ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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389話:ゆるキャラと斬り捨て御免

「イングリットお姉さま!」

 

「あら、クラリス。来ていたのね」

 

 蒼炎大隊と輸送部隊が合流し、イルグリッサ王国の第一王女と第二王女が無事に再会を果たした。

 相変わらず無表情のままクラリスがイングリットに抱き着くが、その声は弾んでいる。

 

 主力であった黒虎と流星雄牛を討伐したので、魔王軍が殲滅されるのも時間の問題だろう。

 後のことは他の兵士に任せて、姉妹と同様に俺と悠里も再会を喜び合っていた。

 

「悠里が無事で本当によかった。悠里までこっちに来ていると聞いた時は、本当にあの猫に殺意を覚えたよ」

 

「猫?」

 

「あれ、悠里は【混沌の女神】に召喚されたんじゃないのか?」

 

 周囲や〈コラン君〉に戻ったことにより復活した四次元頬袋の中を探しても、猫の姿は見当たらない。

 また逃げたな。

 

「皆様、積もる話もあるでしょうから、砦に戻って情報交換をいたしましょう」

 

 イングリットの提案により皆で砦に移動する。

 その間も悠里は俺にべったりだった。

 横から抱き着いた状態で歩いていて、灰褐色の毛皮に顔を埋めながら話しかけてくる。

 

「叔父さんはどうして〈コラン君〉の姿なの? さっきはちゃんと人の姿だったよね? しかも安い着ぐるみじゃなくて本当の生き物みたいな質感だし」

 

「それも積もる話だなあ。この体のせいで最初は絶望もしたもんだ。あ、後で〈コラン君饅頭〉食べるか? 出せるから」

 

「出せるってのがちょっと何言ってるかわからないけど食べる! こっち来てから甘いものなんて全然食べられないし」

 

「ユーリとトウジ様は本当に親族なのですね。トウジ様の本当の姿を見てなければ、信じられなかったかもしれません」

 

「本当の姿?」

 

 イングリットの言葉にクラリスが首を傾げている。

 本当の姿である益子藤治三十歳にはもう戻れないので、説明しても信じてもらえないかもしれないな。

 砦の入口までやってきたところで、長い金髪を風になびかせたイケメンが俺たちの元へやってきた。

 

「イングリット・イル・グリッサ第一王女殿下。ご無事で何よりです」

 

 片膝をついて優雅に一礼したのは、ラナク・ソルブリーズという名の森人族の男。

 確かイルグリッサ王国より南にある森人族が統治する国の、ソルブリーズ氏族の長だったはず。

 ここに向かう道中で合流した、勇者の仲間を志す有象無象のうちの一人である。

 

「ラナク様、お久しぶりです。どうぞ顔を上げてください。義勇兵において身分による序列はないのですから」

 

「恐れ入ります。してそちらの黒髪のお嬢さんが勇者殿ですかな?」

 

 流し目で悠里に視線を送るイケメン。

 そういえばこいつは悠里を妃にするとか抜かしていたな。

 

 悠里は日本に帰すんだからお前なんぞにはやらんぞ。

 たとえ悠里本人がイケメンに釣られたとしてもだ。

 

「勇者殿。お初にお目にかかります。私はラナク・ソルブリーズ。森人族が統治する国ウィンダリアから、勇者の仲間を志してやってまいりました。国を代表する八氏族のうち、ソルブリーズ氏族の長を務めております」

 

「はあ」

 

 白い歯をキラキラさせながらラナクが自己紹介をしているが、意外と悠里の反応は鈍い。

 

「是非私を勇者様の仲間にさせて頂きたく。そして〈絶望半島〉から魔王の軍勢を殲滅した暁には是非私の妃としてウィンダリアへお越しください」

 

「すみません、どちらもお断りします」

 

「へあっ」

 

 俺に抱き着く腕の力が強くなったかと思うと、悠里は俺から離れて深々と頭を下げた。

 ノータイムで断られたため、全く想定していなかったラナクが情けない声を上げている。

 俺は猫ばりにシャーと威嚇しようかと思っていたが、その必要はなかったようだ。

 

「仲間ですが……私が未熟なばっかりにもう三人失っています」

 

 この〈絶望半島〉では魔王軍とは戦争、殺し合いをしているのだから、敵味方問わず毎日のように誰かが死んでいる。

 同じ義勇兵ではあるが、名も知らない他人とパーティーを組み苦楽を共にした仲間とでは、失われた時の悲しみに差が出るのは仕方がない。

 イングリットが死にかけた時の暴走っぷりからしても、悠里が新しい仲間を拒むのは当然のことだった。

 

「それとラナクさんはあまり好みのタイプではないので……ごめんなさい」

 

「ごふっ」

 

 ばっさり斬り捨てられ、ラナクが見えない吐血をしながら倒れた。

 悠里はやらないが、同性としては同情してしまう。

 ラナクはアイドル並みかそれ以上の美形なので、悠里が全く靡かなかったのは少し以外だった。

 

「ユーリはトウジ様が好きなんですものね。よく話してくれたから知っているわ」

 

「ちょ、誤解のある言い方はやめてよ。叔父さんみたいに普通の人の方が気楽でいいってだけだから」

 

 イングリットの発言に悠里が顔を赤くしている。

 姪っ子に好かれるのは素直に嬉しいが、若いのにそんな消極的な理由でいいのか悠里よ。

 おじさんの勝手なイメージでは、中高生の女子なら白馬に乗った王子様的な存在に憧れていると思っていたのだが。

 

「トウジ殿が、普通?」

 

 益子藤治の姿を知らないラナクが、地面に倒れたままこちらを見てくる。

 まぁ〈コラン君〉は普通ではないな。

 

 フラれたダメージで動けないラナクはそのままにして、俺たちは砦内にある一室に案内された。

 宣言通り〈コラン君饅頭〉を提供しつつ一服する。

 

 久しぶりの甘味に悠里は舌鼓を打ち、イングリットとクラリスも和菓子という新感覚に顔を綻ばせていた。

 悠里がアトルランにやってきた経緯を聞きたかったが、それは向こうも同じようなので先にこちらの事情を説明する。

 

「えっ、叔父さんが交通事故で死んじゃったのって、こっちの世界の神が原因だったの!?」

 

 そうなんだ。

 だから猫が現れた時はとっちめてやってくれ。

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