「蘭さん、ちょっと
「は、はい」
困惑しながらも蘭が目を閉じ、瞑想を始めると騰虵が出てくる。
意識を失った蘭のうなじのあたりから龍の頭をちょろっと出して、騰虵が俺の様子を伺っていた。
『あ、あのう。何か御用でしょうか? もう貴方様に逆らうつもりはありませんが』
「新たに俺と契約しようじゃないか。報酬は俺の魔力……神力だ。まずはお試しで少し渡すから確認してみてくれ」
手招きすると、すっかり怯えた騰虵が恐る恐る俺に頭を伸ばしてくる。
その頭に指先で触れて魔力を流すと、反応は顕著だった。
『ファッ、なんだこの神力は!
「どうだ? 報酬になるか?」
『なるなる、なります! これは凄い。勝てる! 相手が朱雀だろうと負けるはずがない! 俺は今、究極のパワーを手に入れたのだーーーーーっ!』
「はいはい、じゃあ契約内容を詰めようか」
魔力供給は月に一度、ただし戦闘などで消耗した場合は都度供給する。
これまで通り来栖坂蘭の式神として活動するが、蘭の命令は俺の命令と思って聞くこと。
といったところを決めたところで、蘭と騰虵の契約を解除してもらった。
解除したことにより、蘭の意識が戻る。
「……え、騰虵が顕現したまま? しかも凄い神力を纏っている!?」
「俺が契約しなおしましたが、今後も蘭さんが使役してください。これで引き続き妖魔の封印管理は維持できます。また蘭さんの神力供給が不要になりましたので、枯渇して命を落とすこともありません」
俺の言葉を聞いても、すぐに状況が飲み込めなかったのだろう。
蘭は暫く呆然としていたが、次第に瞳が潤み始め、やがて涙が零れた。
「う……あ……私、死ななくても、いいの?」
俺はゆっくりと頷いた。
命がけで来栖坂家を守ってきた重責から解放され、蘭の体から力が抜ける。
そのまま崩れ落ちそうになったので、そっと抱き止めた。
「お姉様! よかった……よかった」
同じく涙で顔をくしゃくしゃにした瑠々に蘭を引き渡す。
姉妹は抱き合って泣き続けた。
落ち着くまではそっとしておこう。
あ、騰虵くんも帰っていいよ。
蘭は涙で化粧が落ちて大変なことになっていた。
俺はやはり涙ぐんでいる安達さんにアイコンタクトし、別室へと一旦引き下がることにした。
「藤治様、私の命を救って頂き本当にありがとうございました。この命は藤治様に捧げます」
「うん、折角救ったので一行で矛盾しなくていいですよ」
あれから小一時間が経過し、外はすっかり日が暮れて夜になっていた。
化粧を落とし部屋着姿になった蘭が頭を下げる。
その表情は晴れやかだ。
「神力供給はなくなりましたが、まだ消耗したままだと思いますので、こちらをどうぞ」
そういって進呈するのは〈コラン君饅頭〉である。
地球に帰ってきても〈四次元頬袋〉や〈商品〉を取り寄せたりする固有の能力は健在だ。
「そのパッケージは藤治様の地元のお菓子ですね? 何故それを……いえ、何ですか!? その饅頭から溢れ出る神力は」
「食べると神力が回復しますよ。ついでに瑠々さんと安達さんもどうぞ」
女子三人で饅頭をもぐもぐと食べる。
陰陽師じゃない安達さんにとっては普通の饅頭だが、残る二人は饅頭の効果を実感していた。
「え、一口で神力が全回復したのですが? これは祝福されし供物ですか!? 安達、ストップ、食べるのストップです。もったいない!」
「もごごっ」
「いくらでも出せるので気にせず食べてもらっていいですよ」
蘭が急に止めるものだから、安達さんがむせてしまった。
いくらでも出せると聞いて、蘭と瑠々の目が点になっている。
「藤治様、神力を回復できる食べ物なんて、聞いたことがありません。あったとしても、神域で長期に渡り祈りを捧げたお神酒ぐらいです」
「ふむ、それじゃあ地球にはMP回復アイテムは存在しないのか」
「このお饅頭があれば、陰陽術が撃ち放題です」
「藤治様は本当に何者なのですか? いくら調べても普通のフリーターという情報しか出てきません。規格外の力をお持ちなのに、今まで表舞台に現れなかったのが不思議でなりません」
だろうね。
異世界に転生して帰ってきたのも、ここ一か月くらいの話だし。
「改めて契約の話なのですが、藤治様は何を望みますか? お金は勿論のこととして来栖坂家……いいえ私は、どうやって藤治様に恩返しすればよろしいでしょうか?」
「いやまあ、お金だけでも十分ですよ」
「そうはいきません! 藤治様は来栖坂家の救世主ですから、全身全霊を尽くさねばなりません。まず私たち三姉妹の体は自由に使ってください。ついでに安達も付けましょう」
「はい。お供させて頂きます」
「ええ……」
いやいや、なんのお供だよ。
てかついで扱いだよ? もっと不満に思おうよ。
「もちろん子供ができても、藤治様が認知する必要はありません。貴女もそれで構わないわね、瑠々」
「は、はい。構いません」
こっちは構うからね? 瑠々さん。
認知しないとかクズだってば。
「くっ、そうですよね。私たち程度では不満ですよね。ならば来栖坂家の表の力を使って、グラビアアイドルや有名芸能人を呼びましょう。酒池肉林です」
「本当にいらないからやめてね? そういうのに興味ないから。だいいち蘭さん瑠々さん、安達さんも美人なんだから、そんなに卑下することないよ」
「「「………!?」」」
俺の発言に三人は驚いた表情を浮かべると、無言で見つめてくる。
その目は次第にとろんとしてきた。
『あらあら、トウジさんは女たらしですね』
四次元頬袋の中にいるエリスが茶化してくる。
いやいや、ちょっと褒めただけじゃん。
「よーし、とりあえずこの話は一旦やめましょう。先程安達さんに聞きましたが、茉莉さんが妖魔封印の儀式中なんですよね? 今から支援に行きませんか?」
「色々あってお疲れかと思いますが、よろしいのですか? 妖魔の封印はすぐに解けるものでもありませんが」
「俺の力で儀式そのものが短縮できるなら、手助けして早く楽にさせてあげたいです」
「……ありがとうございます。きっと茉莉も藤治様の偉大さを噛みしめることでしょう。ちなみに茉莉は私たちと違って肉付きが良いですから、お気に召して頂けるかもしれません」
話を戻さないでくれ蘭さん。
何なら茉莉さんが一番気まずいからね?
会ったら絶対脳裏に