ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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41話:ゆるキャラと黒ローブたち

 ゆるキャラの体当たりを食らったロンベルは、他の竜の信奉者こと黒ローブたちを巻き込みながら吹っ飛んで行く。

 三人ほど巻き込み転がり終わったところで、フィンの《風刃》により失った右腕の激痛を自覚したようだ。

 

 悲鳴を上げ切り口を押さえてのたうち回る。

 ロンベルの悲鳴を聞いて、混乱から回復した他の仲間が治療を始めた。

 

 治療といっても切断された腕を繋げることはせず、治癒魔術をかけて傷口を塞いでいる。

 ちょっとやり過ぎと思わなくもないが、それは平和ボケした日本人の思考なのだろう。

 

 こちらの世界の基準で言えば、アディナを殺そうとしたのだから、逆に殺される可能性だってある。

 いわゆる「覚悟して来てる人」というやつである。

 

 完全にゆるキャラとフィンは敵認定されたようで、他の黒ローブ連中は祭壇ごとこちらを包囲する。

 祭壇に横たわるアディナは依然眠り続けていて目覚める様子はない。

 

 亜竜が怒気を飛ばしたり、妖精が風を巻き起こしたり、おっさんが悲鳴をあげたりと大騒ぎなのにも関わらずだ。

 薬か何か一服盛られているのかもしれない。

 

「許さん……絶対に許さんぞ……」

 

 治療を終えたロンベルが、覚束ない足取りでゆるキャラの前に戻って来る。

 のたうち回ったことによりフードがはだけていた。

 

 金髪のオールバックが崩れて前に垂れていて、その隙間から見える双眸は血走っている。

 腕からの失血により顔色が青白い様子と、鬼気迫る形相が相まってまるで幽鬼のようだ。

 

「こっちは争うつもりはない、と言っても聞く耳は持たなそうだな。フィン、祭壇の向こう半分をさっきみたいに守ってくれるか?」

「いいけど、分かってるよね……?」

「……プリンでどうだ?」

「よーし任せて!張り切っちゃうよ」

 

 報酬として異世界の甘味を約束されて、緑髪の妖精の少女はその場で宙返りをして喜びを表現した。

 感情に呼応したかのように、蝶の羽から光輝く鱗粉がきらきらと舞い散る。

 

「出来れば切り飛ばさずに吹き飛ばすくらいに手加減してくれ。基本的には俺が相手をするから」

「うん分かった分かったー、うへへ……」

 

 完全に上の空の返事が返ってきた。

 フィンはプリンの味を想像しているのか、両手で頬を抑えて虚空を見つめている。

 可愛らしい顔をだらしなく弛緩させて、涎まで口の端から垂らしていた。

 

 もう少しこう、恥じらいというか……。

 というか手加減どころか、ちゃんとアディナを守ってくれるか心配である。

 

 問答している間に黒ローブたちの包囲が徐々に狭まっていた。

 黒ローブはロンベルを含めて総勢二十名ほどで、各々が懐や腰から短剣などの得物を抜いて身構えている。

 

 もちろん全員が一斉に攻撃は出来ないので、同時に相手をするのは精々三、四人だ。

 予想は正しかったようで、ロンベルが無事な左手を上げて合図すると、正面と左右の三方から黒ローブがゆるキャラに襲い掛かってくる。

 

 三人の得物はロンベルが持っていた儀礼用の短剣を簡素にしたものだ。

 統率の取れた動きで三人同時に短剣を突き出してくる。

 

 下がれば祭壇で眠るアディナに黒ローブたちを近づけてしまうことになるので、自ずと選択肢はその場で捌くか前に出るかだ。

 咄嗟の判断は豹人族のイレーヌとの戦闘訓練で鍛えられているので問題ない。

 

 黄色い鳥足で踏み込み、ロンベルを弾き飛ばした時のような加速を得る。

 急接近する謎の生物に真正面の黒ローブが驚愕の表情を浮かべるが、体の反応は間に合わない。

 

 赤いマフラーをなびかせながら、突き出された短剣を半身になって紙一重で躱し、すれ違い様に黒ローブの胴体を蹴りつける。

 鳩尾付近に鳥足の踵が突き刺さると黒ローブは「ぐえ」と短い悲鳴を残して、くの字に折れ曲がって水平に吹っ飛ぶ。

 

 丁度背後にいる左側面から襲い掛かっていたお仲間に激突するが、さして威力は減衰されない。

 もみくちゃになりながら二人はゆるキャラの目の前からいなくなった。

 

 間髪入れずに背後に殺気を感じて振り返ると、残る黒ローブが短剣を振り下ろすところだった。

 肩口に迫る凶刃は左手の爪で受け流す。

 

 打ち払うように爪を振るうと、至近距離で金属同士がぎゃりぎゃりと擦れ合う耳障りな音がした。

 遂には負荷に耐え切れず、短剣は半ばから折れて地面に突き刺さる。

 

 素手で防がれるだけでなく武器を破壊されて、黒フードの下の冴えない顔の男が驚愕の表情を浮かべる。

 正直折れるとは思っていなかったので、ゆるキャラも驚いた。

 過去にイレーヌの斬撃も受け止めたことがあるが、当たりどころが悪くてこっちの爪も欠けたり折れたりしていないだろうか。

 

 短剣を弾いた腕とは反対の腕の翼で、黒ローブの横っ面を打ち据える。

 きりもみしながら吹っ飛ぶ姿を尻目に爪を確認……よかった、なんともない。

 

 次いで前に出てきたのは、剣、斧、槍となんだか三すくみになってそうな武器を構えた黒ローブたちだ。

 槍なんて特に嵩張るけど、どこに隠し持っていたのか。

 

 さすがにこちらも武器が必要だろうと、自前の《次元収納》から適当な剣を選ぶ。

 

【ほおぶくろ:4じげんくうかんになっていて、なんでもしまっておけるよ。まちのとくさんひんもたくさんはいっているんだ】

 

 口に手を突っ込んで引き抜くと、ロンベルの儀礼用の短剣に負けない、綺麗な装飾が施された護拳が付いた直剣が現れる。

 この剣も樹海のシンク宅の宝物庫から頂いた一品である。

 

 ちなみに氷熊を倒すのに使った茨と薔薇の彫刻がある剣は、ヴァー君一家に家をお借りした礼として進呈した。

 過分な礼だと巨大な熊たちはしきりに恐縮していたが、感謝の気持ちということで受け取ってもらった。

 

 決して氷熊を倒した際に涎やら脳漿やらがべっとり付着して、鞘越しでも口の中に仕舞いたくないから押し付けた、とかではないのであしからず。

 

 瞬く間に三人を退けたかと思うと、今度は剣を飲み込む手品の逆再生みたいなことを披露したゆるキャラを目の当たりにして、黒ローブたちがたじろいでいる。

 別に威嚇したつもりはなかったのだが、これ幸いと隙に乗じて追加で盾も用意しますか。

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