ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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408話:異世界帰りのご当地ゆるキャラ、酒池肉林を拒否する

「蘭さん、ちょっと騰虵(とうしゃ)を出してもらえます?」

 

「は、はい」

 

 困惑しながらも蘭が目を閉じ、瞑想を始めると騰虵が出てくる。

 意識を失った蘭のうなじのあたりから龍の頭をちょろっと出して、騰虵が俺の様子を伺っていた。

 

『あ、あのう。何か御用でしょうか? もう貴方様に逆らうつもりはありませんが』

 

「新たに俺と契約しようじゃないか。報酬は俺の魔力……神力だ。まずはお試しで少し渡すから確認してみてくれ」

 

 手招きすると、すっかり怯えた騰虵が恐る恐る俺に頭を伸ばしてくる。

 その頭に指先で触れて魔力を流すと、反応は顕著だった。

 

『ファッ、なんだこの神力は! (みなぎ)る、漲るぞおおおおおおおッ!」

 

「どうだ? 報酬になるか?」

 

『なるなる、なります! これは凄い。勝てる! 相手が朱雀だろうと負けるはずがない! 俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーーーーーっ!』

 

「はいはい、じゃあ契約内容を詰めようか」

 

 魔力供給は月に一度、ただし戦闘などで消耗した場合は都度供給する。

 これまで通り来栖坂蘭の式神として活動するが、蘭の命令は俺の命令と思って聞くこと。

 

 といったところを決めたところで、蘭と騰虵の契約を解除してもらった。

 解除したことにより、蘭の意識が戻る。

 

「……え、騰虵が顕現したまま? しかも凄い神力を纏っている!?」

 

「俺が契約しなおしましたが、今後も蘭さんが使役してください。これで引き続き妖魔の封印管理は維持できます。また蘭さんの神力供給が不要になりましたので、枯渇して命を落とすこともありません」

 

 俺の言葉を聞いても、すぐに状況が飲み込めなかったのだろう。

 蘭は暫く呆然としていたが、次第に瞳が潤み始め、やがて涙が零れた。

 

「う……あ……私、死ななくても、いいの?」

 

 俺はゆっくりと頷いた。

 命がけで来栖坂家を守ってきた重責から解放され、蘭の体から力が抜ける。

 そのまま崩れ落ちそうになったので、そっと抱き止めた。

 

「お姉様! よかった……よかった」

 

 同じく涙で顔をくしゃくしゃにした瑠々に蘭を引き渡す。

 姉妹は抱き合って泣き続けた。

 

 落ち着くまではそっとしておこう。

 あ、騰虵くんも帰っていいよ。

 

 蘭は涙で化粧が落ちて大変なことになっていた。

 俺はやはり涙ぐんでいる安達さんにアイコンタクトし、別室へと一旦引き下がることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「藤治様、私の命を救って頂き本当にありがとうございました。この命は藤治様に捧げます」

 

「うん、折角救ったので一行で矛盾しなくていいですよ」

 

 あれから小一時間が経過し、外はすっかり日が暮れて夜になっていた。

 化粧を落とし部屋着姿になった蘭が頭を下げる。

 その表情は晴れやかだ。

 

「神力供給はなくなりましたが、まだ消耗したままだと思いますので、こちらをどうぞ」

 

 そういって進呈するのは〈コラン君饅頭〉である。

 地球に帰ってきても〈四次元頬袋〉や〈商品〉を取り寄せたりする固有の能力は健在だ。

 

「そのパッケージは藤治様の地元のお菓子ですね? 何故それを……いえ、何ですか!? その饅頭から溢れ出る神力は」

 

「食べると神力が回復しますよ。ついでに瑠々さんと安達さんもどうぞ」

 

 女子三人で饅頭をもぐもぐと食べる。

 陰陽師じゃない安達さんにとっては普通の饅頭だが、残る二人は饅頭の効果を実感していた。

 

「え、一口で神力が全回復したのですが? これは祝福されし供物ですか!? 安達、ストップ、食べるのストップです。もったいない!」

 

「もごごっ」

 

「いくらでも出せるので気にせず食べてもらっていいですよ」

 

 蘭が急に止めるものだから、安達さんがむせてしまった。

 いくらでも出せると聞いて、蘭と瑠々の目が点になっている。

 

「藤治様、神力を回復できる食べ物なんて、聞いたことがありません。あったとしても、神域で長期に渡り祈りを捧げたお神酒ぐらいです」

 

「ふむ、それじゃあ地球にはMP回復アイテムは存在しないのか」

 

「このお饅頭があれば、陰陽術が撃ち放題です」

 

「藤治様は本当に何者なのですか? いくら調べても普通のフリーターという情報しか出てきません。規格外の力をお持ちなのに、今まで表舞台に現れなかったのが不思議でなりません」

 

 だろうね。

 異世界に転生して帰ってきたのも、ここ一か月くらいの話だし。

 

「改めて契約の話なのですが、藤治様は何を望みますか? お金は勿論のこととして来栖坂家……いいえ私は、どうやって藤治様に恩返しすればよろしいでしょうか?」

 

「いやまあ、お金だけでも十分ですよ」

 

「そうはいきません! 藤治様は来栖坂家の救世主ですから、全身全霊を尽くさねばなりません。まず私たち三姉妹の体は自由に使ってください。ついでに安達も付けましょう」

 

「はい。お供させて頂きます」

 

「ええ……」

 

 いやいや、なんのお供だよ。

 てかついで扱いだよ? もっと不満に思おうよ。

 

「もちろん子供ができても、藤治様が認知する必要はありません。貴女もそれで構わないわね、瑠々」

 

「は、はい。構いません」

 

 こっちは構うからね? 瑠々さん。

 認知しないとかクズだってば。

 

「くっ、そうですよね。私たち程度では不満ですよね。ならば来栖坂家の表の力を使って、グラビアアイドルや有名芸能人を呼びましょう。酒池肉林です」

 

「本当にいらないからやめてね? そういうのに興味ないから。だいいち蘭さん瑠々さん、安達さんも美人なんだから、そんなに卑下することないよ」

 

「「「………!?」」」

 

 俺の発言に三人は驚いた表情を浮かべると、無言で見つめてくる。

 その目は次第にとろんとしてきた。

 

『あらあら、トウジさんは女たらしですね』

 

 四次元頬袋の中にいるエリスが茶化してくる。

 いやいや、ちょっと褒めただけじゃん。

 

「よーし、とりあえずこの話は一旦やめましょう。先程安達さんに聞きましたが、茉莉さんが妖魔封印の儀式中なんですよね? 今から支援に行きませんか?」

 

「色々あってお疲れかと思いますが、よろしいのですか? 妖魔の封印はすぐに解けるものでもありませんが」

 

「俺の力で儀式そのものが短縮できるなら、手助けして早く楽にさせてあげたいです」

 

「……ありがとうございます。きっと茉莉も藤治様の偉大さを噛みしめることでしょう。ちなみに茉莉は私たちと違って肉付きが良いですから、お気に召して頂けるかもしれません」

 

 話を戻さないでくれ蘭さん。

 何なら茉莉さんが一番気まずいからね?

 会ったら絶対脳裏に()()()の顔がちらつくもん。

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