「それで魔王の召喚状況はどうなってるんだ?」
「明日進軍を再開するなら、召喚自体は阻止できそうかなぁ」
俺の問いに対して、悠里に抱っこされた猫こと〈混沌の女神〉が答える。
砦での会議は終了し、明日の進軍のために皆が準備を始めていた。
勇者パーティーは英気を養うのが最優先事項ということで、休養を取らせてもらっている。
何かと世話を焼きたがる王女姉妹を適当に誤魔化しつつ、益子家の二人は砦を抜け出し近くの森に来ていた。
悠里に俺と行動を共にしている神々を紹介するためだ。
今回の〈絶望半島〉攻略に神々が関与していることは、魔王召喚の阻止が完了する直前まで秘匿することになっている。
その理由は二つあり、まず一つは神々は容易に人類を手助けしないというルールがあるということ。
もう一つは外様の神にこちらの神の存在を気取られると、向こうも出張ってきて神々の直接対決になってしまうおそれがあるためだ。
「でも〈世界網〉っていう結界で守られてるから、外様の神はやってこれないんじゃないの?」
「通常ならそうなんだけどね……ごろごろ……〈世界網〉は文字通り網状の結界だから、神みたいな大きい存在が寄りかかると、網目が歪んで隙間が大きくなるんだ……ごろごろ」
悠里が質問しながら喉を撫でるので、そのたびに猫がごろごろ言う。
神が地上で力を使い過ぎると、本物の網に寄りかかった時のように〈世界網〉がたわんで網目が大きくなるそうだ。
さすがに外様の神が通れるほどの大きさにはならないが、指や手を差し込めるくらいの隙間になり、網越しだが神同士の殴り合いに発展してしまうという。
「だから僕らが介入するとしても、外様の神が僕らの存在に気が付いてやってくるまでの、ここぞという時まではしたくないんだ。ある意味前者の理由は、後者の理由が発生しないようにするためのものだね」
「それでそのここぞ、という時はどんな状況を想定しているんだ?」
「もちろん魔王召喚の阻止、もしくは討伐のタイミングさ」
「ふむ、最後の祝福はどこにあるんだ?」
「ここから十キロ先くらいかな。そこに魔王召喚のための大型召喚陣が展開されている。召喚のためには色々と贄が必要で、現在も贄を捧げ続けている最中なんだけど、明日から攻め込んで順当に進めば召喚阻止はできると思うよ」
十キロか。
俺一人で突っ切るだけならあっという間かもしれないが、勇者軍として大人数で進軍となるとそうもいかないな。
「ピンチの時は最大限手を貸すつもりだけど、神の介入は可能なら祝福解放だけに留めておきたいね。外様の神とは無関係な部分でも影響が出ちゃうから。ということなので悠里以外には神の存在は明かせないよ……ごろごろ」
「それは祝福を解放して増援を呼んだ時に、大混乱になりそうだな。勇者悠里に頑張って呼びかけてもらうしかない」
「増援ってどんな人たちが来るの?」
「えーっと、妖精の女の子と竜族の女の子、森人族と闇森人族、羊人族の女性と……どうした?」
「なんか女の人ばっかりだね」
何故かジト目になっている悠里。
確かに女性の割合が多いが、他意はひとつもないぞ。
「男もいるから。あ、あと闇の眷属の味方がいるけど驚かないでくれよな」
「えっ、闇の眷属って敵じゃないの?」
「人間に良い奴と悪い奴がいるように、闇の眷属にも良い奴はいるのさ。さっき言った闇森人族も邪人だ。でも基本的に敵なのは間違いない。俺の仲間が例外なだけなので、そこは気をつけてくれ」
「ふうん、おじさ……藤治もこっちに来て沢山冒険したんだね」
「そう。そいつのせいでな」
「ごろにゃーん」
俺が睨みつけると、猫はわざとらしく鳴いてから悠里の胸に顔を埋めて隠れた。
決して懐いているわけではないのだが、悠里としては満更でもないらしい。
嬉しそうな顔で銀の毛並みを撫でまわしている。
そういえば兄貴が猫アレルギーで猫が飼えないって、前に悠里が嘆いていたな。
「確かに藤治が死んで悲しかった。私も急にこっちに連れてこられて、わけがわからないうちに戦わされて、大切な仲間を失って……でも、悪いことばかりじゃなかったと思う。アトルランっていう漫画やゲームみたいな世界が本当にあるって知れたし、私が来なかったら今頃イングリットも死んじゃってたかもしれないわけで」
「悠里……」
それは決して騒動に巻き込まれた事への、自分を諦めさせるための妥協の言葉ではなかったと思う。
経緯はどうであれアトルランでの出会いと別れを、悠里なりに前向きに捉えているようだ。
「藤治と悠里を巻き込んだことは申し訳ないと思ってる。ただ君たちが介入してくれたおかげで、アトルランの人々の犠牲は最小限に抑えられているのも事実なんだ。混沌を司る僕がどれだけ乱数調整しても、得られなかった結果をもたらしてくれていることには、素直に感謝しているよ」
猫が真面目な顔でそう言う。
俺だって悠里と同じ思いだ。
おそらく俺が〈コラン君〉としてリージスの樹海に降り立たなければ、灰色狼に襲われていたフィンは助かっていなかっただろう。
あの天真爛漫な妖精族の少女が死んでいたかもしれないと考えると、胸が張り裂けそうだ。
かといって猫を許すかは別問題だがな。
そう思っていたのだが、不意に猫が爆弾発言をする。
「
「……は?」
「……えっ」
「ん? どうしたの?」
「俺の寿命があと二年ってどういうことだ?」
「あれ、言ってなかったっけ。藤治は二年後に不治の病で死ぬ運命だったんだよ」
…
……
………
…………聞いてねぇ。