ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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362話:少年と心の境界

 エルメアのハグから逃れ、フィンに改めて《意思伝達》をかけてもらう。

 「もういいですか?」と言いながら僕に近づくんじゃあない。

 また《意思伝達》が解けちゃうでしょうが。

 

「《意思伝達》がなくてもそれなりに聞き取れるようになったなあ」

 

「トウジ様が話しているのは神の国の言葉なのですか?」

 

「あー、まあ、そのような感じです」

 

 ちらりと皇帝に視線を向けたが驚いた様子を見せたのは一瞬だけだった。

 今は座り直し落ち着きを取り戻している。

 

 ラディソーマ独立のための二つの条件については一度持ち帰り、三日後に再びここへ来て回答することにした。

 三つの貸しについては、とりあえず一つだけ返してもらう。

 皇帝の権力を使って、オーディリエの生き別れの妹を探してもらうことにしたのだ。

 

「トウジ様、こんなことに皇帝陛下の貸しを使ってもらわなくても大丈夫です。妹はいずれ自力で探しますので」

 

「この貸しはオーディリエのために使いたいんだ。そのくらいでしか僕は恩返しできないし。それに帝国はオーディリエの故郷を滅ぼしているんだ。罪滅ぼしくらいしたっていいさ。一族の(かたき)の協力なんて得たくないというのならやめるけど」

 

「いいえ、嫌というわけではありません。それではお願いしますトウジ様。……ありがとうございます」

 

 正統派森人族(エルフ)であるオーディリエが嬉しそうに微笑むと、それはもう美しくて絵になる。

 見とれていると皇帝が口を開いた。

 

「オーディリエ殿、故郷はどこにあったのだ?」

 

「……帝都から北西にあるラナークの森で、森が焼かれたのは今から三十九年前になります」

 

「北西か。建国初期は特に国内が乱れていた。飾りなく述べるならば、一早く平定するために強者である亜人は排除される傾向が強かった。その犠牲は決して無駄にはしていない。帝国全体の安寧に繋がっている、と言ったところで被害者からすれば積怒が増すばかりであろう。すまなかった」

 

 これは周囲の家臣とミランダ、エルメアも驚いている。

 皇帝が頭を下げなかったとはいえ、国のトップが直接謝罪したのだからそれはそうだろう。

 僕がオーディリエに視線を送ると、向こうも気が付いて小さく頷いた。

 

「その謝罪を受け入れるかどうかは、妹が見つかり再会した後にお答えします」

 

「それでよい」

 

 よかった、僕の意図に気が付いてくれたようだ。

 立場が上の相手の謝罪だからといって、無理に受け入れる必要はなかった。

 家臣のざわめきが増しているがこちらの知ったことではない。

 

 それ以降はエルメア主導の雑談に終始して会談を終えた。

 謀反を起こしたラズールの処遇については帝国サイドに丸投げした。

 

 皇帝はやり手のようなので、改めて考えるとラズールの謀反も仕組まれたもののような気がする。

 具体的な手段まではわからないが、わざと僕らを襲わせて失脚させたのではないだろうか。

 こちらへの貸しは必要経費として見たか、それとも貸しすらも交渉を有利に進める材料だったか。

 

 帰り際、ミランダに呼び止められる。

 僕との関係性や立場の変化もあって表情は硬い。

 

「トウジ様、〈地神教〉の原典にも闇の眷属と邪人の記載があるかどうかを確認してみます」

 

「調べるのは構いませんが、もし新たな発見があっても公表は慎重にしたほうがいいですよ。都合の悪い人が沢山いると思うので」

 

 ルリムのような善良な邪人たちのことを思うなら、すぐにでも公表して邪人への一方的な弾圧を止めるべきかもしれない。

 しかし邪人の大半が邪悪なのは事実なので、不用意に周知しても混乱を生むだけだろう。

 

 あくまで例外もあるという認識を持って欲しいのだ。

 〈国拳〉オグトのように邪人は見つけ次第殺す、という態度をやめてもらえればいい。

 

「オグトは敵が人族だったら、人族を滅ぼすんですかね。滅ぼさないんだろうなあ」

 

「えっ」

 

「すみません、今のは聞かなかったことにしてください」

 

 今度こそ僕らは王宮を後にした。

 ちなみにシンクが壊したテラスからである。

 

(トウジ、あの子きらい~?)

 

 帰り道、シンクの背中に揺られながらぼんやりしていると、僕の態度から何かを察したユキヨが念話で聞いてきた。

 コケティッシュに首を傾げながら僕の瞳を覗き込んでくる。

 

「う~ん、別にミランダさん個人が嫌いってわけではないよ」

 

 どちらかというと邪人に対しての偏見を持つ人々全体に対しての憤りが強かった。

 ただしこれは僕がルリムやティアネ、リリンを知っているからで、一般人からすれば邪人や闇の眷属は敵に違いない。

 

 オグトは最愛の人を邪人に殺された過去を持ち、邪人に恨みを持っている。

 僕がもしオグトの立場なら同じように邪人を恨み、滅ぼすことも厭わないのだろう。

 

 他人の気持ちを100%理解することは不可能だ。

 だから僕は僕の、オグトはオグトの立場でしか主張できないし、どちらかが間違っていると否定もできない。

 何故なら相手の気持ちを否定するということは、相手に自分の気持ちを否定されることを認めることになるからだ。

 

 仮に相手と心を共有してお互いの気持ちを100%理解することができるならば、善良な邪人だけを見つけ出し、オグトとも和解できるだろう。

 でも自分の負の感情まで相手に筒抜けになると思うと恐ろしい。

 

 他人と心を共有するということは、自分と他人の境界が曖昧になるということ。

 個の意識をを捨てて単一の存在になるようなもので、それってもう人じゃないよね。

 

 僕は僕のままでいたい。

 というわけでオールドタイプな僕は人類補完には反対―――。

 

(トウジ?)

 

「ごめん、考え事してた」

 

 雑念の海から復帰して僕はユキヨの頭を撫でる。

 結局のところ完全に理解し合えないなら、言葉を尽くして理解し合えるよう努力するしかないのであった。

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