ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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409話:異世界帰りのご当地ゆるキャラ、次女を助けに行く

 ここは都内某所にあるクラブ「G」。

 残念ながらゲームミュージック専門ではなく、ビルの最上階にある普通のクラブのようだ。

 

 薄暗い店内には重低音の利いたイケイケな音楽が鳴り響いている。

 俺とは無縁な場所過ぎて落ち着かない。

 

 何故クラブに来ているのか。

 それはもちろん妖魔封印の儀式中の来栖坂茉莉を助けるためである。

 

 おっさん的には音楽に合わせて狂ったように踊っている若者どもこそ、妖魔認定したいところだ。

 用事があるのはこのビルの屋上。

 場所が場所なので未成年の瑠々は留守番。

 

 蘭と安達さん、そして俺の三名でクラブのホールを通り抜け、バックヤードの階段から屋上に向かう。

 階段の扉を閉めても、クラブの重低音がうっすら聞こえている。

 

 一見すると何の変哲もない屋上だが、突き当たりに鳥居と祠が見えた。

 鳥居の下には巫女服を着た女性。

 それと鳥居の影にもう一人いるようだ。

 

「……めて、ください」

 

「いいから変われ!」

 

 男女の声で言い争っている。

 

「何をしている!」

 

 俺をここまで案内してくれた来栖坂蘭が怒鳴る。

 すると鳥居の影から一人の男、いや高校生くらいの少年が出てきた。

 

 タイトな黒革のジャケットとズボン姿で、手足や胴体にファッション用のベルトが巻き付いている。

 コスプレ全開だが、線の細い美少年なので様になっていた。

 もし俺が着たら……最終的にシンクロしそうな感じ。

 

神楽岡(かぐらおか)家の者が何故ここにいる」

 

「何故って? 決まっているだろう。来栖坂家に任せていたら妖魔の封印が解けてしまう。だからこの僕、神楽岡悠汰が封印の上書きをしに来たのさ」

 

 ふっ、と鼻で笑って前髪をかき上げた。

 服装だけじゃなく仕草もダサいが、美少年補正で辛うじてプラスになっている。

 

「戯言を。他家の封印地への無断侵入は重大な協定違反だ。このことは神楽岡家当主に抗議するだけでなく、次の陰陽師総会にて報告させてもらう。厳罰は免れないぞ」

 

「それはどうかな。これは陰陽師協会も認めた、封印を維持するための緊急処置さ」

 

「何を言っている?」

 

「陰陽師としての来栖坂家は衰え過ぎた。そうなるまえに神楽岡家、いや僕に茉莉を寄越せば陰陽師としての来栖坂家も残せたのに。いやぁ、僕も次の総会が楽しみだよ」

 

 神楽岡が巫女服の女性、来栖坂茉莉を見てニヤリと笑う。

 視線は彼女の豊満な胸元に釘付けだ。

 ふむ、確かに蘭や瑠々と比べると肉付きは良い。

 

「まさか……いや、そんな馬鹿なことが許されるはずがない! 仮に御料院と八柳が賛同するわけが……」

 

「そのまさかだよ」

 

 驚愕する蘭とニヤニヤが止まらない神楽岡。

 何やら陰陽師家同士での暗闘が行われている模様。

 来栖坂家のピンチっぽいが、俺には細かい事情がさっぱりわからん。

 

「ところでその冴えないおっさんは何?」

 

「……この方は益子藤治様だ。在野で見つけた強力な神力の持ち主で、来栖坂家にお招きした」

 

「は? それ本気で言ってる? 日本にそんな都合のいいのが残ってるわけないじゃん。あれだけ探し回ったのに。あーあ、これは本当に来栖坂家は終わったね」

 

 オーバーリアクションで肩をすくめる神楽岡。

 

「さっさと封印を上書きしよう。やれ、玄武」

 

 神楽岡は懐から呪符を取り出すと、祠に向かって投げる。

 祠は来栖坂家の張った結界に守られているようだ。

 

 呪符は空中でぴたりと止まるが、その呪符から太い腕が飛び出した。

 半透明だが岩のようにごつごつしていて、結界を殴りつけるとパリンとあっさり割れる。

 そして衝撃波が発生した。

 

「きゃぁっ」

 

「おおっと」

 

 近くにいた茉莉がこちらに向かって吹き飛ばされてきたので抱き止める。

 

「あ、ありがとう…ございます……っ、なんてすごい神力」

 

 触れたことによって俺の神力を感じ取ったのか、こちらを見上げる茉莉の顔がとろんとしている。

 うーん、性別も人種も違うが、顔立ちは()に似ている。

 まぁ美形だと性別はあまり関係ないもんな。

 

「藤治様、ここはお任せください。授かった騰虵(とうしゃ)の力を試す時でしょう」

 

「わかった」

 

 茉莉を抱きかかえたまま、安達さんと共に後退する。

 呪符から神楽岡の召喚した玄武の全身が出てきた。

 

 レトロゲー好きのおっさん的に玄武といえば亀のイメージだったが、そいつは全長四メートルくらいの二足歩行の巨人だ。

 半透明故に圧迫感はそれほどないが……。

 

「背中に甲羅を背負ってる、だと」

 

 なんだよその亀要素は。

 どこの忍者亀だよ。

 カワバンガとか言いそう。

 

 ひとりで動揺する俺をよそに、蘭は進み出ると騰虵を顕現させた。

 彼女の体に巻きつくようにして現れたのは、龍の頭を持つ赤い蛇。

 

 騰虵は俺と再契約していて、蘭に貸し出している状態だ。

 蘭が契約していた時よりも神力に溢れ、バチバチと火の粉のようなものが周囲に舞っている。

 

「ふん、碌に契約もできていない騰虵より、僕の玄武のほうが強い。やれ!」

 

 蘭の体から離れて空中に浮かび上がった騰虵に向かって、玄武の腕が振るわれた。

 半透明で非実体かと思いきや、びゅう、という風切り音と共に風圧が俺たちの元までやってくる。

 

 玄武の腕が振り抜かれた空間から、騰虵の姿が忽然と消えていた。

 これを見て神楽岡が早々に勝鬨の声を上げる。

 

「ハハッ、ほら見ろ、僕の玄武にかかれば騰虵など粉みじんだ」

 

「何処を見ている」

 

「あ?」

 

 騰虵を出してからの蘭は終始冷静だ。

 長い黒髪は騰虵の炎が伝播したかのように、赤く煌めいていた。

 

 蘭の視線は玄武の振り抜いた腕に注がれている。

 釣られて神楽岡も見ると、そこには玄武の腕に巻きついた騰虵の姿が。

 

 騰虵が体をくねらせながら力を籠めると、玄武の腕はみしみしと音を立てる。

 そして次の瞬間、粉々に砕け散った。

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