401話:…… おや!? フィンの ようすが……!
「みんなただいまー」
「あっ、おかえりー」「あー、えっと。おかえり」
「おかえりー。誰かわかんないけど」
「フィンじゃない?」「フィンってこんなんだったっけ?」
「多分フィンだよ」「へーあの? フィンか。どこいってたの?」
「何その肩からかけてるやつ」
フィンが仲間の妖精たちに囲まれて、もみくちゃにされている。
微妙に忘れられているがお互いに気にしていない。
それでいいのか妖精たちよ。
他の同行者であるシンクとユキヨ、そして俺にも好奇心旺盛な妖精たちが群がってきている。
人間の姿を手に入れた俺は、お世話になった皆に礼を言うべく、リージスの樹海に戻ってきていた。
俺が転生して最初にお世話になったのがここ、
「神への陞神、おめでとうございます。トウジ様」
「ちょ、フレイヤさん頭を上げてください。今まで通りでお願いします。てかやっぱりわかりますか?」
妖精の里の長であるフレイヤが跪いたので、俺は慌ててしまう。
フレイヤは他の妖精とは違って、人間の大人と同じ大きさの女性で、妙齢の糸目美人だ。
背中からは美しい蝶の翅を生やし、舞踏会で見るような豪奢なドレスを着ている。
唇には真っ赤なルージュが引かれ蠱惑的で、きらきらと輝く長い金髪は縦にロールしていた。
「これでもかと神気が溢れていますよ」
「うっ、神様初心者なのでまだ練習中なんですよ。特にこの姿だと漏れるみたいで〈コラン君〉の姿だと大丈夫なんですけどね」
「無事に目標である人の姿に戻れてよかったです」
そう言ってフレイヤが益子藤治となった俺の両手を取って微笑む。
柔らかい手の感触と品の良い花の香りが漂ってきた。
「ですが神気を抑えられるようになるまでは、人里には行かないほうがいいですね。この後のご予定は?」
「急ぎの予定はないので、迷惑じゃなければ土産話でもと思っているのですが」
「まぁ! 素敵ですね。もちろん迷惑どころか歓迎します。何日滞在しても構いませんよ。是非旅の話を聞かせてください」
こうして一週間ほど妖精の里でお世話になった。
なんせ色々あった旅路だったので、思い出しながら語るだけでも時間がかかる。
日を分けて語る間に〈森崩し〉戦で共闘した亜人の、二足歩行の熊の姿をしたウルスス族のヴァーソロム君とも再会。
俺の人の姿に驚きつつも、熱い抱擁で出迎えてくれた。
只の人間の体だったらベアハッグで背骨をぼっきり折られているところだが、神格を得て頑丈になっているから問題ない。
……戻りたかった人間の体とは少々違うが、これはこれで便利な体なのでまぁヨシ。
ちなみに妖精の里での宿泊だが、寝る時は〈コラン君〉の姿に変身している。
ここに住んでいるのは小さな妖精たちばかりで、人間と同じ大きさなのはフレイヤだけ。
それぞれにメルヘンなツリーハウスを所有しているが、俺たちが泊まろうと思うと大きさ的にフレイヤのツリーハウス一択になる。
しかもベッドは一つ。
益子藤治の姿で泊まるのはまずい。
フレイヤは気にしないと言っていたが、駄目でしょう……。
その点〈コラン君〉なら性的な欲求は皆無なので護身完成だ。
天気の良い夜は過去に作ったウッドデッキで寝たりもした。
この時も姿は〈コラン君〉である。
だって、大の大人がウッドデッキで寝る姿はホームレスみたいなんだもの。
あと灰褐色の毛皮と脂肪のおかげで寝具いらずという利点もあった。
「ところでフィンは存在進化させないのですか?」
一通り土産話が終わった頃、フレイヤから尋ねられた。
「えっ、フィンは存在進化できるんですか!?」
俺が驚いて声を上げると、缶飲料の〈ハスカップジュース〉を両手に抱えてがぶ飲みしていたフィンがこちらを向く。
「なした? みたいな顔をしているがお前のことだぞ」
「なした?」
「おっと失礼。故郷の方言が出ちゃった。どうした? だな」
そう言われるとユキヨはあっさり存在進化したが、フィンはその気配すらない。
「今まさに摂取してるジュースとかで魔力を蓄えて、条件を満たせば存在進化できるんでしたっけ。してないってことは条件を満たしてないんですかね」
「いえ、あれは……本人が忘れてるだけですね。フィンはとっくに存在進化できるはずです」
