ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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369話:少年と憤怒

「話が脱線してしまったな、我が妹よ。トウジ殿を転生させた後、碌な支援もせず放置していた理由を聞かせてもらおうか」

 

「ほ、放置なんてしてないし。外様の神と戦って死にそうになったところをちゃんと助けたし」

 

「トウジ殿の窮地に駆け付けたのではなく、外様の神の不正アクセスを検知して対処に向かった先に、偶然トウジ殿が居たから助けただけであろう。その証拠に〈暗影神〉の(しもべ)との戦闘でトウジ殿が死にかけた時は気が付いてすらいない」

 

「うぐっ」

 

 〈智慧の神〉の言う通り、僕が最初に死にかけた時は〈混沌の女神〉は現れていない。

 それはルリムとアナに出会う切っ掛けとなった戦いだった。

 〈影の狩人〉という暗殺者に毒を盛られ死にかけたのだが、咄嗟に齧って口に含んだ〈ハスカップ羊羹〉の回復が間に合い一命を取りとめた。

 

 さらに言えば、転生直後にシンクの故郷であるリージスの樹海で〈森崩し〉という大型魔獣と戦った時も、気を失うレベルで負傷している。

 ……我ながらよくこれまで生き残れたものだ。

 

「其方の混沌を司るという性質上、干渉しないほうが良い結果を残す場合もあるとは理解している」

 

「そうなの。トウジのことは乱数調整の結果なのよ」

 

「だが混沌を御するのではなかったのか? 振った賽子(サイコロ)の目を御することはできないが、振る機会と場所は選定できる。それとも昔のように混沌を振りまくだけの存在に戻るつもりか?」

 

 昔のようにと言われて〈混沌の女神〉が俯いた。

 正座した膝の上に乗った拳がぎゅっと強く握られる。

 

 〈智慧の神〉の話しぶりだと、昔はもっと酷かったようだ。

 混沌を振りまくだけであれば、それはいよいよ邪神ではなかろうか。

 

「序盤は放置だが、途中から理由があって避けているな?」

 

「……」

 

「我が説明してもよいが、自らの口で語ったほうが心証は良いと思うがな」

 

 どうやら〈智慧の神〉は何故〈混沌の女神〉が *さがさないでくさださい* という、ふざけた伝言を残したか知っているようだ。

 先ほどアカシックレコードという単語も聞こえた。

 〈智慧の神〉だけあって、宇宙の始まりからのすべての事象、想念、感情が記録されているという概念にアクセスできるのだろう。

 

 諭されても〈混沌の女神〉は暫く俯いたままじっとしていた。

 ようやく僕の方を見上げ、口を開こうとして閉じてまた俯く。

 そんな動きを何度か繰り返したのち、遂に意を決して……。

 

「正直に言うから怒らないでね?」

 

 まだ事前確認だった。

 

「内容による」

 

「選定対象となったのは不可抗力だったのよ。それこそ賽の出目がそうさせたの。いや、確かにタイミングをずらせばそもそも選択肢に上がらなかったのはそうかもしれないけど、確率的にまずなかったし、もし当たれば相当な恩恵を得るの。実際に得た恩恵はすさまじいものだったのだけれど、他の巡り合わせが悪かったというか、そっち方面で私も頑張って調整したんだけどここぞという場面でファンブルしちゃって、フォローするつもりが仇になっちゃってあれよあれよという間に……ね?」

 

「めっちゃ先に言い訳するじゃん」

 

 もったいぶられるので、だから僕としてもどんどん不安になってくる。

 

「わざとじゃないの、不可抗力だったことを認めて欲しいのよ。あとトウジが協力してくれるなら改めて全力で支援するから」

 

「いやだから内容次第だって」

 

「ねえ、マーちゃんもレーちゃんも協力してくれるよね?」

 

「あんたさっきは黙ってろって言ってたくせに都合いいわね……。そりゃあ協力しないとは言わないけど」

 

「そうねぇ。改めてレンちゃんの所業を聞くとトウジが可哀そうだもの」

 

 珍しくサシャがデレていた。

 レジータには転移関連でお世話になりっぱなしだ。

 〈コラン君〉の姿に戻った暁には、饅頭や羊羹を進呈させてもらおう。

 

「二人ともありがとう。協力してくれるなら、どんな困難でも乗り越えられそうだよ」

 

「本当に? それじゃあ白状すると藤治の姪の悠里を勇者召喚で神無き大陸に召喚して人族の希望の星にしたまでは良かったんだけど、仲良くなった勇者パーティーの面子が魔王軍との戦闘で次々と死んじゃってね。叔父である藤治と死別して只でさえ死に臆病になってた悠里のメンタルがやばいの。まだ魔王は召喚されてないのに悠里一人で前線を支えてる状況で、【激情神の加護】持ちだから強い感情であれ強ければ何でも戦闘能力に直結するからいいんだけど、あんまり負の感情が溜まり過ぎると魔王に裏返っちゃいそうで―――」

 

 

 

 

 

 

 

「うわ、ここどこ!? 海の中? でも息ができる」

 

 リリエルの声が聞こえて我に返る。

 彼女は宇宙空間の無重力を初めて体験して慌てていた。

 

 髪型がロングストレートからゆるふわボブに戻っているので、〈混沌の女神〉の憑依は解けているようだ。

 その証拠に〈混沌の女神〉はリリエルの横に猫の姿で存在している。

 

「あれ、なんで猫が錫杖の下で潰れてるんです?」

 

 猫はへそ天の状態で錫杖に叩きつけられ気絶していた。

 僕が周囲の神々に理由を聞こうとすると、何故か皆が目を逸らす。

 

「まさか其方の中に残滓として残っていた【憤怒の神】がここまで発現するとは」

 

 【憤怒の神】といえば、〈コラン君〉の人格の基盤として入れられていた外様の神で、今は分離しているので僕の中にはいないはず。

 

「あんたをあそこまでキレさすなんて……まぁ自業自得なんだけど」

 

「その通りです。トウジ殿が怒るのも無理はありません。代理で粛清させて頂きましたが、まだまだ足りません」

 

 サシャはやれやれと首を振り、シリエルはうんうんと頷いている。

 僕がキレた? 代理で粛清?

 あれ、そういえば猫が何か言っていた気がしたけどなんだったっけ。

 

「其方の感情の暴走が止められない故に、一時的に記憶を封印した。とはいえこのままでは話が進展しないため、今一度封印を解く。よいか? 気をしっかり持つのだぞ?」

 

「? よくわからないけど、わかりま―――」

 

 

 

 

 

 

 

 結局僕は〈智慧の神〉に記憶の封印を解かれる度に【激怒】し、再度記憶を封印されるということを数度繰り返した。

 ようやく〈混沌の女神〉が僕の姪である悠里をアトルランの揉め事に巻き込んだ挙句、身も心も危機的状況に追い込んでいるという事実を受け入れた頃には、リリエルは退屈になったのか居眠りをしていた。

 

 いや君、結構な修羅場なのに余裕だね……。

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