ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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37話:ゆるキャラとコノギ村

 樹海を抜けるとそこは平原だった。

 

 見渡す限り人の手が加わっていない原野だ。

 人種のテリトリーに初めて侵入したゆるキャラであったが、森と原野の差はあるが雰囲気は樹海とそう変わらない。

 

「人工物が一切見当たらないな。樹海付近は未開発なんだっけか、このレバニラ……じゃなくてレヴァニア王国は」

「は、はい。樹海の近くは強い魔獣が多いので人は住んでいません。一番近いコノギ村でも樹海までは大人の足で二日くらいかかります」

 

 はぐれワイバーンとの遭遇から暫くして、気絶から回復したメディルが教えてくれる。

 目は覚ましたものの、先の事件がメディルに与えた影響は大きかった。

 

 彼女は今シンクの背中の棘と、それを操縦桿のように握るゆるキャラの間に挟まっている。

 ゆるキャラの体がジェットコースターの座席だとするなら、棘を握っている両腕は安全バーといったところか。

 

 更にゆるキャラの装備している赤いマフラーを、シートベルトのように体に巻き付けていた。

 これらはメディルの心の安寧を守るために必要な処置である。

 

 尚マフラーは普段フィンの遊び道具となっていて所有権を主張したため、メディルへのレンタル料として饅頭を二個支払った。

 マフラーはゆるキャラの物なのに……解せぬ。

 

 樹海を抜けてコノギ村まで大人の足で二日ということは、仮に日中歩き続けたとして百キロ弱くらいだろうか。

 徒歩で百キロと聞くと現代人的には遠慮したい距離であり、それを子どもの足で踏破したメディルには尊敬の念が絶えない。

 

「あれがコノギ村です」

 

 メディルの細い指先が前方を指し示す。

 彼女の顔は依然として恐怖により血の気が引いているため青白い。

 

 視線を巡らせば畑と小さな家々が見えてきた。

 一応村を囲うように柵が設置されているのだが、全体の半分近くが破損したり朽ちたりして無くなっている。

 あれでは外壁の役目は果たせない、ただの飾りだ。

 

 ウルスス族の集落では丸太を柱のように突き刺し並べて外壁を成形していた。

 一本一本が相撲取りの張り手の練習に使えそうな太い丸太で、灰色狼程度なら突破は不可能な頑丈なやつだ。

 

「コノギ村周辺で魔獣は出ないのか?随分無防備だが」

「いいえ、年に数回は現れて一人か二人は怪我をしたり死んじゃったりします」

 

 詳しく聞くと、どこの村も魔獣を退けるような外壁を造って維持する労力も経済力も無かった。

 その代わりに村付きの護衛を雇うのが一般的だそうだ。

 さすがファンタジー世界、人の命の価値が低いな。

 

「ようし、それじゃあ村の上を一回りしてから入り口?っぽい向こう側に下りるか」

「gryuuuuuuuuuuuun!(おっけー)」

 

 シンクの返事が丁度コノギ村襲来の合図となった。

 

 畑で仕事をしていた村人たちが咆哮に驚いてこちらを見上げると、深紅の竜を見つけて数秒呆ける。

 そして一目散に家の中に逃げ込んでいった。

 

 当然こちらに襲う意志は無いがそれが伝わるはずもなく、村人からしたらこの世の終わりに等しいか。

 村を一周する頃には人影はすっかり無くなっていた。

 

 ゆるキャラたちがやってきた樹海の反対側がコノギ村の入り口のようで、あぜ道のような細い線が続いている。

 シンクにはその辺りに着陸してもらい、竜の姿のまま待機だ。

 

「誰もこないねー」

「ふうむ、やっぱり竜の姿のままだと怖くて近寄れないか?一人でもいいから《人化》するところを見ておいてもらいたいんだが」

 

 村人たちは幼女姿のシンクだけを見ても、彼女が先ほど空を飛んでいた竜だとは思わないかもしれない。

 幼女姿で近づいてから竜に変身しても良いのだが、竜を見て再びパニックになられても困るので、出来れば竜から幼女になるところを見てもらいたかった。

 それと一人は現れる当てがあったのだが、運悪く不在なのだろうか。

 

 五分ほど待ったが村人たちは誰ひとり家から出てこない。

 飽きたフィンがどこかへふらふらと飛んでいってしまいそうなので、仕方なくシンクに《人化》してもらおうとした時……。

 

 村からこちらへ近づいてくる人影がひとつ。

 完全武装した猫耳の亜人の女性だ。

 

 全身を年季の入った革鎧で包み、急所である胸元は鉄板で補強されている。

 無造作に伸びている銀髪の下にある額には金属の板、鉢金が巻き付けてあった。

 日で焼けた健康的な肌と野性的な美貌を持ち合わせた女性だが、今は緊張で表情を硬くしている。

 

 片手剣と盾を装備しているが抜刀はしておらず、向こうもまずは話し合いの姿勢のようだ。

 自棄になって攻撃されても困るのでありがたい。

 

「メディル!なぜここに」

「あっ、メイさん」

 

 そう、彼女はメディル姉妹の後見人である、隣人の猫人族メルである。

 メイは元冒険者で現在は村付きの護衛を生業にしている。

 そして有事の際にはこうやって先陣を切り、状況によっては捨て駒にされる役目を持つ。

 

 彼女が出てくるだろうと思って、ゆるキャラたちは待機していたのだ。

 守護竜御一行に見知った顔がいることに気が付いて、銀髪美女が驚きの表情を浮かべる。

 予想外の再開に思わず駆け寄ろうとしたが、メディルの背後に鎮座するシンクを警戒して近づけないでいた。

 

 もういいだろう。

 ゆるキャラがシンクの首元を軽く叩いて合図すると《人化》が始まる。

 

 ピカッと輝くと真紅の巨大質量は瞬く間に消え去り、代わりに竜の頭部があった付近に赤い髪の幼女が現れる。

 ふわりと落下する小さい体を、ゆるキャラの腕に生えているオジロワシの柔らかな羽毛で受け止める。

 

 竜の圧力が無くなったところで、ようやく二人の亜人は再会の抱擁を交わした。

 

「勝手にいなくなってごめんなさい……樹海に行ってたの」

「樹海に!?なんて無茶なことを。ということはもしやそちらの竜族のお方は……」

 

 メディルを抱きしめて飴色の髪を優しく撫でていたメイが、こちらに視線を送る。

 まだ何も説明していないが事情をある程度理解したようだ。

 なかなか察しの良いお姉さんである。

 

「よし、シンク出番だぞ」

「……」

「シンク?」

 

 反応が無いのでゆるキャラが振り返ると、シンクはエゾモモンガの背中に身を隠してもじもじしていた。

 ……おおっと、ここにきてまさかの人見知り発動である。

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