ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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402話:シンクの実家へ里帰り ~熱い手の平返し~

 フィンに襲われかけた後も数日間、妖精の里(アルヴヘイム)でまったり過ごした。

 そろそろ次のお礼参りに向かうとしよう。

 

 沢山の妖精たちに見送られながら、竜の姿に戻ったシンクが空へと飛び立つ。

 シンクの背中には〈コラン君〉の姿の俺とフィン、ユキヨが乗っている。

 

 目指すはリージスの樹海の深層にある竜族の棲家。

 シンクの実家だ。

 

 リージスの樹海は俺の故郷である北海道くらいの広さがあるが、竜が本気で飛べば小一時間で横断できた。

 竜族の棲家は樹海の中心にあるので、三十分程度のフライトとなる。

 

 本日の天気は快晴。

 眼下にはどこまでも続く木々、文字通り樹海が広がっていた。

 

 向かう先には雪化粧をした山脈が見えている。

 北海道規模の樹海の中心に聳える山々、それはさながら大雪山連峰を彷彿とさせた。

 

(雪だ~~~~)

 

 雪を発見してユキヨが興奮している。

 熱い場所が平気どころか、自身の体をコーティングして風呂に入ったりもするユキヨだ。

 そういえば君は雪の精霊だったねと、思い出す場面が多々ある。

 

「Gawooooooooooooow!(上と横、どっちから入る?)」

 

「あー、前回は横だったし上がいいかな」

 

 竜族の棲家は山頂の内部にあり、入口が二つあった。

 横は山の側面にある入口で、人間サイズ用になっている。

 

 遥か昔には竜族を信奉する人族がいたらしく、内部の岩壁は彫刻が施され神殿のような見栄えになっていた。

 上の入口は竜サイズ用で、山頂にある噴火口から竜の姿のままダイナミック帰宅できる。

 

「Gyaooooooooooo!(ただいまー)」

 

 シンクが帰宅の挨拶(咆哮)をしてから〈人化〉する。

 ぴかっと光ると赤いワンピース(地球の既製品)を着た幼女に変身。

 

 背に乗っていた俺たちも空中に放り出されたが、今更その程度で慌てる俺たちではない。

 ひらりと地面に着地した。

 

「シンクお嬢様、おかえりなさいませ」

 

 声がして振り返ると、メイドさんが深々と一礼していた。

 奥ゆかしいオールドタイプの、エプロンドレス仕様になっているメイド服姿で、癖のないプラチナブロンドの長い髪を腰のあたりで結んでいる。

 

 一礼を終えて上げた頭には、シンクと同じ竜の証である角が生えていた。

 彼女は竜族の娘、クレイアネッサ。

 通称クレアである。

 

「ただいまクレア」

 

「ハクア様とは再会できたのでしょうか?」

 

「ん、できた。つもるはなしがたくさんある」

 

 嬉しそうに報告するシンクを見てクレアも頬を緩めた。

 

「承知しました。皆さんこちらへお越しください。マリア様をお呼びいたします」

 

 俺たちを見回してからクレアの案内でぞろぞろ移動を始める。

 ちなみにクレアは俺を見る時だけスン、と無表情になった。

 

 そう、何故かクレアさんは俺に対してだけ辛辣なのである。

 いやまぁ理由ははっきりしているか。

 

 シンクは俺と番になると公言してはばからないが、クレアはそれを認めていない。

 種族差か、年齢差か、実力差か、ゆるキャラの見た目か……全部か。

 

 俺如きではシンクに相応しくないと思っているのだろう。

 それはそう。

 

 俺自身もそう思うが、一途に想ってくれているシンクの手前、あまり無下にもできなかった。

 大きくなったらパパと結婚する、くらいの時間感覚だとは思う。

 なので現状はお茶を濁しつつ、クレアの辛辣な態度は甘んじて受ける俺なのであった。

 

「おかえりなさいシンク。トウジ君とフィンちゃんも久しぶりね。そっちの涼しそうな子ははじめましてね」

 

 巨大な一枚岩の大理石をくり抜いて作ったようなテーブルと椅子のある場所に案内され、出された紅茶を啜っていると、白いドレス姿の妙齢美女が現れた。

 

 波打った銀髪を肩口で揃え、透き通る肌はドレスと同じかそれ以上に白い。

 全体的に真っ白なので、赤い瞳と額から生えた角がより際立って見える。

 

 彼女はシンクの叔母マリーアンネフティ。

 通称マリアだ。

 

「今日はゆっくりしていけるの?」

 

「はい。特に急ぎの用事はありませんので」

 

「それなら是非泊っていってちょうだい。空き部屋はたくさんあるの。クレア、準備をよろしくね」

 

「承知いたしました」

 

 クレアはちらりと俺に冷たい一瞥をくれてから下がる。

 マリアがそれを見て申し訳なさそうに言った。

 

