ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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380話:ゆるキャラと爆裂姫様

 勇者のいる最前線に近づくにつれて、魔王軍との戦闘に遭遇する頻度が上がってきた。

 魔王軍は多種多様な種族による混成軍が多かったが、今回遭遇した連中は違うようだ。

 

 巨大な蟻の群れが荒野に横一列で並んでいる。

 頭の位置が目の高さより上にあり、触角がうねうねと動き、鋏形状の顎はギロチンのように鋭い。

 腹から生えた三対の脚は金属鎧のような光沢を放ち、胴体は動物の毛に似た産毛が沢山生えている。

 

 うん、控えめに言って気持ち悪い。

 蟻の知能だけでは隊列を組んで戦うなんてできなさそうだが、搭乗者の存在がそれを可能にしていた。

 

 蟻の背中に鞍を付けて手綱を引いているのは、人型の飛蝗(バッタ)だ。

 黄緑色の外骨格を纏い、顔も完全に飛蝗のそれで、冒険者風の革鎧を身に着けている。

 某特撮ヒーローっぽさがあるが、細部は完全に虫なのでやっぱり気持ち悪い。

 

 色合い的にキリギリスだろうか。

 アリとキリギリス……。

 

『闇の眷属の鋼鉄蟻(アイアンアント)と、邪人の螽人族(ケイティディアン)だね。童話と違って彼らは共生関係にあるんだ。だからお笑いコンビみたいに解散もしないズッ友だよ』

 

 四次元頬袋の中から猫が日本人にしかわからない言い回しで解説してくる。

 へー解散してたんだ知らなかったとか、別に解散してもズッ友は継続してるかもじゃん? とは思ったが、人前で返事はできないので黙っておく。

 

 螽人族は槍や鞭、弓といった射程の長い武器を持ち、馬上ならぬ蟻上から勇者軍を攻撃していた。

 勇者軍は武装も隊列もバラバラで、四人~六人の集団が十組ある。

 その中で前衛後衛等の役割分担がされているようなので、それぞれが冒険者パーティーなのかもしれない。

 

 戦況は拮抗していたが、俺たちの到着と同時に崩れようとしていた。

 鋼鉄蟻は十五体いるため、いくつかのパーティーが二体同時に相手をしていたのだが、とあるパーティーが二体を捌ききれず決壊する。

 

 自由になった二体の鋼鉄蟻が他のパーティーの方へ流れてしまえば、戦線の崩壊は免れない。

 蒼炎大隊が慌てて加勢に向かう中、別の冒険者パーティーのいる辺りから一筋の光が空へと撃ち上げられた。

 

 天高く上ったそれは放物線を描いてから高速で落下する。

 光の尾を引いていて、まるでほうき星だ。

 

 落下地点にいたのは自由になった鋼鉄蟻を操作していた螽人族で、背中に直撃すると革鎧を砕き胴体に大穴を開ける。

 ギィーーー、と虫っぽい悲鳴を上げて地面に落下すると、制御を失い暴走した鋼鉄蟻の脚に頭部を踏まれて絶命した。

 

 光の出所を見ると弓を構えた人物が見える。

 長い金髪を風になびかせ、その左右から尖った耳が飛び出していた。

 

 その人物が空に向かって矢を放つと、先程と同様に光を纏って敵に降り注ぐ。

 騎手を失った鋼鉄蟻に次々と突き刺さるが、螽人族よりは頑丈なようだ。

 

 痛そうに身をよじるが動きは止まらない。

 少しずつ体力を削っているが、この調子では勇者軍が先に崩壊してしまうだろう。

 だが蒼炎大隊の加勢するまでの時間は稼げた。

 

「トウジ殿は姫様の護衛をお願いいたします」

 

 俺も前線に出るつもりだったが、セイヴァスに指示されて踏み止まった。

 クラリスは自身の身長より長い杖を掲げて集中している。

 〈魔術喰らい〉との戦闘の時と同様に《爆裂火球》を使うようだ。

 

 大規模な魔術なだけあって魔力の収束をエゾモモンガの髭が感じ取りむずむずした。

 一部の螽人族も気が付いたようで、弓を持った奴が攻撃してくるが飛んできた矢は俺が斬り払う。

 

 なるほど、こうやって狙われるなら確かに護衛が必要だ。

 クラリスは矢が飛んできても集中を乱さない。

 

『万象の根源たる魔素よ 繁吹(しぶ)く蒼炎を(こしら)え 迫る寄手を灼き払え』

 

 詠唱により構成が展開される。

 そこに魔力を注ぎ込むことにより、魔素を媒介として事象が発現する。

 

 クラリスの頭上に直径五メートルはある蒼い火球が出現した。

 前回は遠目で見ただけだったが、これだけ傍にいると毛皮越しでも熱を感じる。

 

 クラリスは鋼鉄蟻の隊列のやや後方を狙って《爆裂火球》を投擲した。

 仲間に被害が出ないようにするためだろう。

 

「おおっと」

 

 魔力が枯渇して倒れそうになるクラリスを抱きかかえながら、飛んでいく蒼い火球の軌跡を見守る。

 火球の本体は騎手を失った鋼鉄蟻の一体に直撃。

 

 全身が一瞬で蒼い炎に包まれ暴れるが、すぐに動かなくなった。

 まるでプラスチックのように、鋼鉄蟻の体が収縮しながら溶けていく。

 

 《爆裂火球》は名前の通り爆裂して周囲に余波を与えるのだが、前回と違う点があった。

 

「あれ、爆発が横方向に伸びてる」

 

「構成にそうなるよう編込んだわ」

 

 俺の腹に埋もれるように抱き着きながらクラリスが答えた。

 通常なら着弾点から円形に広がる爆発が、鋼鉄蟻の横一線の隊列に合わせたかのように伸びているのだ。

 

 突如背後に火の手が上がり、尻を焼かれた鋼鉄蟻が驚いて暴れる。

 螽人族はなんとか抑えようと手綱を引くが、数名は振り落とされたところを勇者軍に攻撃されていた。

 蒼炎大隊も戦闘に参加し始めたので、形勢は逆転したと言っていい。

 

「一撃で戦況をひっくり返すなんて凄いですね。クラリス様」

 

「ふふん、勇者の仲間を目指すからにはこのくらい当たり前よ。〈魔術喰らい〉の時は相性が悪かっただけ」

 

 ふんすと鼻息荒くクラリスが言い放つが、顔を俺の腹に埋めたままなので締まらなかった。

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