ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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367話:少年と神降ろし

 旧ラディソーマのヨルドラン帝国からの独立はほぼ内定した。

 二日後、改めて帝都に赴き皇帝と会談したのだが、狐人族のアズサが帝位継承権五位にねじ込まれていて吹き出しそうになった。

 

 エルメアは結婚のはずが婚約止まりなうえに、ぽっと出のアズサとセットにされて瞳からハイライトが消えていたりして申し訳ない気持ちになったが、とりあえず帝国への対応は一区切り。

 

 いよいよ《神降ろし》決行の日となった。

 《神降ろし》はこの〈混沌教〉の本神殿にある月至の祭殿にて、新月になる五日前から行なわれていた。

 

 祭殿中央の霊廟に〈巫女〉役のリリエルが籠り、その周囲を他の信者が囲い、祈りと魔力を交代で捧げ続ける。

 そして新月の夜を迎えると霊廟と月へ至る道が開かれ、神が〈巫女〉の体へ降臨するのだ。

 

 降臨させる神はもちろん〈混沌の女神〉である。

 僕をこの世界に転生させた直後から、じっくり話す機会を設けると言っていたにも関わらず、その機会が訪れないばかりか *さがさないでください* とかふざけた伝言を《交信》で残してきた。

 

 このまま《神降ろし》しても間違いなく拒否されてしまうだろう。

 めのまえがまっくらになった僕に、〈時と扉の神〉のレジータが助言をくれる。

 

 〈智慧の神〉にチクろう、と。

 〈混沌の女神〉にとって〈智慧の神〉は兄のような存在ということなので、《神降ろし》に参加してもらい〈混沌の女神〉の逃亡を阻止、何なら説教をしてもらおうという魂胆だ。

 そのために嘆きの塔へ行き〈智慧の神〉の使徒シリエルと《交信》して参加の約束を取り付けた。

 

 準備は万端。

 新月の夜を迎え《神降ろし》の儀式も最終局面を迎えた。

 月至の祭殿の中央でリリエルが祈りを捧げている。

 

 普段はおちゃらけてばかりいるが、この時ばかりは真面目にやってくれていた。

 こうやって真剣な表情をしていれば美人なのにもったいない。

 

 祭殿の中央には天井がないため夜空が見える。

 輝く星々が見えているが、新月の夜なので月は見えない。

 

 僕らは儀式の様子を祭殿の端で見守っていて、フィンやシンクは変わり映えしない状況に飽きて眠くなったのか、うとうとしていた。

 シンクの頭の上に乗っかっていたフィンがずり落ちそうになったので、支えようと手を伸ばした瞬間、体に浮遊感を覚えた。

 

「うわっ」

 

 目の前にいたはずのフィンとシンクが消失する。

 いや、違う。

 僕が違う場所に来たのだ。

 

 気が付くと僕は宇宙空間に放り出されていた。

 ところが不思議なことに、生身だが呼吸は問題なくできている。

 

 眼下には地球に似た青い星があり、大きな大陸が三つ見えた。

 もう二つはきっと裏側にあるのだろう。

 

 この光景には覚えがある。

 〈黒茨卿〉という外様の神の本体である茨の塊を〈コラン君〉の〈四次元頬袋〉に封印していたのだが、抑えきれず飛び出してきたことがあった。

 僕は腹を貫かれ死にかけていたところを、〈混沌の女神〉が自身が住まう月まで呼び寄せて助けてくれたのだ。

 

 今の状況はその時と同じだった。

 その時と唯一違うのは僕以外にもリリエルがいることなのだが、彼女の様子がおかしい。

 

 肩口までの長さしかなかったはずの、癖のあるふわっとした銀髪がいつの間にか足首のあたりまで伸びている。

 髪質も変わったのか癖がなくなり、絹のように艶やかで真っすぐな銀髪は、星々の光を反射して煌めいていた。

 

 表情は虚ろで宇宙空間で棒立ちだったのだが、ゆっくり首を巡らせて僕を視界に捉える。

 一度はそのままリリエルの視線が通過したのだが、ここで表情に生気が宿り、目をくわっと見開いて僕を華麗に二度見した。

 

「……え、ええっ!?」

 

 事態が飲み込めていないのか、周囲を見渡したり自分の体をまさぐったりしている。

 暫くそんな様子を観察していると、ようやく状況が理解できたようだ。

 

「やあ、会いたかったよ。ローレンカレル」

 

 僕があえて真名で呼ぶと、彼女はすぐに背を向けて一目散に逃げ―――られなかった。

 彼女の右腕に通してあった鉄の輪が輝き出すと、空間に固定されたようにその場から動かなくなる。

 そうなれば当然彼女も動けない。

 

「ちょ、どうして〈智慧の輪〉がここにあるの!? まさか!」

 

「そのまさかだ」

 

 謎の男の声がどこからともなく聞こえると、〈智慧の輪〉から一条の光が迸り宇宙空間を照らす。

 照らされた空間が裂けると、中から一組の男女が出てきた。

 

 男女ともに眩いほどに白い。

 薄手の白いローブを幾つも重ねたような装束を纏い、それには細かな金の刺繍が至る所に施されていた。

 

 男性は腰まである長い金髪を後ろで束ね、手には分厚い本を持っている。

 女性は天使の翼を生やしていて、ウェーブのかかった明るく長い金髪はまるで水中を漂うかのように空中で広がっていた。

 

 後者とは面識がある。

 相変わらず乱杭歯付き錫杖という物騒な得物を持っているその女性は、僕を見ると優しく微笑んだ。

 

「シリエル様、来てくれたんですね。ということは、そちらの方が……」

 

「はい。こちらに御座(おわ)すのが知識の根源たる〈智慧の神〉です」

 

「〈混沌の女神〉の使徒よ。苦労をかけているな」

 

「いいえ、わざわざ来てくださり感謝致します」

 

 とても渋くて良い声の〈智慧の神〉が鷹揚に頷いた。

 

「さて、我々が何故いるか察しはついているな? 我が妹よ」

 

「ぴっ」

 

 〈智慧の神〉に睨まれ、どうにか〈智慧の輪〉の拘束から逃れようと必死にもがいていた〈混沌の女神〉が動きを止めた。

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