「加勢に感謝します。イルグリッサ王国のクラリス・イル・グリッサ第二王女殿下」
片膝をついて優雅に礼をしているのは、先の戦闘で光る矢を放っていた人物だ。
容姿端麗な
「顔を上げてください、ラナク様。義勇軍に身を置く以上は、身分による序列はありませんから」
相変わらずの無表情だが、態度は余所行きモードになったクラリスが答える。
森人族の彼の名はラナク・ソルブリーズ。
なんでも自己紹介によると、イルグリッサ王国より南にある森人族が統治する国の、ソルブリーズ氏族の長らしい。
八つの氏族が代表となりその国を運営していて、ソルブリーズ氏族もその中の一つであった。
「王女殿下も勇者の元へ向かっておられるのですか? そうであれば是非、我が隊も同行させて頂けないでしょうか」
「構いませんが、もしかしてラナク殿は勇者の仲間を志しておいでですか?」
「ええ、その通りです! 我が〈光輝の矢〉はどんな標的も狙い違わず射貫きます」
自信満々にラナクが嘯く。
わざわざ背負った弓を構えて弦を引くアクションまでして見せてきた。
狙いはともかく蟻は射貫けてなかったよね? と突っ込みたかったが、空気を呼んで黙っておく。
しかし次の言葉は聞き捨てならなかった。
「必ずや勇者の仲間となり、〈絶望半島〉から魔王の軍勢を殲滅してみせましょう。かの勇者は麗しき少女と聞いています。すべてが終わった後には是非とも我が妃として迎えたいものです」
「―――は?」
俺の放った怒気が衝撃波のように広がり、周囲の人々を金縛りのように硬直させた。
貴様なんぞに姪っ子はやらん勇者の役目を終えたら無事に日本に帰すし森人族の大人ってことは年齢三桁だろ中二と結婚しようとするなよこのロリコンが―――。
「ト、トウジ?」
強張ったクラリスの声を聞いて我に返る。
周囲を見まわせば全員が青ざめた顔で俺を凝視していた。
目の前にいたラナクは弓を取り落とし、冷や汗をかきながら浅い呼吸を繰り返している。
「……失礼。ちょっとあれが有頂天だったもので」
「???」
「は、ははっ。見た目によらずなかなか鋭い覇気を放つではないか。亜人君は」
クラリスは意味が分からず首を傾げ、ラナクは落とした弓を拾いながら強がっている。
若干俺を見下した雰囲気を出しているが、人種からしたら森人族も亜人やぞ。
このようにラナクとはあまり良い出会い方をしなかったが、同行を拒否する理由もクラリスたちにはなかったので(俺はある)、共に最前線へ向かうこととなる。
とにかくこのラナクという男は自信家で、敵と遭遇する度に先陣を切って突撃していった。
しかし得物は弓なので、前衛を立たせて後ろから〈光輝の矢〉による曲射攻撃がメインだ。
【光明神の加護】によりラナクだけに見える光の軌跡で狙いを定めた獲物には、自動追尾で確実に命中するらしい。
おそらくだが某狩猟ゲームの弓を構えた際に、放物線の弾道が光の線で表示されるあれだ。
個人的に射程と命中精度は良いが威力はイマイチ。
〈魔術喰らい〉が相手なら飛んできた矢を斬り払われてしまいそう。
「あの方ではお姉様の横に立つには力不足と言わざるを得ません」
「ですが
クラリスとしても評価は微妙のようだが、セイヴァスの言うことも一理ある。
とにかく自信たっぷりの堂々とした態度なので、戦場においては士気の維持に役立つ。
気弱な指揮官では勝てる戦も勝てなくなってしまう。
実際にラナクの部隊だけでなく蒼炎大隊や俺たち輸送部隊の兵士たちの中には、彼を慕っている者もいる。
特に数少ない女性兵士は甘いマスクにやられていた。
これだからイケメンは……なのだがクラリスはそうでもないようだ。
「皆を鼓舞する才能は認めますが軟派な殿方は嫌いです」
さすがに手は出してはいないが、ラナクは異性相手に見境なく口説き文句のような発言を繰り返していた。
好色というよりは喝采願望の気が強そうだ。
「それにトウジを低く見ているきらいがあります」
「まあ見た目がこんなんですからね」
「次の戦闘で〈魔術喰らい〉を倒した時のように大暴れしても良いのですよ?」
「その必要がある時はそうします」
ラナクの部隊が合流して更に戦力が増しているし、〈魔術喰らい〉のような大物も出現していないので俺の出番はなかった。
できれば目立ちたくないので助かっているし、ラナクは精々油断するがいい。
そして悠里に色目を使った瞬間に〈月明剣〉で斬り捨ててくれよう。
ラナクと合流してから三日後。
夜中に部隊をこっそり抜け出した俺は、二つ目の祝福の元へ向かう。
今回も森の中にひっそりとあったが、井戸ではなく地下室だった。
かつて神殿だったと思われる建物は朽ち果てているが、地下室へ続く階段はしっかり残っている。
『光の精霊さん、小さい明かりをお願いします。本当に小さくでいいからね?』
念押したにも関わらず、空中に現れた《光球》は車のヘッドライト(しかもLED)のような光量だ。
地下に降りてから発動させて正解だったな。
もっと小さく、小さくとお願いしてようやく一般家庭の照明くらいの光量に落ち着いた。
地下室は意外に広く一辺が二十メートルくらいあり、奥の壁に真っ黒で影のような扉がある。
四次元頬袋からエリスを開放して、前回と同じく地下室全体を覆うように結界を張ってもらう。
追加で猫を吐き出すと、彼女は黒い扉に近づき前脚でカリカリして扉の封印を破壊。
最後にレジータが転移用の扉を設置すれば完了である。
「トージ!」「トウジ!」
夜中だというのにフィンとシンクはまた〈嘆きの塔〉の地下で待機していたようだ。
扉から飛び出してきた二人を体で受け止める。
「よし、これで下準備は終わった。明日はいよいよ悠里と対面か……」
「ユーリってトージの家族だよね? 見た目はホロカちゃんみたいなの?」
「いやいや、見た目は人族の女の子だから……そうだよな?」
「あー、うん。見た目は人族だよ。見た目は」
「なんだよその含みのある言い方は。シンク、やっておしまいなさい」
「ん」
「ちょ、冗談。冗談だってば!……ぐえー」
猫は逃げようとしたがシンクに捕まり、抱っこ(強め)を食らいぐったりした。