「ええ……」
「あー、そういえばできるんだっけ」
フレイヤの指摘は正しかったようだ。
フィンは〈ハスカップジュース〉を飲み干すと、口元を腕で豪快に拭う。
空き缶をテーブルの上に置いて、空中で胡坐をかき、腕を組んで考え込む仕草を見せた。
かと思うとすぐにぺかーと全身が輝き出す。
「うお、まぶしい」
それだけで存在進化はあっさり完了した。
目を焼くような輝きが収まり現れたのは……
「え、フレイヤさん?」
「(ふわああああああ)」
一瞬見間違えてしまうのも仕方がない。
そこにいたのは絶世の美女。
成り行きを見守っていたシンクとユキヨも大興奮だ。
まず身長が人間の大人と変わらないくらいに成長している。
ボブカットだった緑色の髪は足元まで伸び、太陽の光を浴びてエメラルドのように煌めていた。
アイドルのステージ衣装のようなドレスは消え去り、代わりにフレイヤと似た夜会向けの大人のドレスを纏っている。
顔つきは中学生くらいとあどけなさが残っていたが、大人へと成長。
元々整った顔をしていたが、面影を残しつつもより完成された美に仕上がっていた。
背中の蝶の翅も神秘性を増していて、羽ばたく度に鱗粉のような光の粒子が降り注ぐ。
「お、おおおお?」
さくっと存在進化を終えたフィンであったが、成長内容を把握できていないようだ。
首を傾げながら自分の体を触って確かめている。
たわわに成長した胸も鷲掴みだ。
ちょ、はしたないからやめなさい。
「はい、《水鏡》ですよ。フィン」
フレイヤが魔術で姿見を作り出すと、フィンはその前でくるりと回ったり、ポーズを決めたりして自らの外見を確かめた。
「おおー、色々おっきくなってるね」
「魔術の威力も上がっているはずです……いけません! 《風刃》を撃つなら里の外にしないさい」
「はーい」
今にもぶっ放しそうになったフィンであったが、フレイヤに止められて渋々里の上空へと飛んでいった。
「トウジも見に行く?」
「そうだな、見に行くか」
シンクと手を繋いで俺は空を飛ぶ。
神にはなったが、俺単独では空を飛べない。
だって益子藤治は(一応)人間だもの。
存在進化したフィンの《風刃》は、なんというかもう別物だった。
風の刃を飛ばしているはずなのだが、音速を超えているため轟音と共に衝撃波も発生している。
「切り裂いたものを後から吹っ飛ばすのか。隙の生じぬ二段構えかな」
「次は《持続光》を試してみよう」
「あっ、嫌な予感」
「(「め、目が~~」)」
目の前に太陽のような輝きが現れ、フィンを含めた全員の目が潰れた。
「ふう、酷い目に遭った」
いつぞやの時のようにフレイヤにこってり叱られ、気が付けば夜になっていた。
俺とフィンはウッドデッキにある椅子に座って夜空を見上げている。
「暫くは俺と一緒に威力を抑える訓練だな」
「えーめんどいー」
「ええい、いちいちくっつくな」
いつものノリでフィンが俺に寄りかかってくるが、現在は人間サイズなので普通に抱きつかれた状態になっている。
俺に押し退けられて最初はショックを受けた顔をしていたフィンだったが、その理由に思い至ると今度はニヤニヤしだした。
「なんで嫌がるのかな? 別に私はトージとならいいんだよ?」
「……は? 何を言ってるんだ」
「フレイヤから聞いたんだ。存在進化した今の姿なら
妖しく目を光らせたフィンが俺の手首を掴み、押し倒してきた。
「おい、冗談はやめ……力強っ!?」
フィンの綺麗な顔がどんどん俺に近づいてくる。
お互いの唇が触れそうになり―――
ぺかーと光り輝いた。
「あーーー! ずるいーーーー!」
ふう、危なかった。
フィンは暫く怒って地団太を踏んだり、俺の髭を引っ張ったりしている。
だが賄賂として〈コラン君饅頭〉を渡すとあっさり機嫌を直した。
八個入パッケージをペロリと平らげると、〈
別にフィンのことが嫌いとかではないのだが、ほら、心の準備とかね?
濃密な期間ではあったが、出会ってまだ一年に満たない。
お互いの関係性を変えるのは、もっとゆっくりでもいいと思うんだ。
ちなみに魔術の威力調整の練習を嫌がったフィンは、翌日の朝には存在進化前の小さな妖精の姿になっていた。
なんでも姿の変更は自由自在らしい。
……戻れるんかいっ。