ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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397話:ゆるキャラと孤軍奮闘

 ラウグストの茨によって操られた軍勢が、俺に向かって一斉に襲い掛かる。

 相手は死体なのでゾンビのような緩慢な動きを期待したが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 ゴブリンの群れが明らかに生前より早いスピードで突っ込んできたので、魔力の充填が五割程終わっている〈月明剣〉で正面の奴を斬り払う。

 切れ味鋭い〈月明剣〉によってゴブリンが縦に裂ける。

 その後ろから現れたオークが手にした剣で突いてきた。

 

 返す刃でオークの手首を斬り落としてから飛び退くと、今度は横合いから茨の小人(元種族不明)が体当たりしてくる。

 俺は着地と同時にその場で一回転し、オジロワシの黄色い鳥足で回し蹴りを放つ。

 

 黒曜石のように輝く鋭い爪が小人の体と接触すると、ガリガリと音を立てながら切り裂いた。

 衝撃で転がっていく小人の上をすれ違うようにして、高速の何かが飛来する風切り音をエゾモモンガの耳が拾う。

 

 半身を引いて躱すと、俺の背後の地面に突き刺さったのは茨の矢だった。

 射線の元へ視線を向ければ、そこには下半身が茨で補われた闇森人たちが弓を構えて並んでいる。

 

 腕に纏わりついた茨が伸びて矢になると、即座に弓につがえて撃ってきた。

 俺は〈月明剣〉を盾のように掲げて矢を弾くと、闇森人たちの側面へ回り込むように走って射線を切る。

 

 これらを操っているのはラウグストなので、あいつを倒さない限り攻撃は止まないだろう。

 その証拠に攻撃を加えたゴブリン、オーク、小人はすぐさま茨で体を再生させると俺を追いかけてきた。

 一体ずつ相手をしていては埒が明かないし、立ち止まれば軍勢に飲み込まれてしまう。

 

『大地よ』

 

 高品質の魔力報酬を餌に、精霊に忖度をさせた俺の適当魔術が発動する。

 石畳が複数の槍に形を変えて隆起すると、ゴブリンたちを貫きその場に縫い留めた。

 

『炎よ』

 

 空いている左手を闇森人に向けながら唱えれば、炎の渦が巻き起こる。

 手の平から伸びた炎の渦は、飛んできた矢を燃やしながら闇森人たちを包み火柱を上げた。

 

『風よ』

 

 先ほどまでの突風ではなく、風を圧縮した刃を精霊にイメージしてリクエストする。

 過去に何度も見てきた《風刃》を再現した一撃は扇状に広がり、接近していたトロールや吸血鬼の体をバラバラに切り裂いた。

 

 なるほど、茨で死体を操っているだけなので攻撃自体は単調だ。

 折角のトロールや吸血鬼も生前の能力を使うわけではないので、ゴブリンやオークとそう変わらない。

 

 などと油断したのがいけなかったのだろう。

 細切れになって地面に落ちた死体の奥で、地面に横たわる黒竜が顎を開き、口腔内が赤々と燃えているのが見えた。

 

「生きている竜!?」

 

 咄嗟にマフラーを左手で掴み頭から被り、放たれた灼熱の吐息(ブレス)に自ら飛び込んだ。

 マフラーは絶対の防御を誇るが、いかんせん面積が小さかった。

 

 それなら無理やりにでも防御できる面積に体を納めるしかない。

 吐息に対して平行に体を伸ばし、マフラーにすっぽり隠れたつもりの俺だったが、残念ながら丸いお腹が少しだけはみ出していた。

 

「ぐうう……っ」

 

 灼熱の吐息によって灰褐色の毛は燃え尽き、皮膚が焼け爛れる。

 なんとか吐息をやり過ごし、地面にべしゃりと墜落した。

 

 激しい痛みに堪えつつ、四次元頬袋に仕込んであった〈ハスカップ羊羹〉を口腔内に直接移して咀嚼する。

 甘酸っぱい味が口の中に広がると、万能回復薬である羊羹が腹の火傷を癒すだけでなく、倍速映像のような速度で毛も生え始めた。

 

 俺の周囲にいた死体も巻き込まれて焼失していたが、すぐに後詰めの死体が集まってくる。

 更に黒竜の顎からは、第二射を予兆させる赤い煌めきが見えるではないか。

 

『風よ!』

 

 黒竜の吐息と俺の精霊魔術が真正面からぶつかり合う。

 今回イメージしたのは《突風》と《風刃》の混合で、向こうが灼熱の吐息ならこっちは風の吐息だ。

 

 狙い通り黒竜の灼熱の奔流を、吹きすさぶ風が押し留めた……のも僅かな間だけだった。

 拮抗はあっという間に崩れ、押し負けた風は霧散し灼熱の奔流が俺を襲う。

 

 ただまぁ感覚で負けるだろうなと予想はしていた。

 だから本命はこっちだ。

 

「うおおおおおおお!」

 

 魔力充填が九割を超え、青白い輝きが増す〈月明剣〉を水平に振り抜く。

 足を止めた俺に茨を纏う死体たちが群がるが、刀身から放たれた青白い波紋、いや光波があまたの死体を切断した。

 

 光波のエネルギーは灼熱の奔流のそれを上回る。

 黒竜の吐息は光波で上下に切り裂かれながら霧散した。

 

 周囲の死体は茨で繋ぎ留められているので、首や胴体が泣き別れしたくらいでは止まらない。

 すぐに茨が伸びて接合してしまうだろう。

 

 だが充填たっぷりの〈月明剣〉の一撃は伊達じゃない。

 死体の切断面には光波のエネルギーが残存していて、青白く光っている。

 

 その光は接合しようとする茨を阻むだけでなく、死体そのものを焼き尽くした。

 光波は吐息を打ち消しながら黒竜へ到達し、長い首の真ん中あたりを切断する。

 他の死体同様に切断面から青白い光が伝播し体に燃え広がった。

 

「嗚呼、同盟たる〈黒竜〉の眷属よ。魔王喚問の贄となり給え」

 

 黒竜の後ろからラウグストが現れた。

 こいつも〈月明剣〉の一撃を受けて腰の部分で切断されているが、何故か焼失は免れている。

 

 いや、どうやら茨による再生速度が焼失速度と拮抗しているようだ。

 青白い光が腰のあたりで熾火のように燻っていた。

 

 ラウグストは焼失しつつある黒竜の首と胴体を茨で持ち上げて魔法陣に乗せる。

 すると絶命しているはずの黒竜の体が震えて、魔法陣が赤黒く光って反応した。

 

「我が命を以て、大敵を討つ試練を乗り越えるとしましょう」

 

「待て!」

 

 嫌な予感がして追い縋ったが、間に合わなかった。

 抵抗をやめたラウグストの全身が〈月明剣〉の余波に負けて燃え上がる。

 その命は黒竜と同様にしっかり生け贄となってしまったようだ。

 

 魔法陣から赤黒い光が迸り、俺の視界は奪われた。

 見えないが理解する。

 

 強烈な魔力を体が感じ取り、エゾモモンガの灰褐色の毛が逆立つ。

 魔王召喚は成されてしまった。

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