ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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359話:少年と皇帝

「改めて自己紹介をしよう。我がヨルドラン帝国初代皇帝グルエルである」

 

 会談用の別室には十メートルくらいの長いテーブルが設置されていて、案内された席に各々が座る。

 一番遠い位置に座った皇帝が先に名乗りを上げた。

 

 僕はその反対側に座っているので、お互いにお誕生日席に座っている状態だ。

 距離があって話しにくいが、防犯の都合上仕方ないのだろう。

 

 皇帝の横には文官らしき中年の男が待機している。

 本来なら直接言葉は交わさず彼が代弁するのかもしれないが、先に名乗った件も含めてこちらを敬う様子が伺えた。

 一応神の使者だからね。

 

「僕は〈混沌の女神〉の使徒でトウジといいます。今回は〈較正神〉の依頼で使者として来ました」

 

 フィンたちも一通り紹介したところで、皇帝が再び口を開く。

 

「〈混沌の女神〉の使徒殿といえば、確かデクシィ侯爵の傘下に居た亜人だったはずだが」

 

「あ、はい。そうです。色々あって今はこの姿になっています」

 

 僕の説明を聞き正体に気が付いたのか、皇帝の隣に座ってた神官服の女性が驚いている。

 

「そちらの女性は?」

 

「私は〈地神教〉の信徒でミランダと申します。今回〈較正神〉の神託を受けて皆様の案内を仰せつかりました」

 

「貴女がそうだったんですね。〈国拳〉オグトの件ではお世話になりました」

 

「も、申し訳ありません。まさか〈混沌の女神〉の使徒様だったとは……」

 

 ミランダとは僕らが初めて帝都にやってきた時に会っていた。

 〈国拳〉オグトにアナが邪人だとバレて殺されそうになり、僕が庇ってオグトと戦闘になった場面に居合わせていたのだ。

 

「あの時は名乗っていなかったし、名乗っても信用してもらえなかったでしょうから、構わないですよ」

 

 でもアナを殺すことに同意したことは許さないけどね。

 闇の眷属と邪人は遭遇したら根絶やしにするべし。

 アトルランに住む人々はそう教えられて生きてきたし、実際にそうしないと逆に滅ぼされてしまうのだから、仕方ないといえば仕方ない。

 

 だが何事にも例外はある。

 少しでもいいから本当にアナは邪悪な邪人だったのか、ミランダにもあの場で考えてもらいたかった。

 

「どうやら帝国の〈地神教〉を束ねている聖女にも、トウジ殿への借りがあるようだな。デクシィ侯爵もあの性格だ。トウジ殿を無下に扱っていたことだろう」

 

 デクシィ侯爵に対しても使徒と名乗っていなかったので、扱いはまあまあ酷かった。

 亜人だからとゴリゴリに差別された記憶がある。

 

 ただ今回〈較正神〉経由で〈混沌の女神〉の使徒としての身分は保障されたようなものだ。

 立場は逆転したと言っても過言ではない。

 別にデクシィ侯爵に会う予定はないけど。

 

「ラズールの謀反も含めると、トウジ殿は我々に対して貸しが三つはあることになるな。これは困った」

 

 本題に入る前から帝国側の失点を三つ上げる皇帝。

 ……なんだか想定とは真逆の意味で、不穏な展開になってきた。

 

「僕らが来たのは〈較正神〉がラディソーマの独立を望んでおり、神々と竜を除外した、人種同士としての妥協点を見つける交渉をするためです」

 

「竜渓谷は神々と竜によって形が変わるほど破壊されたようだが、そのようなことはもう起こらないのだね?」

 

「はい。それは約束します」

 

「ならば独立を認めよう。いくつか条件があるがね」

 

「………えっ? いいのですか?」

 

 思わず聞き返してしまった。

 流れ的にそんな雰囲気を察してはいたが、本当にそうなるとは信じられなかったからだ。

 

「勿論だとも。そもそも神の意向に歯向かえるわけがない。直接的な制裁はないにせよ、神に背いたと民に知られれば加護の力も弱まり人心も離れよう。皇帝が民の人気を気にしているなんておかしいかね?」

 

「いえ、そんなことは……」

 

「覇権主義も楽ではないのだよ。トウジ殿、何故帝国が他国を侵略し続けているか分るかね?」

 

「自国の利益を求めるからですか?」

 

「言葉としては正解だが、トウジ殿の理解度という意味では半分正解だな。その自国というのはどこまでだ? 元ヨルドラン王国だけのことかね」

 

「まさか、侵略した国も含めると言うんですか?」

 

「察しが良いなトウジ殿は。平和は次の戦争への準備期間なんて言うが、ヨルドランが王国だった頃は周辺にいくつかの小国があった。ラディソーマもその中の一つだ。もう長いこと隣国同士で戦争の火種が燻り、間もなく準備帰還が終わろうとしてた」

 

 にやりと笑った皇帝が当時の状況を語る。

 ヨルドラン王国は戦争に対して消極的だった。

 心優しい国王と王妃は隣国と根気強く交渉していたが、全く進展しない。

 

 何故なら元々戦争の理由などあってないようなものだったからだ。

 軍事費を縮小させないための口実だったり、他国と隣接する領主同士の貿易関税を巡る軋轢であったりと、様々な理由でどの国も自国の民をコントロールできていなかった。

 

 昼行燈な国王たちに任せていては、隣国に侵略され滅ぼされてしまう。

 故にグルエルはクーデターを起こし、王族を弑逆し、ヨルドラン帝国を興した。

 

「国が沢山あるから国同士が争う。天下統一し大陸すべてが一つの国になれば、太平の世が訪れると思わないか?」

 

 ……うん? 急に古風な言い回しになったな。

 

「戦争ではなく内乱が起こるだけでは」

 

「その二つは似て非なるものだ。戦争は国同士の争い故に事が大きくなるだけでなく長引きやすい。内乱であれば自国だけの問題であり、戦の前も後も迅速に対応できる。それは民の犠牲を抑えることに繋がる」

 

 皇帝の言わんとすることが分ってきた。

 国同士の争いだと踏まなければならない手順も、内乱なら手順を無視して最短で鎮圧することも可能だ。

 争う期間が短ければ短いほど、人も物資も消耗が少なくて済む。

 

「でも天下統一を目指すなら、独立は余計に認められないのでは」

 

「天下統一は手段であり、太平の世が目的である。つまり平和を維持できるなら、国の長が我でなくても良いということだよ。だから条件がある。トウジ殿、其方が国王になれとまでは言わないが、最低限国王を諫められる立場として国に所属すること。これが一つ目だ」

 

 国王を諫められる時点でとんでもない立場だし、僕がなれる保障もないのだが。

 一つ目ということは二つ目があるのだろう。

 とりあえず口は挟まずに先を促す。

 

「二つ目は、ヨルドラン帝国との不可侵条約の締結だ。平和の担保として必須のことである。そして両国の友好を示すために婚姻関係を結ぶ。トウジ殿には、帝国の第二皇女エルメアと結婚してもらう」

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