ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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375話:ゆるキャラと若き蒼炎魔術師

「ここが〈絶望半島〉なの?」

 

「そうだぞ。おおっと、結界の外には出ないでくれよ。敵に見つかるからな」

 

「「えーーー」」

 

 妖精族のフィンは俺の髭を引っ張り、竜族のシンクは腹に額の角を押し付けて不満を主張する。

 

「折角ここまで外様の神サイドにバレずに来れたんだから、まだ我慢してくれ。君らの出番は最終決戦の時だ」

 

「猫はいいのに?」

 

「僕はここにいるようでいない。無害故に無敵だからいいのさ。あ、祝福の封印は解けるけどあれは攻撃判定じゃないよ」

 

「むう」

 

 猫がシュレディンガーみたいなことを言い出す。

 シンクは不満そうな表情を浮かべていたが、猫を抱き上げ銀色の長毛にまみれた腹に顔を埋める。

 

 すると機嫌が直ったのか、竜の尻尾がゆらゆらと揺れている。

 その一方でフィンは機嫌の悪いままだ。

 

「折角トージが元に戻ったのに、待ってるだけなんてつまんない。てか神様たちだけトージの口の中に入れてズルい。私も入れてー!」

 

「もががっ、やめ」

 

 フィンが強引に俺の口を開けて中に入ろうとする。

 普段の俺の口と四次元頬袋は別腹? なのでむやみに突撃されても涎まみれになるだけだ。

 

「四次元頬袋には神格しか入れないからねぇ。それならフィン君も神になるかい?」

 

「なる」

 

「即答するんじゃないの。神なんかになったら碌なことにならないから。サシャを見たらわかるだろ?」

 

「あー……」

 

「ちょっと、あー、じゃないわよ!」

 

 四次元頬袋の中から抗議の声が聞こえたが無視する。

 かなり適当な性格をしているフィンにまで呆れられたら、それは相当なものなのだと自覚して欲しいものだ。

 

「出番は確実にあるから、それまでは待っていてくれ。ほら、饅頭とかあげるからさ」

 

「「わ~い」」

 

 少年の姿をしていた間は〈コラン君饅頭〉や〈ハスカップ羊羹〉、〈牛乳たっぷりコラン君プリン〉、〈ハスカップジュース〉といった〈商品〉が取り出せなかった。

 

 どれもフィンたちの大好物だったので、おあずけ期間開けの反動はすさまじいものだった。

 食べ過ぎはよくないので少量を小出しにして誤魔化していたが、今晩くらいはまぁいいだろう。

 

「結局この〈商品〉は向こうの世界のコピー品ってことでいいんだよな? 記載されてる消費期限の日付も進んでるけど、決して向こうの倉庫から消えてるわけじゃないと」

 

「そうだよ。だから気にせずガンガン出したまえ」

 

「だからさぁ、そういうのを転生直後に教えてくれよ。〈コラン君〉の能力を把握するのにどれだけ苦労したと思ってるんだ。シンク、角でぐりぐりしてやれ」

 

「ん」

 

「おうふ」

 

 

 

 

 

 

 エリスが展開した結界の中で軽くお茶会を実施した後、フィンたちにには〈嘆きの塔〉へ帰ってもらい俺も防衛拠点へ戻った。

 翌朝、荷馬車一台とその分の人員を残して第1535義勇兵団は次の拠点へ向けて出発する。

 

 よく会話をする犬人族の男は、残念ながら居残り組には選ばれなかった。

 犬耳と尻尾をがっくりと垂らして落ち込んでいる。

 

「まぁ元気出せよ。昨日のクルトンもどきならもう少しだけ残ってるから」

 

「ほんとか!」

 

 犬みたいに尻尾を振って喜ぶ男に苦笑いしつつ、第1535義勇兵団は〈絶望半島〉を進む。

 当たり前だが前線に近づくにつれて戦闘跡は増えるし真新しくなる。

 午前中は何事もなく中継地点の拠点まで到着したが、午後はついに魔王軍と勇者軍の戦闘に遭遇した。

 

「全体止まれ! 戦闘が終わるまで待機するが、物資に近づく敵は殲滅せよ。トウジ、斥候として戦況を確認してこい」

 

「了解です」

 

 ゆるキャラ使いの荒いジグマールの指示で、俺は前方の荒野で発生している戦闘地帯へと足を踏み入れる。

 勇者のいる最前線はまだまだ先だが、その道中が安全とは言い切れない。

 

 その証拠に昨日は市街地で山羊魔族と擬態狼に遭遇している。

 戦線は〈絶望半島〉の中心部を縦断するように伸びているので、半島の両沿岸に迂回すれば戦線をやりすごすことができた。

 

 そのまま背後に回り込んで前線を孤立させるのが魔王軍の狙いだが、そうさせまいとするのが一定間隔に設置されている防衛拠点である。

 どこからともなく猫がやってきて俺の肩に乗った。

 

「一か所でも防衛拠点が落とされると、前線が孤立する可能性があるんだねぇ」

 

「もし勇者軍が劣勢だったら加勢するぞ。悠里の命に関わるからな」

 

「大技は控えたほうがいいよ。外様の神に見つかる可能性があるからね」

 

 猫と打ち合わせしながら近くの小高い丘に登って戦況を確認する。

 現在戦っている勇者軍は全員が同じ鎧と青い外套(マント)を装備していた。

 

 盾を構えて一直線に並び魔王軍と対峙している。

 勇者軍とは対称的に魔王軍はバラエティに富んでいて、ゴブリン、オーク、その他知らない種族が沢山いた。

 

「お、美形の偉丈夫がいるけどあれはトロールかな」

 

 黒光りする全身鎧姿のトロールは巨大な剣を振り回していて、勇者軍が構えている盾ごと吹き飛ばされている。

 勇者軍の後衛に目をやると、数人に守られるようにして一人の少女がいた。

 

 身長よりも大きな杖を掲げ、戦闘の喧騒で聞き取れないが呪文を唱えているようだ。

 詠唱が終わると少女の頭上に、直径五メートルはありそうな巨大な火の玉が出現する。

 

 それは蒼々と燃えていて、少女が杖を振りかざすと魔王軍へと飛翔し着弾した。

 着弾と同時に火の玉は爆ぜ、元の十倍近い面積を火の海に変える。

 

「おお、すごい威力だ……あっ」

 

 ゴブリンのような小柄な闇の眷属は蒼い炎に焼かれて次々と地面に倒れていくが、先ほど目撃していたトロールは違った。

 火の海を何事もなく渡ったトロールが、大魔術を放った影響で昏倒しかかっている少女の元へと突き進んでいた。

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