ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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40話:ゆるキャラと二体の守護竜

 吸血竜(ヴァンパイアドラゴン)とはまた分かりやすい。

 太陽の下で活動しているので不死族(アンデッド)ではないようだが、乙女の生き血が必要とは随分と生きづらそうな亜竜だ。

 

 ワイバーンと違って知性を持ち、《人化》も出来る亜竜もいるのか。

 シンクとの差がよく分からないので詳しく聞きたいところだが、グラボはその暇をくれない。

 

「それでそちらが何者かは話してくれるのかな?」

「自己紹介が遅れてすみません。俺は鼠人族のトウジで、妖精族の彼女がフィン。そしてこちらのお方がリージスの樹海の守護竜シンク様です」

 

 相手方は守護竜を敬っているようなので、こちらも多少対応を合わせる。

 突然様付けで呼ばれて驚いたのかこそばゆいのか、背中にくっついているシンクが身じろぎする感覚が伝わってきた。

 シンクがリージスの樹海の守護竜と聞いて、グラボの表情が少し剣呑になる。

 

「さっき言っていたのはその事か。樹海の守護竜は老いぼれと聞いていたけど?」

「つい最近代替わりしたんです」

「ふうん、まあ老いぼれからちびっ子に変わっていてもどうでもいいけど。それで生け贄の儀式をどうするって?」

「できればやめてもらえませんか?今生け贄になろうとしているこの女の子には妹がいて―――」

 

 ゆるキャラの言葉は放たれた怒気によって遮られた。

 グラボを中心にして怒気は波紋のように広がり周囲に影響を及ぼす。

 

 近くにいた竜の信奉者のロンベルは、怒気にあてられ恐怖で腰が抜けそうになるのを、祭壇に手をついて堪えていた。

 顔は青ざめ額には脂汗が浮かんでいる。

 周りの他の竜の信奉者たちも似たようなもので、尻もちをついたり悲鳴を上げてその場から逃げ出したりと、なかなかの混乱っぷりだ。

 

 一方で背後のシンクは怒気を浴びてもけろりとしている。

 様付けで呼んだ時のほうが動揺していたかもしれない。

 

 フィンも我関せずで、祭壇で眠り続けているメディルの姉、アディナの狐耳をもふもふしている。

 いつの間にか図太い神経を手に入れていて、灰色狼に襲われ怯えていたあの姿はもはや見る影もない。

 

 ゆるキャラとしてもグラボの怒気は大したことないと感じていた。

 前に樹海の深層、シンクたちの棲み処でアレフから浴びた殺気に比べれば、甘噛みのようなものだ。

 

「人の獲物を横取りしようとしたら、どうなるかわかってるだろう?」

「やれやれ、しかたない」

 

 ここでようやくシンクが動き出した。

 ゆるキャラの前に出てきてグラボへびしっと指を突き付ける。

 

「とっちめる」

「……いいだろう、ちびっ子。空へ上がりな」

 

 言葉足らずもいいところだがグラボには通じたようだ。

 「表に出ろ」みたいな言い回しをして、グラボ少年が立てた親指で上を指すと、二人は空へと浮かび上がる。

 

 目で追いかけていると、深紅のワンピース姿のシンクのスカートの中身が丸見えだった。

 これまはずいと周囲を見渡すが、竜の信奉者たちはグラボ少年の怒気にあてられた影響で絶賛混乱中。

 

 なので頭上を見上げる余裕のある輩は皆無だ。

 よかったよかった、そんな邪な奴がいれば鉄拳制裁も辞さないところである。

 

 最初に威圧状態から回復したのはロンベルだった。

 額の汗を腕でぬぐうと、ゆるキャラに質問を投げかける。

 

「……貴様たちは本当に樹海から来たのか?」

「ええ、そうですよ」

「樹海の守護竜が最後に姿を見せてから既に数十年は過ぎている。その間樹海への貢ぎ物も絶やさなかったが、国難の時でも遂に我々の前に現れ王国を守護することはなかった。毎年貢ぎ物は樹海内の祭壇から消えていたが、どうせ亜人どもが盗んでいったのだろう。それを今更現れて我が国を守護してくださる、グラボ様へ捧げる生け贄を妨げるなど道理が通らない。故に我らは樹海の守護竜など認めぬ!」

 

 すごい早口でまくしたてられたが、こちらとしては「そんなこと言われても」である。

 リージスの樹海の守護竜はあくまで樹海内部のみを守護の対象としている。

 

 近隣は対象外だし、まさか国ひとつが丸ごと入っているとは予想外だ。

 当初は樹海の守護竜を騙っていると思われたが、実際は同名だが別の守護竜だったので、守護竜を名乗るのをやめろとも微妙に言いにくい。

 

 だがしかし、今はアディナの命がかかっているので引くわけにはいかない。

 

「認める認めないは、互いの守護竜の()()()()が終わったら……」

「貴様らの守護竜は我らの国難の時には現れなかったというのに、こんな亜人の小娘は救いに来たというのか」

 

 ……このおっさんも人の話を聞かないな。

 それだけでなくロンベルは碧眼に暗い意志を宿らせて、祭壇に横わたる少女を見つめている。

 おいおい頼むから早まるなよ、という嫌な予感は的中した。

 

「我が国が救われなかったというのに、亜人風情が救われていいはずがない!」

「おい、やめろ!」

 

 ロンベルは逆手で握りしめていたままの、儀礼用の短剣をアディナ目掛けて振り下ろす。

 まずい、折角儀式には間に合ったのに、死なせてしまってはメディルに顔向けできない。

 

 守れるようにもう少し祭壇に近づいておけばよかった。

 鳥足で地面を蹴り全力で飛び出すが、短剣を振り下ろす速度には敵わない。

 

 鋭い切先が、静かに上下するアディナの胸へ突き刺さり―――。

 

『ダメ!』

 

 フィンの叫び声と共に旋風が巻き起こる。

 

 指向性を持った風がロンベルに襲い掛かり、今まさにアディナの胸へ突き立てられようとしていた短剣が弾かれ宙を舞う。

 一緒に切断されたロンベルの腕と共に。

 

 そして飛び出したゆるキャラは急に止まれない。

 なのでそのまま、フィンの魔術《風刃》を受けてよろめいているロンベルに体当たりする。

 

「がひゅっ」

 

 胸元にゆるキャラの肩が直撃し、肺の空気を押し出されたロンベルが変な声を上げながら地面を転がっていった。

 

「もう、危ないじゃない。トージもちゃんと守ってよね」

「……ああ、助かった」

 

 腰に両手を当てつつ前かがみの姿勢のフィンが、頭上からゆるキャラを見下ろしていた。

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