ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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386話:ご当地ヒーローと牛

 説明しよう! 〈コランカイザー〉とは北海道胡蘭市をこよなく愛し、胡蘭市()()の平和を守るために、日夜働き続けるご当地ヒーローである!

 

「というわけで〈コランカイザー〉変身ブレスレットを持ってきたから、これで〈コランカイザー〉に変身して戦うといいよ」

 

「前に使ってみたけど変身できなかったぞ?」

 

「そりゃあ〈コランカイザー〉は胡蘭市在住の冴えないおじさんが変身する設定だからね。〈コラン君〉は変身できないさ」

 

 一仕事終えたと言わんばかりに、猫が前足で顔を洗っている。

 そんな猫をイングリットが抱き上げた。

 

「ふわああ可愛い! 本当に喋ってる。さっきのは気のせいではなかったのですね」 

 

「おおっと、見られてしまったか。まあ緊急事態だったから仕方ない。僕の存在は他の人には内緒だよ……あっ、ゴロゴロ」

 

 イングリットに喉を撫でられてご満悦の猫。

 〈コラン君〉としての能力を失っている今、悠里を助けるには〈コランカイザー〉に変身するしかなかった。

 

「あ、ちゃんと決められたポーズと台詞を言ってね」

 

「ぐぬぬ……」

 

 ポーズと台詞は〈コランカイザー〉の中の人だった田淵君から履修済みだから問題ない。

 イングリットの前でやるのはちょっと恥ずかしいが、やるしかない。

 

 俺は腕にブレスレットを嵌めると、両足を開いて構える。

 ブレスレットの嵌っている右腕を水平に持ち上げ、小指から順に握り拳を作ると合言葉を唱えた。

 

「―――煆焼(かしょう)

 

 次の瞬間、俺の全身が黒炎に包まれた。

 

「トウジ様!?」

 

 イングリットが驚き声を上げるが問題ない。

 黒炎は実体化して俺の体に纏わりつき、〈コランカイザー〉へと変身した。

 

 オジロワシの嘴を模したヘルメットに、胡蝶蘭の花弁とオジロワシの羽を掛け合わせた装飾が胸の真ん中に付いている。

 胡蝶蘭の花弁は左右が大きいのが特徴だが、その部分がオジロワシの羽になっているので、まるで翼を広げているかのよう。

 

 手足はライダースーツの上から包帯やベルトを幾つも巻きつけたような造形なので、正義の味方というよりは悪の怪人(ヴィラン)に見えた。

 しかも全身が艶消し黒だから怪人感は増し増しだ。

 

「トウジ様、ですよね?」

 

「ああ、そうだ。悠里に加勢してくる」

 

 俺はイングリットをその場に残して、先程爆発のあった場所へと向かう。

 踏み出した足がとても軽い。

 〈コラン君〉の時と同じかそれ以上のスピードが出ていそうだ。

 

 首に巻いた漆黒の包帯をなびかせながら、改めて周囲の地形を確認する。

 占拠している砦周辺は何もない平原で見通しも良い。

 

 平原でも戦闘は終了していて、生きている邪人や闇の眷属の姿はなかった。

 生き残った勇者軍が負傷者を救護したり、敵の死体を片付けたりしている。

 

 悠里が戦っていると思われる場所は、砦の北側にある小高い丘の先だ。

 現在も断続的に何かが爆発するような音が聞こえていて、丘を一気に駆け上がるとようやく戦況が明らかになる。

 

 悠里は巨大な四足歩行の獣と戦っていた。

 

「Bmooooooooooooo!」

 

 そいつは牛のようなシルエットをしているが、全身が岩石で覆われている。

 頭部には長く太い角が上向きではなく下向きに生えていて、長い尻尾の先には鉄球のような塊が付いていた。

 体長は短く見積もっても大型の観光バスくらいの長さがありそうだ。

 

「あれは闇の眷属の流星雄牛(メテオタウルス)だね。外様の神の飼牛さ。体を覆っている鱗は隕鉄製だよ。魔力伝導率が高いから武具の素材として重宝するよ」

 

 いつの間にか足元にいる猫が勝手に解説を始めた。

 

「隕鉄製といえば俺の〈月明剣〉もそうだな……って、それなら滅茶苦茶硬いじゃないか! 素材がどうのこうのなんて言ってる場合じゃないぞ」

 

 実際に悠里は攻めあぐねているようだ。

 流星雄牛の突進や尻尾を回避し続けていた。

 

「Bmoooooooaaaaaaa!」

 

 一つも攻撃が当たらないからか、流星雄牛が怒り狂っている。

 咆哮を響かせながら前足を持ち上げると、足元の悠里目掛けて角を思い切り叩きつけた。

 

 これも悠里が紙一重で回避したため、角は地面に突き刺さる。

 その衝撃はすさまじく、大砲が着弾したような轟音と共に大量の土煙が舞う。

 爆発音の正体はこれで、あちらこちらに大穴が開いていた。

 

 俺は悠里を援護するべく丘を駆け降りる。

 〈コランカイザー〉は某戦隊ヒーローと某仮面ヒーローの中間くらいのビジュアルをしているが、攻撃手段は武器でもなければ蹴りでもなかった。

 

 走り出すと共に俺の体が再び黒炎に包まれる。

 そのまま加速し黒い弾丸と化した俺は、尻尾を振り回そうと体を捻っていた流星雄牛の横っ腹に突っ込んだ。

 

「―――――畏怖のアインス」

 

 その初撃は、黒炎を纏った右拳。

 

 硬いもの同士がぶつかり合った衝撃で大気が震える。

 やはり隕鉄の強度は計り知れず、砕くことは叶わなかった。

 

 逆に俺の拳が割れるかと思ったが、幸いにも腕が少し痺れるだけで済んでいる。

 〈コランカイザー〉としての身体強度は相当に高いようだ。

 

 流星雄牛の鱗を砕くことはできなかったが、ダメージが全くないわけではない。

 衝撃は鱗を通して内臓へと伝わる。

 

「Buaaaaaaaaaaaaaaaaa!」

 

 内臓を痛めた流星雄牛が苦悶の咆哮と共に地面に倒れた。

 口からは血が混じった涎が溢れ、じたばたと藻掻いている。

 

 しかもそれだけではなく、俺の拳から黒炎が流星雄牛へと燃え移り、鱗の内側を蒸し焼きにしていた。

 これが〈コランカイザー〉の第一の必殺技〈畏怖のアインス〉である。

 

「えっ、誰!?」

 

「俺だ。藤治だ」

 

「叔父さん!? 良かった。目が覚めたんだね」

 

 突然現れた悪の怪人に悠里は戸惑っていたが、俺の声を聞いて涙声になる。

 

「ごめんなさい。わたしのせいで……」

 

「こうして無事だったんだから気にするな」

 

「でもなんで〈コランカイザー〉?」

 

「細かい話はあとだ。まずはこいつをなんとかしよう」

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