「大変な御無礼をお許しください。藤治様」
戦闘を終えてお互いに式神を引っ込め、改めて邸宅の部屋に戻った蘭が再び土下座をする。
姉の失態? を受けて瑠々の表情が暗い。
このままだと一緒に土下座しそうな雰囲気なので、蘭の腕を取って無理やり立たせた。
「もうわかりましたから、事情を話してください。謝罪するようなこと、まだあるんですよね?」
沢山って言ってたからな。
まだ二つだ。
「はい、すべてお話します。瑠々、貴女にも秘密にしていたことがあるから、落ち着いて聞きなさい」
それは来栖坂家存続に関わる話だった。
「来栖坂家には表の顔である財閥家と、裏の顔である陰陽師家の二つの顔があります。ご存じかとは思いますが、表の来栖坂グループは好調です」
うん知ってる。
系列のチェーン店やメーカー商品のテレビコマーシャルを見ない日はないからな。
「問題は裏の顔である陰陽師家です。瑠々から聞いていると思いますが、来栖坂家に陰陽師は三人しかいません。私と瑠々、そしてこの場にはいない
表が好調な理由は、裏での活躍が密接に関係しているという。
なんでもその地域に巣食う妖魔を退治、封印することで、その地域の商圏の主導権を得ることができるそうだ。
〇鉄……いや、〇カポンかな?
来栖坂家は関東一帯の商圏を掌握していた。
「もちろん妖魔退治で商圏を得ただけでは、ここまで発展することはありません。来栖坂家のご先祖様たちの商才あっての賜物です。他の地域でも商売をしていますが、陰陽師として得た商圏が屋台骨となっているのです」
そしてご先祖が妖魔を封印した各地を姉妹で維持管理しているのだが、もう限界らしい。
「このままでは各地に封印している妖魔を抑えることができなくなります。被害が出る前に他家に明け渡さなければなりません。たとえ来栖坂家が乗っ取られることになったとしても」
「ですがお姉さまは、十二天将最強の一角である
瑠々の問いに蘭は首を横に振った。
「調伏のことだけど……まず藤治様は十二天将をご存じですか?」
知らなかったので説明してもらう。
十二天将とは陰陽師が調伏できる式神の中で最高位のもので、あの有名な安倍さんも使役したのだとか。
方位や属性を司っていて、有名どころだと四神である青龍、白虎、朱雀、玄武も含まれていた。
さすがに四神なら知ってる。
じゃあ騰虵も強かったんだな。
あれ、でも騰虵が活動している間の蘭は……。
「藤治様は気が付かれたようですね。そうです、私は騰虵を完全に調伏できていないのです」
「確かに使役というよりは、憑依されているようでしたね」
いうことを きかない! って感じだったな。
「私の神力では騰虵を調伏できず、かといって騰虵無しでは来栖坂家が封印する妖魔を抑えることができない。そこで調伏ではなく代価を払って、私の体に乗り移る形で召喚するという契約を結びました」
「代価というのは?」
「私の神力です」
蘭の言う神力というのは、アトルランでいう魔力のことだろう。
アトルランでは神気は別の意味で使われているので、ちょっと紛らわしいな。
「ただでさえ足りていない神力ですので、騰虵に払い続けるにも限界があります。神気は生命の源でもあるため、あと半年もすれば神気が枯渇して、命を落とすことになるでしょう」
「そんな……お姉様……」
知らされていなかった瑠々が口元を押さえ、目に涙を浮かべている。
「現状のままだと半年以内に来栖坂家の没落は必至。そこで私は一縷の望みをかけて、神の助言を乞うことにしました。そして神域に籠り三日三晩の祈りを捧げた結果が、〈試される大地での死闘の果てに、群棲の神と尊き神の導きが待つ〉でした」
「それで俺に何をさせたいんです? 瑠々さんに見せてもらった契約書には報酬面のことしか書かれなく、〈伝統芸能〉の内容が不明でしたが」
まあ大体検討はついているけどね。
「藤治様には来栖坂家を救って頂きたいのです。具体的には各地に封印されている妖魔の管理と、新たに出現する妖魔の討伐です」
「陰陽師としての仕事ほぼ全部ですね。それにしても初対面の俺を、実力も含めて信用しすぎじゃないですか?」
「騰虵を一蹴できるのですから実力は申し分ありません。人柄だって神託が選んだお方です。疑う余地はありません……いいえ、神託がなくても藤治様、貴方はいい人です。女の勘がそう言っています」
うーん、大丈夫かなこの人。
俺をそんな簡単に評価するなんて、悪い男に引っ掛かりそうだ。
いや、自分の生命の危機も迫っているし、きっと冷静な判断ができていないのだろう。
「それと来栖坂家の跡継ぎを作って頂きたいです。妹の茉莉と瑠々、最低でも二人ずつ。できればその倍は欲しいところです」
うんやっぱり冷静じゃないな。
その茉莉さんとやらはまだ会ったことすらないんだが。
「私も藤治様との子が欲しかったですが、余命幾ばくもありませんから」
「お姉様……」
いや瑠々さん。
普通に受け入れてるっぽいけど、蘭ねーちゃんの余命以外にも重要な問題があるんだってば。
『あらあら、トウジさんはどこに行ってもモテモテですね』
『これはいつもの三人娘に報告せねばな』
四次元頬袋内のエリスとブロンディアがキャッキャしているが、とりあえず無視だ。
「藤治様、陰陽師の仕事は月に数回程度です。それ以外の時は自由にして頂いて構いません。本当に好きな女性と結婚して頂いて構いません。もし財界に興味があるなら役員の席も用意いたします。私も生きている間は全身全霊をもってご奉仕します。だからどうか、来栖坂家を救って頂けないでしょうか」
黙り続けている俺を、二人が不安そうに見つめている。
答えは決まっていたので、はっきりと告げた。
「お断りします」
断られて二人が泣きそうになっていたので、慌てて捕捉する。
「ですが、勘違いしないでください。断るのは子供云々で、俺のやり方で来栖坂家には協力しますから。要は陰陽師としての来栖坂家が存続できる戦力が整えば、俺や俺の子供である必要はないってことですよね?」
「それは、そうですが」
困惑する蘭に俺は力強く頷いた。
ならばまずは蘭の問題を解決しよう。