ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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393話:ゆるキャラと連携確認

「どうかしたの? トウジ。ぼーっとしてるけど」

 

「そうかな…」

 

「わかりやすく落ち込んでいるように見えますが? その可愛らしいお耳が力なく垂れています」

 

「そうかも…」

 

 俺の左右に陣取っている王女姉妹が心配そうに見上げてくる。

 猫こと〈混沌の女神〉から衝撃の事実を聞かされた翌日、勇者軍は〈絶望半島〉深部への進軍を再開した。

 

 会議で決定した通り一般勇者軍が露払いをし、勇者パーティーが強敵を撃破する作戦だ。

 実際はもっと細かい運用になるのだが、戦争の素人である俺が口出しできるわけもない。

 指揮官のジェラルドに丸投げである。

 

 進軍中の俺たちは後方の馬車で待機し、強敵が現れたら用心棒の剣客よろしく出撃する段取りが組まれていた。

 つまり出番が来るまでは待機なので、昨晩の猫の爆弾発言についてじっくり考えることができる。

 

 俺は猫のせいでトラックに轢かれて死んだが、あの時死ななくても二年後には不治の病で死ぬ運命だったらしい。

 当然普通に死ぬのであればこうやって転生することもなかった。

 

 天国や地獄があるかは知らないが、少なくとも益子藤治の意識は地球から消滅する。

 帳尻合わせで転生した俺が二年後に死ぬということもないらしいので、ある意味猫のおかげで命が救われた(一回死んでるけど)と言えなくもない。

 

 二年後に死んで人生を終えるか。

 転生して第二の人生を生きるか。

 どちらが良いかと聞かれれば答えは明白だ。

 

 これまでは猫を散々けなしてしまっていたが、今後は逆に感謝しなければいけないだろうか?

 猫なら転生で延命させたことを恩着せがましく言ってきそうなものだが、そんな様子はなかった。

 

 俺の本来の寿命が実は短かったこと。

 知らなかったとはいえ猫へ酷い態度を取ってしまったこと。

 この二つが俺に結構なショックを与えていた。

 

「心なしか毛並みも悪い」

 

「大丈夫ですか? 耳揉みますか?」

 

 そう言って俺の灰褐色の毛を撫でまわす王女姉妹。

 対面に座っている悠里も心配そうにこちらの様子を伺っている。

 

 いつもなら王女姉妹との(一方的な)イチャイチャをジト目で見てくるのだが、悠里も俺の本来の寿命を聞いてショックを受けているようだ。

 いかんな、このままでは悠里の精神衛生的にもよろしくない。

 また漆黒のオーラを纏わせてしまう。

 

 こういう時はじっとしていると考え込んでしまうので、運動でもして気を紛らわせるに限る。

 ……とはいえそう都合よく出番が来るわけもないよな。

 

「クラリス様、敵の副将格が現れました。ご準備を」

 

「はいよろこんで!」

 

 報告に来たセイヴァスに俺は謎のテンションで返事をすると、いの一番に馬車を飛び出した。

 

 

 

 

 パーティーを組んだからには、お互いの能力を理解し連携する必要がある。

 俺と悠里が前衛、イングリットとクラリスが後衛なのでバランスは取れていると思う。

 

 魔王召喚まで時間がないことは、勇者軍所属 〈地神教〉神官の神託により情報共有されていた。

 つまりパーティー連携の訓練をしている暇はないため、ぶっつけ本番で挑むことになる。

 

 進軍経路の横を川が流れているのだが、そこから敵が次々と飛び出していた。

 全身に青緑の鱗を纏い、銛のような武器を持った魚頭。

 

 闇の眷属の半魚人(サハギン)である。

 サハギンは俺がアトルランに転生後、初めて遭遇した闇の眷属なのでちょっと懐かしい。

 

「ぷっ、トウジ、すごい顔になってる」

 

「生臭さがここまで漂ってきてるんだよ」

 

 追いかけてきた悠里が、エゾモモンガの鼻先に皺を寄せている俺の顔を見て笑う。

 セイヴァスによるとサハギンは他の義勇兵たちで対応するため、俺たちの相手は他にいるらしい。

 

「私たちの相手は……あれね」

 

 サハギンより大きい何かが川からゆっくり出てきた。

 鱗は一枚もなく、代わりにつるりとした黒い皮膚で覆われている。

 

 大きい顎には鋭い歯が並び、両腕と背中には大きなひれ。

 下顎から腹にかけてと、目の上あたりの皮膚は白くなっているので、ちゃんとあの特徴的なデザインになっていた。

 

 そこまではあれと一緒なのだが、陸上に適応するためなのだろう。

 尾びれの根元から太い足が二本生えているのがちょっとだけ怖い。

 

 そう、半魚人の(シャチ)バージョンなのであった。

 

「サハギンの鯱獣(オルカ)種です。怪力と水魔術が脅威ですので注意してください」

 

「海のギャングが川から出てきたね」

 

「シャチの異名をよく知ってるな悠里。ちなみにウツボも同じ異名なんだぞ」

 

「む、結構かわいい」

 

 イングリット以外の面々が呑気な反応をしながら武器を構える。

 シャチも俺たちを強敵と判断したのか、のっしのっしと歩いて向かってきた。

 

「動きか完全に着ぐるみだね」

 

「〈コラン君〉的には親近感が沸くな」

 

「なでなでしたい」

 

「ちょっと皆さん?」

 

 真面目なイングリットが声を荒げるが、俺たちは決して油断しているわけではないので問題ない。

 リラックスしているだけだ。

 

 ある程度接近したところでシャチが立ち止まり大きな口を開ける。

 口の中でみるみるうちに水が溜まり、水流となって俺に襲い掛かった。

 

「水の吐息(ブレス)か」

 

 俺がオジロワシの黄色い足で地面を蹴って躱すと、水流はぐにゃりと曲がって追従してきた。

 だが動きはそこまで速くない。

 

 もう一度飛んで躱そうとした時、視界の隅から黒くて大きい物体が急接近してきた。

 

「うおっ」

 

「トウジ!」

 

 なんとそれは、水の吐息の上を泳いで突っ込んできたシャチであった。

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