ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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387話:ご当地ヒーローと流星

「Broooooooaaaaaaa!」

 

 黒炎に炙られて流星雄牛が吠えた。

 俺の手から離れても黒炎は鱗の上でメラメラと燃え続けている。

 

 このまま倒れてくれると助かるのだが、流星雄牛は怒りでより獰猛になっていた。

 ギロリと俺を睨みつけると、大型の観光バスくらいの巨体が突進してくる。

 

 初速から時速100kmくらい出ていそうだが、急激なGで内臓にダメージはないのだろうか。

 などと考え事が出来るくらい〈コランカイザー〉の身体能力は高く冷静に対処できた。

 

 突っ込んでくる流星雄牛の足元へスライディングで潜り込み、すれ違い様に腹を観察する。

 横っ腹と同様に隕鉄製の鱗で覆われているため、残念ながら弱点とはならなそうだ。

 

 そうなると鱗に覆われておらず攻撃に適していそうな他の部位は、関節の裏や目、鼻、口くらいか。

 突進を躱された流星雄牛は、すぐ近くにいた悠里へと進路を変えた。

 

「悠里! 避けろ!!」

 

 それまでは流星雄牛の軌道を予測して、早めに横に飛んで躱し続けていた悠里が動かない。

 まさか怪我をして動けないのかと思ったが、その覇気に満ちた表情がそうではないと否定していた。

 悠里は腰だめに剣を構えたまま、流星雄牛の突進を左斜め前方にすり足で移動して躱す。

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして目の前を通過する大木のように太い後足に剣を振るう。

 とても生物を斬りつけたとは思えない、ガリガリと石を削るような音が響き渡ると同時に悠里が弾き飛ばされた。

 

「悠里!」

 

「大丈夫!」

 

 空中で体を捻り、足から華麗に着地した悠里が俺に向かって手を振っている。

 なんだか先程までよりも悠里の身体能力も上がっている気がした。

 

「そりゃそうさ。誰かさんと再会できて感情の発露が良い方向に向かっているんだよ。【激情神の加護】の力も増すってものさ。これならもっと早く再会させればよかったなぁ」

 

 またもや猫がいつの間にか俺のマフラーの中に潜り込んでいて、ひょっこり顔を出した。

 

「誰のせいで再会するような状況になったんだ? 誰のせいで悠里が黒いオーラを纏うくらい精神的に追い詰められてたんだ? あまりに無神経な発言を続けるなら〈智慧の神〉に報告するぞ」

 

「あはははははは」

 

 俺の怒りを察知した猫は、誤魔化すように笑いながらマフラーの中に引っ込んだ。

 するとすぐに猫の質量自体が消失する。

 本当に神出鬼没な奴だ。

 

 悠里の一撃は流星雄牛の右後足の鱗を削ることに成功していた。

 それまで隕鉄製の鱗に傷ひとつ付けられなかったのだから僥倖だ。

 

 無理に狙いにくい目鼻や関節の裏を狙わなくても、同じ箇所を攻撃し続ければ鱗を破壊できるだろう。

 そうすれば鱗の下の肉を直接叩ける。

 

 外側から黒炎で炙られてもピンピンしているが、体力が無尽蔵というわけでもないだろう。

 いわゆる「血が出るなら殺せるはずだ」というやつだ。

 

「悠里、同じ場所を攻撃するんだ!」

 

「わかった!」

 

 嬉しそうに答えた悠里が、流星雄牛の右後足に張り付き連撃を加える。

 少しずつだが着実に鱗に傷が増え、(ひび)が広がっていく。

 

 嫌がった流星雄牛が巨体を旋回させて俺に対して体を横に向けた。

 おっとこれは「ボディがお留守だぜ」状態だ。

 

 俺が接近するのに合わせて流星雄牛が棘付きの尻尾を振り回してくるが、再びスライディングでやり過ごし、勢いを殺さず立ち上がりながら拳を振るう。

 

「―――――威嚇のツヴァイ」

 

 拳に纏った黒炎が弧を描く。

 その次撃は、遠心力の加わった左拳。

 

 流星雄牛にギリギリまで体を寄せ、腰を捻りながら放ったフックが鱗を激しく叩く。

 相変わらずの堅さで左手が痺れたが、手応えは初撃と同等かそれ以上だ。

 

 流星雄牛の巨体が一瞬だけ浮いてから大地に倒れた。

 初撃のストレートより威力重視のフック。

 

 これが〈コランカイザー〉の第二の必殺技〈威嚇のツヴァイ〉である。

 

 全然必殺じゃないしパンチの種類が違うだけじゃないかって?

 その通りだ。

 だがヒーローの技とは得てしてそういうものである。

 

「Boooooooaaaaaaa!」

 

 結果的に腹を左右から殴られ、流星雄牛が地面で悶え暴れる。

 地面に体を擦り付けても黒炎は消えていないので、鱗の内側を炙る速度も倍になった。

 あまりに激しく暴れるので追撃できず、俺と悠里は一旦距離を取る。

 

「このまま倒れてくれるとありがたいが……あ、まずい」

 

 立ち上がった流星雄牛の角が青白く発光を始めた。

 あれは隕鉄に魔力を籠めている合図だ。

 俺の隕鉄製の〈月明剣〉と同じ輝きなのでよくわかる。

 

「おいおいおい、同じどころか充填率が早くないか!?」

 

 隕鉄は魔力を良く吸う性質を持っていて、乾いたスポンジが水を吸うかのごとく魔力を吸収し続ける。

 その癖に一気に魔力を籠めようとすると、今度は逆に魔力を弾いてしまうので、ゆっくりと時間をかけて魔力を流す必要があった。

 

 ……そのはずなのだが、流星雄牛の角は充填率が0%から一瞬で100%になったような、激しい輝き方をしている。

 

「うわ、綺麗だけどやばそう?」

 

 悠里の予感は正しい。

 流星雄牛が四肢を屈めたかと思うと、一気に伸ばしてなんと空へと飛び上がった。

 

 そして巨体を縦に回転させながら角を大きく振るう。

 充填されていた魔力は角から解き放たれ、流星となって俺たちに襲い掛かった。

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