ゆるキャラ転生   作:忌野希和

376 / 408
376話:ゆるキャラとお前ボールな

 首から下を全身鎧で固めているトロールは、長い金髪を靡かせながら魔術師の少女へと突き進む。

 周囲の義勇兵がそうはさせまいと立ちはだかるが、トロールの巨大な剣の一刀のもとに斬り伏せられていた。

 一人頭数秒も稼げていない。

 

「これは助太刀しないと全滅させられそうだ」

 

「あまり目立つ行動は駄目だよ? 外様の神にバレるから」

 

「了解」

 

 俺は猫の警告に相槌を打つと、オジロワシの黄色い鳥足で地面を蹴る。

 十メートルほど飛び上がったところで『風の精霊さん、お願いします』と声をかけると、背後で強烈な突風が吹き荒れた。

 

 本来なら《突風》の魔術を発動させるにも、構成やら詠唱やらが必要になるが、俺の精霊魔術に限っては省略できる。

 報酬の美味しい魔力に釣られた精霊が忖度してくれるからだ。

 難点としては高確率で精霊が張り切ってしまうことだろうか。

 

「うおおおおお」

 

 ジェット気流のような強風を背中に浴びて、俺は風に乗るというより空気に押し出されて小高い丘から飛び出す。

 一瞬体がバラバラになったかと思う衝撃だったが、さすが〈コラン君〉なんともないぜ。

 あっという間に戦場の真上まで移動すると、オジロワシの翼を羽ばたかせて直滑降。

 

 少女は大魔術を放ち魔力不足で昏倒しかかっていた。

 倒れないよう杖に寄りかかるのが精一杯で、その場から動けないようだ。

 

 遂にトロールが少女の目の前に辿り着き、剣を振り上げる。

 それでも彼女は臆することなく、つぶらな碧眼でじっと邪人を見つめていた。

 

「姫様!」

 

 直前に斬り捨てられた義勇兵の一人が叫ぶが、トロールは一瞥もくれることなく剣を振り下ろ……さずに空から振ってきた刃を受け止めた。

 

「ぬう」

 

 トロールは途中で受け止めるのをやめると、己の剣の傾けその刃を滑らせながら飛び退く。

 滑った刃は地面を穿ち、衝撃と共に土埃を舞い上がらせた。

 

「貴様、何者だ」

 

「しがない義勇兵だよ」

 

 地面を穿った大剣を手元に引き寄せた俺は姿勢を低くして、土埃に身を隠しながらトロールへ接近。

 土煙を抜けた瞬間に大剣を横薙ぎに振るう。

 

 脛を狙った攻撃だったが、トロールは垂直に飛んで躱した。

 エゾモモンガの耳が頭上で発生した風切り音を拾ってピクリと動く。

 

 黄色い鳥足で右斜め前に力一杯踏み込むと、すぐ左を風切り音の主である刃が掠めた。

 足元へと潜りこんだ俺を、金髪の偉丈夫の鋭い眼光が射貫く。

 

 左足を蹴り上げてきたので、俺はその足へ飛び乗った。

 体が急浮上する重力を感じながら、黄色い鳥足に生えている爪でお返しとばかりに攻撃する。

 

 黒曜石のように輝く爪でトロールの胸元を引っ掻いてから、肩を蹴って離脱した。

 手応えはあったが鎧がぶ厚いのか、傷口からの出血は認められない。

 

「思ったより浅かったか」

 

「足癖の悪い畜生であるな」

 

「先に蹴ってきたのはそっちだろ」

 

「亜人風情がほざきおる。その煤けたような毛皮を剥いで足置きにしてやろう」

 

「お、久しぶりにノルマ達成したな」

 

 これまでにも何度か聞いてきた罵倒に懐かしさを覚える。

 それにしても顔は若いのに妙に古風な喋り方だなぁと考えていると、背後からか細い声が聞こえてきた。

 

「あ、貴方は」

 

「こいつは俺がなんとかするので、他を頼みます」

 

 敵はこのトロールだけではないが、こいつさえ抑えておけば他は勇者軍だけでもなんとか立て直せるはずだ。

 俺は構えた〈月明剣〉にゆっくり魔力を籠める。

 この大剣は月隕鉄という物質で作られていて、魔力を少しずつ吸収する性質を持つ。

 

 魔力が籠った刀身は青白く発光し、徐々に切れ味も増していく。

 一気には吸収しないので、車のエンジンをアイドリングで温めるようにじっくり魔力を注ぐ必要があった。

 

 当然トロールがそれまで待ってくれるわけもなく、俺に向かって突っ込んでくる。

 腰だめに構えた剣をいつ振り抜くか注視していたのだが、先に振り抜かれたのはまたもや足だった。

 

「だから足癖よ」

 

 サッカー選手がシュートするかのようにトロールが地面を蹴ると、土が礫となって飛んできた。

 俺は躱そうとしたが、背後に少女がいることを思い出してその場に踏み止まる。

 

『風よ』

 

 周辺を漂う風の精霊が、俺の呼び声に応じて精霊魔術 《風刃》を放った。

 不可視の刃は飛来した土の礫を吹き飛ばしながら、突進してくるトロールへと到達する。

 

「魔術は効かぬ」

 

 トロールが呟いた通り、《風刃》は黒光りする鎧の表面を撫でるだけで終わってしまった。

 どうやらあの鎧が魔術を無効化しているらしい。

 少女の蒼い火球が通じなかったのもそのせいだったのか。

 

 トロールの掬い上げるような一撃は非常に重たく、辛うじて大剣で受け流せたが腕ごと弾かれ、万歳したような恰好になった。

 

「おぶっ」

 

 そして丸々としたエゾモモンガの腹にトロールの爪先が突き刺さる。

 本当に足癖の悪い奴だ。

 サッカーボールのように蹴られて俺の体が空を舞う。

 

 トロールはこの隙に少女へと襲い掛かろうとするが、やらせはせんよ。

 

『大地よ』

 

「だから魔術は効かなぁぁぁぁ!?」

 

 ダメージは与えられないかもしれないが、物理的に邪魔ならできるんだろう?

 魔術 《土変化》で土を固めて作った柱を、トロールの足元から高速で生やしてやったのだ。

 トロールは柱に打ち上げられ、俺よりも高い位置まで飛んでいく。

 

 俺がサッカーボールなら、お前はピンボールだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。