ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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368話:少年と真相

 リリエルの体に乗り移った〈混沌の女神〉が宇宙空間で正座している。

 その正面には〈智慧の神〉が立ち、厳しい表情を浮かべていた。

 

「我が妹よ。何故正座させられているかわかるか? 其方の使徒たるトウジ殿に対して数々の不手際があるからだが、申し開きはあるか?」

 

「いやぁ、不手際なんてないと思うよ? 兄貴」

 

 兄貴と呼んだ〈智慧の神〉とは決して目線を合わせず、俯き斜め下の方向を見つめながら〈混沌の女神〉が答えた。

 

「不手際のオンパレードなのによく言うわ」

 

「マーちゃんはちょっと黙ってて」

 

 横から口出ししたサシャに対して、〈混沌の女神〉が強気に言い放つ。

 いつの間にかサシャとレジータもこの宇宙空間にやってきていた。

 

 どちらも〈ホロカちゃんぬいぐるみ(小)〉から抜け出し、元の姿になっている。

 サシャは白霧夜叉という和装の動く石膏像のような姿、レジータは黒いドレスに黄金の結晶が翅を生やした妖精の姿だ。

 

 マーちゃんというのはサシャの真名の仇名で、正式には確か……マージェオルタナだ。

 ずっと忘れていたけど今になって思い出した。

 

「では本当に不手際がないか、我が妹とトウジ殿の(えにし)が交わり、現在に至るまでの過程をつまびらかにして検証する。まずは異邦の星、地球での出来事から」

 

「うえっ、そこから!?」

 

 〈智慧の神〉が手に持っている分厚い本のページを捲る。

 するとページから光が飛び出し、逆さにした三角錐のように広がった。

 

 そして光の中に映像が現れる。

 それは見慣れた〈コラン君〉のはずだったが、妙な違和感があった。

 

「これは、着ぐるみの〈コラン君〉を着た僕か」

 

「その通り。トウジ殿がアトルランへやってくる直前の光景である」

 

 つまり過去の映像のようだ。

 地元である北海道胡蘭市の駅前にて、〈コラン君〉の着ぐるみ姿でティッシュ配りをしている僕の姿が映っていた。

 

 生物(キメラ)としての〈コラン君〉に慣れてしまったため、作りの荒い着ぐるみのほうが違和感を感じるようになっていたようだ。

 アトルランにやってきてまだ数か月だが、胡蘭市の風景が酷く懐かしく感じられた。

 

「トウジ殿の足元。ここに猫の姿の我が妹が映っている。何故こんなところで居眠りをしていた?」

 

 映像の中の銀色の毛並みの猫は、半開きの口から舌を出した状態で盛大にいびきをかいていた。

 

「いやぁ、別次元の世界の乱数調整に手間取っちゃって、神力を使い果たして寝ちゃったみたいなのよ。ちゃんと次元の狭間に戻って寝たつもりが、寝ぼけて地球に出ちゃってたみたいで」

 

 つまり仕事終わりに帰る場所を間違え、路上で寝ていたところを僕が踏んづけたと。

 その結果バランスを崩し道路に飛び出し、トラックに轢かれて死んでしまった。

 なんとなく想像はついていたが、やはり完全に〈混沌の女神〉のやらかしだったのだ。

 

「仕方がなかったのよ! 何度乱数調整しても多くの命が失われる結果になったから、使えるだけの神力を使って補う必要があったのよ」

 

「本当にそうか? 現地の神と、どちらの信徒がより多く勇者の仲間に迎えられるかを競うために、強力な加護の力を複数の赤子にばら撒いたと、アカシックレコードには記載があるが」

 

「ぎくっ」

 

「おい」

 

 〈混沌の女神〉がわかりやすく動揺した。

 巻き添えをくらった僕としては声を上げずにはいられない。

 

「でもでもっ、強力な加護をたくさんばら撒いたおかげで、より優秀な人材が勇者の元に集まって魔王を迅速に倒せたのよ」

 

「勇者の仲間に迎えられなかった余剰戦力がどうなったか、知らないとは言わせぬ。魔王討伐後の世界では人間同士の戦争に発展し、その余剰戦力である強力な加護の持ち主が主体となって戦火を広めているのだぞ」

 

「ま、魔王が蔓延るよりかは被害が少ないはずだし」

 

「具体的な犠牲者の数を述べようか?」

 

「アッハイすみません私が悪うございました」

 

 あっさり反論をやめたあたり、人間同士の戦争で相当な犠牲が出ているのではないだろうか。

 これだから神は嫌なのだ。

 気まぐれや軽いノリで、ゲーム感覚で人の人生を振り回す。

 

 身近にいる神は冗談半分で僕に神にならないかと言ってくるか、人の人生を大きく決定付ける差配なんてしたくない。

 そんな重大な責任を負いたくない。

 神からすれば人間の世界なんて「蟻の巣が壊れちゃった。まあいいか」くらいの感覚なのだろう(蟻には悪いが)。

 

「我が妹を踏む可能性はあの場にいた全員にあったが、トウジ殿が運悪く踏んでしまい残念な結果となった。その詫びとしてトウジ殿をアトルランへと転生させたのだが問題があった。我が妹にはトウジ殿に与える神気が殆ど残されていなかった。故に地球の神から神気を借りている。トウジ殿が〈コラン君〉として力を得たのはそのためだ」

 

「はあ、この力は地球由来だったんですね。転生した直後は、さも自分が与えたみたいな言い方をしていたけど……」

 

 僕が〈混沌の女神〉を見ると、彼女はさっと視線を逸らした。

 リリエルの体に乗り移ってその動きをされると、妙な親和性があってイラっとする。

 地球の神の力なら〈コラン君〉なのもある意味納得ではあるが……。

 

「あれ、でも大昔からある〈混沌教〉の聖典に使徒 〈コラン君〉の姿が載っているのは何故なんです? 今の話だと僕が〈コラン君〉の姿として転生したのは偶然のはずですが」

 

「それはトウジ殿が転生した時点で()()()()()()()()からである。トウジ殿が転生する前の時点では、おそらく違う何かの姿が描かれていたであろう」

 

「ええ……なんだかすごく大がかりというか、膨大なエネルギーが必要になりそうな話ですね」

 

「それが意外とそうでもないのだ。時間という概念は連続しているように見えるが、実際には連続しているわけではない。現在、過去、未来は互いに影響を及ぼし合うが、それだけである」

 

 僕が理解できず疑問符を浮かべていると、〈智慧の神〉は補足説明をしてくれた。

 

「地球の思考実験で例えるなら〈世界五分前仮説〉が近い。世界は五分前に作られたもので、それ以前の記憶も物質もすべて、五分前に作られたものであるという可能性を否定できない。つまり過去と現在は独立しているので、世界を改編するのは今この瞬間だけ。五分前である必要もなく、コンマ一秒よりも短い刹那の時でよい。そう考えると改編に必要なエネルギーも極小で済むであろう?」

 

「う、うーん」

 

 わかったようなわからないような。

 僕はとりあえず頷くしかなかった。

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