属が纏う〈衣装〉は、アトルランに住む一般人の服より妙に洗練されている。
現地人からすると謎の高度な縫製技術、謎の上部で上等な素材で出来ているように見えるだろう。
僕からすれば現代の地球で作られた既製品、もしくはコスプレ衣装にしか見えないのだが。
だってシンクの赤いワンピースの襟元の裏には……。
「いや、この世界とはかかけ離れたデザインだなと思って」
『あーそれはね、多次元世界の同一個体の、ってこれ言っちゃだめなやつだった。詳しく知りたい? それなら今すぐ神格を得て―――』
「じゃあいいですー」
そしてこうした世界の根幹? に関わる話となると、必ず神にならないかと勧誘がくるのでお断りするのであった。
余計なことは知らないほうがいいので……。
『ぶー。まあ気が向いたらあたしでなくてもレジータやサシャに言ってね。すぐ手続きしてくれるから。てかレジータに会いに来たのに、全然喋ってくれないじゃん』
『だって別に用事ないし……』
『用がなくたって会いたいものなのー。もー』
雷虎がホロカちゃんを抱きしめて頬ずりするので、レジータがじたばたもがいている。
『だって雷虎は私とあまり親しくない神も連れてくるし』
『えーわかったよ。じゃあ今度レーちゃんちで二人で女子会やろう。〈酒神〉から美味しそうなお酒貰っていくから。それならいい?』
『……うん。それならいい』
お、なんかレジータがデレてる。
別に雷虎が嫌いなわけでなく、他の親しくない神が嫌だったようだ。
「雷虎は呼び名もそのままライコなんだな。なんとかの神ではないの?」
『その辺も自由だからねー。統一感はないかも』
「そういえば自称女神(笑)もいたな」
『ちょっと今私のことを馬鹿にしたでしょ!』
構われるのが嫌で、ホロカちゃんの中で大人しくしていたサシャが声を荒げた。
ちゃんと自覚しててえらい。
『そしてなんで私を女子会に誘わないのよ』
『えーだってマーちゃんフラれた男神の愚痴しか言わないしー』
『あんたらは黙っててもモテるんだから、少しくらい私の愚痴を聞いてくれてもいいじゃない』
だからモテないのはそういうところだぞサシャよ。
地上でも暫くぎゃーぎゃー騒いでからライコは帰っていった。
ぴかっと光った次の瞬間には居なくなっている。
僕らは程なくしてやってきた馬車と合流し、旧ラディソーマ王宮へと入城。
この丸みを帯びたアラビアンナイト風の城にやってくるのも二度目だ。
前回はアレフに呼ばれたため、〈混沌教〉の本神殿に向かう途中で立ち寄っていた。
「よく来たなヘルカ!」
妹のヘルカを兄シヴァンが大声で出迎える。
出会い頭のハグはヘルカに華麗に回避されてしまったが、シヴァンはまったく気にしていない様子。
ライコとはまた違った陽の気を感じるなあ。
「前回はお互いに立て込んでいたからな。今日はゆっくりしていくといい。積もる話をしようじゃないか」
「兄上に用事はありません。トレーズ様との会談が目的です」
普段は温和で礼儀正しいヘルカだが、実の兄にはツンツンしていて何となくほっこりする。
僕が背後でにやにやしていると、何かを感じ取ったヘルカがこちらに振り向いたので、すぐ無表情に戻した。
《神降ろし》の準備が始まり、少しだけ余裕のできた僕たちは現在のモーリュ辺境領、旧ラディソーマ竜王国の現状について調べに来たのだ。
改めて状況を整理しよう。
今から約四十年前、ヨルドラン帝国によってラディソーマ竜王国は滅ぼされた。
竜王国の王族である竜人族はシヴァンとヘルカの兄妹二人しか生き残っていない。
ラディソーマ竜王国はヨルドラン帝国のモーリュ辺境伯領として統治されていたが、近年になって独立戦争の動きが活発化し始める。
人生約五十年のアトルランにおいて、四十年前の戦争への遺恨を持つ元国民がどれだけいるかは知らない。
というか旧ラディソーマ竜王国でもない隣接するルノンド子爵領まで独立戦争に参加するあたり、元国民の感情ではなく為政者の思惑が主だった理由なのかもしれない。
一方で独立戦争の件はヨルドラン帝国に筒抜けで、阻止するどころかこれを機に帝国内の不穏分子をまとめて排除しようとしていた。
お互いに着々と戦争準備が整う中、問題が発生する。
竜族のアレフ襲来だ。
アレフは先に述べた通りラディソーマ竜王国の初代国王で、知らないうちに自分の興した国が滅ぼされていたものだから、再興しようと出張ってきた。
だが絶大な力を持つ竜族による地上への過剰な介入は禁忌とされているため、この地を管理する〈較正神〉が阻止を試みる。
竜渓谷の頂上で行われた頂上決戦の結果はアレフの快勝。
竜族が相手ではヨルドラン帝国も手を出せないかと思われたが、僕らと共にアレフの姪っ子であるシンクがいたため状況が変わる。
シンクがこの戦争に参加して怪我をすること、厳密には管理不行き届きで親族のマリアやクレアに自分がとっちめられることを恐れたアレフが戦争不参加を表明。
改めて人種のみでの戦争が行われる流れとなった。
僕個人としては戦争に参加する気はないが、元国民たちを憂うヘルカには気がかりがあった。
それはモーリュ辺境伯、現当主リカルドのことである。
リカルドは御年八十歳越えのご老公なので、長男のトレーズが跡継ぎとして確定していた。
しかしまだ当主の座は継承されておらず、トレーズは次期当主という立場のままだ。
ヘルカ曰くリカルドは帝国を裏切らないそうなので、トレーズの独断ではないかと疑っていた。
こうして二度も訪れたというのに、いまだにリカルドの姿が見えないのも怪しい。
「ようこそいらっしゃいました。ヘルカリード様、〈混沌の女神〉の使徒たる〈神獣〉様」
白髪交じりの茶髪をオールバックにして、こけた頬にぎょろりとした目の壮年の男。
トレーズ・モーリュは軽く一礼した後、僕らを観察するように見つめていた。