「ごめんね。あの子に悪気は、あまりないのよ」

 

「はは……理解しているので大丈夫です。出立する時に頂いた財宝、とても役に立ちました。ありがとうございました」

 

「本当? それならよかったわ。私たちが持ってても使い道がなかったし。正に宝の持ち腐れね」

 

 それからゆっくり時間をかけて、旅の内容を報告した。

 特に旅の主目的であったシンクの姉、ハクアとの出会いは丁寧に説明する。

 

 異世界転生の先輩であるニール、竜巫女のフレンと行動を共にしていたハクアであったが、外様の神にニールたちを攫われてしまった。

 そのタイミングで俺たちと偶然再会を果たし、協力してニールたちを奪還。

 

 そして友好関係を築いた外様の神エリスたちと共に、ニールの故郷である(並行世界の)地球へと宇宙船で旅立っていった。

 

 さすがにアトルランの外へ行ったとまでは、思っていなかったようだ。

 マリアだけでなく、お茶のおかわりを持って戻ってきたクレアも驚いていた。

 

「またお姉ちゃんが遠くに行ってしまったけれど、シンクは寂しくない?」

 

「だいじょうぶ。トウジがいるから」

 

「そう、そらなら安心ね」

 

 俺の腹……〈コラン君〉の灰褐色の腹に顔をうずめているシンクを見て、マリアが優しい笑みを浮かべた。

 

 ちなみに竜巫女のフレンもリージスの樹海が故郷だが、今回は里帰りしていない。

 冒険者のクリスやドラミアーデと意気投合したので、今頃はヨルドラン帝国にある〈残響する凱歌の迷宮〉に潜っているだろう。

 

「それにしてもあの【開拓の女神】エリスが帰ってきたのねぇ」

 

 外様の神エリスだが、元々は創造神が生み出した神の一柱で味方であった。

 神話の時代、外様の神との戦いの中でエリスは囚われ、外様の神に変貌してしまっていたのだ。

 

 マリアが感慨深そうにしているが、エリスと面識があるのだろうか?

 神話の時代だから大昔のはずだが、竜族も長生きらしいしマリアも……あ、優しい笑みが怖い笑みに切り替わった。

 

 これはタブーっぽいので、四次元頬袋内にいるエリスの分体については触れないでおこう。

 さくっと次の話題に進めたほうがいいな。

 

「ラディソーマという場所ではアレフさんにも会いましたよ」

 

「そういえば昔、アレフが出かけて帰ってこなかった時期があったけれど、ラディソーマで何をしていたの?」

 

 どうやらアレフが人族の奴隷カチュアと結婚して子孫を残し、国を興していたことは知らなかったようだ。

 あらあら、まあまあと、マリアとクレアはニヤニヤしながらアレフの昔話を聞いていた。

 

 ……ごめんアレフ叔父さん、秘密にしてた? 里帰りしたら散々弄られるかも。

 バラしちゃったけど許してね。

 

「その後もなんやかんやありまして、最終的に俺が〈多相の神〉に陞神しちゃったんですよ」

 

「それで前以上に神気を纏っていたのね」

 

「これでトウジも長生きになった。番になってもあんしん」

 

「その程度でシンク様の番になろうなどとは、烏滸がましいですね」

 

 神だとしても小柱程度では、クレアの心証はよくならなかったらしい。

 相変わらず俺への眼差しが冷たい。

 別にいいけど。

 

「念願の人の姿を手に入れたのでしょう? 私たちに披露してもらえないかしら」

 

「あ、そうですね。それでは」

 

 俺はぺかーと体を光らせると、益子藤治の姿に変身した。

 服装は地球製の平凡なシャツとズボン。

 冴えない三十歳のおっさんの登場である。

 

「―――――!?」

 

「とまぁ、こんな感じです……クレアさん、どうかしました?」

 

 俺の姿を見た瞬間、クレアが口元を押さえて俯いた。

 隙間から見える顔が真っ赤になっている。

 

「お、お茶の替えを用意しますので、失礼します」

 

 そそくさと立ち去ってしまった。

 

「あらあら、まあまあ」

 

「俺の人の姿、そこまで酷かったですかね?」

 

 そりゃあ美形とは程遠いけどさァッ。

 心へのダメージがすさまじい。

 

「ふふっ、違うわ。逆なの。あの子ね、枯れ専なのよ」

 

「はい?」

 

「トウジ君のちょっとくたびれた感じが、クレアの好みのど真ん中ね。昔から年上が好きなのよあの子」

 

「ええ……」

 

 三十歳で枯れ専扱いは酷くない?

 いや嫌悪されるよりはいいけどさ。

 

 一連のやり取りを見て、機嫌が急降下しているのはシンクだ。

 

「むう、トウジは私の番なの。クレアはだめ。うわきはだめ」

 

 頬を膨らませて、可愛らしく怒っていた。

 いたた、腹を抓らないで、腹を。

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