ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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39話:ゆるキャラと亜竜

 竜の信奉者の神殿には、シンクの本気を出した飛行により瞬く間に到着する。

 

 コノギ村をから続く細い街道は少しずつ幅を広げ、村と思われる集落を二つ通過した頃には、馬車も走れるくらい立派になっていた。

 そしてその街道の先に美しい造形の神殿がある。

 

 素人目だがリージスの樹海の深層、シンクたち竜族の住まう山脈で見た神殿とよく似ていた。

 神殿の外、正面には石造りの祭壇のようなものがあり、そこにはメディルを二、三歳ほど成長させたような少女が横たわっている。

 純白の生地の貫頭衣のようなものを着させられていた。

 

 傍らには同じ意匠の黒いローブ姿の人物が二人立っていて、少し離れた周辺には祭壇を囲むようにして、やはり同じローブ姿の連中が十人ほどいた。

 

 周囲の連中は祭壇に向かって跪いている。

 黒いローブ姿の集団が祭壇の少女を生贄に捧げる光景は非常に怪しい。

 

 ザ・暗黒の儀式といった様相で、黒い魔素が三つほど生み出されて、隠されていた恐怖が姿を現してしまいそうだ。

 

 不意に傍らに立つ人物の片方が腕を振り上げると、逆手に持った美しい装飾の施された儀礼用の短剣が、太陽光に反射してきらりと光った。

 まずい、儀式はもうクライマックスのようだ。

 

「Gyauuuuuuuuuuuuuun!(飛び降りて!)」

 

 シンクは叫ぶと高速飛行を続けた状態で《人化》した。

 咆哮に驚いて地上の連中が見上げると、今度は《人化》の輝きが眩しくて額に手をかざす。

 

 飛び降りる、というか高速飛行の慣性を残したまま空中に放り出されたゆるキャラは、弾丸の如く地上へ落下する。

 もちろん〈コラン君〉の加護があるため、このまま墜落死するようなことはない。

 

 エゾモモンガの飛膜とオジロワシの羽を駆使して、極力速度を落とさず地上へ降下する。

 ちなみに遥か上空から地上の様子を観察していた能力も〈コラン君〉の加護の力である。

 

【ひとみ:つぶらなおめめはうしろもみえて、とおくのものもちかくにみえるよ】

 

 エゾモモンガの広視野とオジロワシの望遠視力の合わせ技だ。

 

 地上が混乱している間にゆるキャラは祭壇近くにふわりと着地した。

 突然現れた謎の生物に黒いローブ姿の二人が驚いている。

 

「その儀式だが中止してくれ。守護竜本人が生け贄は不要だと言っている」

「貴様、何者だ?突然現れて勝手に何を言っている」

 

 儀礼用の短剣を握っている背の高い人物がゆるキャラを誰何する。

 フードから覗く顔は金髪碧眼の美形中年で、声も低音でなかなか心地よい響きだ。

 

 ゆるキャラボイスといい勝負だな。

 

「守護竜グラボ様はこちらにおわす。守護竜の名を騙り威を借るとは万死に値するぞ!」

「まあ待て、ロンベル。この……亜人?の素性は気になる。守護竜はともかく、竜族の従者には違いないようだしね」

 

 ロンベルと呼ばれた男がゆるキャラに向かって手をかざし、魔術か何かを放とうとしたが、もう一人の人物が引き止める。

 ロンベルと比べると背丈が半分くらいで、声も子どものものだ。

 

 その人物が目深に被ったフードを取ると、青い髪の少年の顔が現れた。

 額には竜の証である一本の角が生えていて、気の強そうな眼差しをゆるキャラの頭上後方に向けている。

 

 視線の先にいるのはゆっくりと降下してくるシンクとフィンだ。

 《人化》状態でも竜族の力は扱えるので、シンクも墜落することはない。

 

 では何故ゆるキャラを先行させたかといえば、絶賛人見知りが発動中だからだ。

 地上へ到着したシンクはゆるキャラの背中にぴたっと軟着陸した。

 まるで航空母艦に帰還する戦闘機である。

 

「竜族と妖精族と亜人?か、変な組み合わせだね。亜人の後ろに隠れている君、僕の名前―――守護竜グラボの名を使って生け贄を止めさせてどうするつもりだい?」

「……」

「怯えてないでそこから出ておいでよ。守護竜の強さが怖いのは分かるけど、乱暴はしないからさ」

 

 守護竜グラボと名乗る少年が両手を広げながらシンクへ語りかけるが、彼女からの返事はない。

 シンクは人見知りなだけなのだが、グラボはそれを怯えと受け取ったようだ。

 

「なあシンク、彼は知り合いか?」

「……しらない。しらないから多分亜竜だと思う」

「亜竜?亜竜ってあのワイバーンみたいなやつのことか?」

「あれもそうだけど、あれよりちょっとましなやつ」

 

 亜竜にも色々いるということだろうか。

 シンクの言葉が正しければ、このグラボ少年は《人化》している亜竜になる。

 つまり守護竜を騙ってるのは向こう側ということになるが……。

 

「何こそこそ喋ってるのさ」

「ええと守護竜殿。貴方はリージスの樹海の守護竜でよろしいのですか?」

「リージスの樹海?何故そんな田舎の守護をしないといけないのさ。僕が守護するのはレヴァニア王国だよ」

 

「樹海への捧げ物はご存知ですか?」

「ああ知ってるよ。樹海の奥に引っ込んでいて、もう数十年と姿を現さない竜族のためにご苦労なことだよ」

 

 ふむ、なんとなく分かってきたぞ。

 

 リージスの樹海の守護竜とレヴァニア王国の守護竜はそれぞれ独立した存在だ。

 しかし名前や儀式の内容が似ているので、情報の少ない末端のコノギ村では二つの守護竜が混同されているようだ。

 

 実際にメディルはレヴァニア王国の守護竜グラボの名前は正しく知っていたが、訪れようとしていたのは樹海の守護竜シンクの元だ。

 

「竜巫女を生け贄に捧げてどうするのですか?」

「さっきから質問ばかりだね。まあいいけど」

 

 グラボは鋭い蒼目に艶を含ませると笑みを浮かべた。

 

「竜巫女の生け贄を求めるのはもちろん、その生き血を啜るためさ」

「あ、わかった。こいつ吸血竜だ」

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