ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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398話:ゆるキャラと全員集合

「間に合わなかったようだね……って、はぁ!?」

 

 マフラーの中から猫が顔を出したかと思うと、驚きの声を上げた。

 猫なのに表情も器用に驚きのそれになっている。

 

「くそっ、魔王が召喚されてしまったら、悠里を日本に帰せなくなってしまうじゃないか」

 

「いやぁ、これ魔王じゃないよ」

 

「……は?」

 

 魔王じゃないなら何なんだよ、と言い返すまでもなく、俺にも何かは理解できた。

 この威圧感は覚えている。

 

 赤黒く発光する魔法陣から浮かび上がってきたのは、直径三十cmほどの茨の塊だ。

 毛糸玉のように茨が絡まり合って蠢いている。

 

 これを見るのは二度目だ。

 〈嘆きの塔〉で遭遇し四次元頬袋に隔離したのだが、俺の腹を突き破って脱出され〈コラン君〉の人格が暴走。

 猫の救済処置を経て大陸移動をするはめになった宿敵。

 

「外様の神 〈黒茨卿〉か」

 

 一度は現世への顕現を阻止した相手が降臨していた。

 

「どうして魔王じゃなくて外様の神が直接来たんだ?」

 

「生け贄の量が過剰だったんだんだろうね。さすがに〈世界網〉を通過できたのは本体ではなく分体みたいだけど、魔王より強力なのは間違いないよ」

 

「おいおい、イレギュラーで外様の神が出てきたんだったら、こっちの神々も力を貸してくれるんだよな?」

 

「うーん」

 

「は? この期に及んで―――」

 

 気が付くと茨の塊が肥大化し、四足歩行の黒い獣に変形していた。

 全長五メートルくらいある狼に似た獣で、頭が二つある。

 

『つ……に、降り……こ…………た』

 

 ノイズ交じりの声がどこからともなく聞こえてきてきたかと思うと、その巨体が掻き消える。

 防御は辛うじて間に合う。

 

 掲げた〈月明剣〉と突進してきた獣の牙が衝突した。

 威力を殺しきれず後方へ弾き飛ばされる俺を、獣は追いかける。

 

 空中へ飛び上がり縦に一回転すると、扇のように膨らんだ尻尾で俺を叩きつけた。

 獣は体も尻尾も無数の蠢く茨で構成されている。

 尻尾によって俺の背中はおろし金で摺り下ろされたかのように、ずたずたに引き裂かれた。

 

「ぎぃっ」

 

 歯を食いしばって痛みをこらえ、回復材である〈ハスカップ羊羹〉を四次元頬袋経由で頬張る。

 しかし獣は回復する暇を与えてくれない。

 

 俺に向かって落下しながら爪を振り下ろす。

 なんとか仰向けに転がりながら体と爪の間に〈月明剣〉を差し込んだ。

 

 軌道のずれた爪が俺の頭上の床に突き刺さる。

 なんとか爪は逸らしたが、上から押さえつけられてまだ回復していない背中に激痛が走った。

 

「ぐぎぎ……」

 

 身動きが取れない俺を双頭が見下ろし、二つの顎の隙間から焔が噴き出し始める。

 まずい、吐息(ブレス)だ。

 

『風よ!』

 

 痛みで集中できていないからか、本来の威力が出ない。

 〈風刃〉で獣の体が多少削れたがびくともしない。

 

 駄目だ、逃げられない。

 呆然と見上げる俺に向かって獣が顎を開いて―――

 

「トウジ!」

 

 幼い声と共に、赤い弾丸が獣に突き刺さった。

 双頭が生えている首の付け根あたりに直撃し、獣を俺の上から押し退ける。

 顎が上を向いた瞬間に吐息が解放され、赫灼とした焔が地下空間の天井を焼いた。

 

「シンク!」

 

 俺を救ったのは角と尻尾を生やした赤いワンピース姿の幼女。

 竜族のシンクだ。

 空中で腰に手を当てて仁王立ちしている。

 

「トージ、大丈夫!?」

 

「ああ、ギリギリで助かったよ。祝福は無事に解放されたようだな」

 

 上体を起こした俺の側に、今度は妖精族のフィンがたってきた。

 蝶の翅をパタパタと動かしながら、小さな体で俺の顔を心配そうに覗き込んだ。

 解放された祝福に〈時空の扉〉が設置され、仲間たちが続々と転移してくる。

 

「うわっ、暗っ、臭っ。何ここ」

 

「トウジはまたピンチになっているのね」

 

(トウジ~。大丈夫~?)

 

 羊人族のリリエル、闇の眷属で吸血鬼のリリン、雪の精霊ユキヨだけでなく、闇森人のルリムとアナ、森人のオーディリエも緊張した面持ちで現れた。

 

「皆、気をつけてくれ! あいつは魔王じゃなくて外様の神 〈黒茨卿〉の分体だ」

 

「ふぁっ、ちょっと聞いてないんですけど!」

 

「ん、関係ない。とっちめる」

 

 リリエルが文句を言うが、シンクはやる気満々だった。

 シンクも以前 〈黒茨卿〉に怪我を負わされているので、リベンジに燃えているのかもしれない。

 

「トウジ様の力になりたいけど、私たちの攻撃が通用するかしら?」

 

「難しいかもしれないわ。だから私たちはトウジ様たちの露払いに専念しましょう。ね、アナ」

 

 不安げに呟くオーディリエの肩に手を乗せながら、ルリムが魔法陣を指差す。

 魔法陣からは通常サイズの、頭が一つだけの茨の狼が続々と召喚されている。

 

「うん、母さん。頑張る!」

 

 アナは狼たちを睨みつけながら決意を示すかのように、両手で抱えた杖の石突で床をトンと叩いた。

 その間にようやく背中が癒えてきたので、俺はゆっくりと立ち上がり〈月明剣〉を構える。

 

「それでどうして神々は力を貸してくれないんだ? 相手も神なんだが?」

 

「理由は後で言うよ。もし誰か一人でも危険に陥ったら問答無用で助ける。だからそれまでは頑張ってくれないかい?」

 

「……わかった」

 

 いつの間にか消えたが、いつの間にかマフラーに戻ってきている猫が神妙な口調で言うので、とりあえずは頷くことにした。

 もしもの時は助けてくれるというのならば、ひとまずは安心か。

 

『異……の同………創……ない』

 

 獣はシンクを警戒しながら、相変わらず聞き取りにくい言葉を発している。

 対話して帰ってくれるならそれに越したことはないが、まぁ無理か。

 

 顎には吐息の予兆である焔がまた見え始めている。

 こうして、俺たちの最後の戦いが始まった。

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