ゆるキャラ転生   作:忌野希和

43 / 408
43話:ゆるキャラとメテオ

 謎の推進力を得た火球が真っ直ぐゆるキャラへ向かって飛んでくる。

 弾速はそこまで速くないため回避は可能だが、ゆるキャラが避けてしまうと背後の祭壇のアディナやフィンに被害が及ぶ。

 

 故にこの火球は防がなければならない。

 防ぐ手段は氷熊戦でも使ったあれだ。

 

 剣を足元に突き刺し、自由になった右手で首元の赤いマフラーを掴んで手元へ寄せる。

 そして左手に持った盾に被せると、迫り来る火球を正面から受け止めた。

 

 文字通り目の前で火花が散り、エゾモモンガの顔の毛をちりちりと焦がす。

 しかし影響はその程度だ。

 

 物理的衝撃及び魔術的効果も通さないチート装備の赤いマフラー(を巻いた盾)は、見事に火球を受け止めた。

 そして氷熊の放った《氷槍》を防いだ時と同じように、少し角度を付けて火球を上空に受け流す―――までは良かった。

 

 視界に入ったロンベルの青白い顔は、火球を弾かれたというのに慌てる様子はない。

 彼の余裕の正体はすぐに分かった。

 ゆるキャラの弾いた火球は祭壇の上空付近で破裂すると、いくつもの小さな火球となって周囲に降り注いだ。

 

 ロンベルの放った魔術は《火球》ではなく《爆裂火球》だったのだ。

 

 そういえば詠唱でしぶきがどうのとか言っていた。

 こうなると分かっていれば、周囲で倒れている黒ローブたちへの被害は気にせず、弾く方向を低い位置の左右のどちらかにしたのに。

 

 それともあのまま受け止め続けて、目の前で破裂しなかったことを喜んだほうが良いのだろうか。

 もし目の前で破裂していたなら、この身がどうなっていたかは分からない。

 

 いくら強力な加護や装備を持っていても、所詮は日本からやってきた素人だ。

 咄嗟の状況分析が不十分だったり、敵への甘さが足を引っ張ったりして、不利な状況に追い込まれてしまった。

 もっと経験を積んで覚悟も決めなければ……っと、今は反省は後回しだ。

 

「フィ、フィン!」

「まかせて!『吹っ飛んじゃえ!』」

 

 情けない声で助けを求めたゆるキャラに、妖精少女が朗らかに答える。

 フィンは空中で爆ぜた火球群に向かって両手をかざすと、ごう、という風の音が聞こえた。

 かつて〈森崩し〉の頭部を抉った、《風刃》もどきを彷彿とさせる風の奔流は、蝋燭の火を吹き消すかのように火球群を消失させた。

 

 た、助かった……危うくアディナが火球の餌食になるところだった。

 勝手についてきたフィンだったが、彼女には二度も助けられているので、プリン以外にも追加報酬を検討しよう。

 

 これ以上《爆裂火球》を撃たせるわけにはいかない。

 足元に差した剣を抜いてロンベルに強襲を仕掛ける。

 

 完全に《爆裂火球》を防がれても尚、こちらを睨み続けているロンベルだったが、ゆるキャラが接近すると表情を変えないまま仰向けに倒れた。

 すると同時に他の残った黒ローブたちも武器を放り投げて降伏してきた。

 

「こ、降参する。ロンベル様は全ての魔力を使い切り気絶してしまった。我々にもう戦う力は残っていない」

「こっちは最初から争うつもりはなかったんだけどな。それじゃあ武器は捨てたまま、寝ているお仲間を担いで神殿の入口まで下がっててくれ。もうすぐ守護竜様同士の話も終わるだろうし」

 

 どうやらロンベルは目を開けたまま、とっくに気絶していたようだ。

 拘束する手段も無いので、黒ローブ連中にはとりあえず祭壇から離れてもらう。

 もう襲ってこないとは思うが、先の教訓を生かして決して油断はしない。

 

 意識の半分を黒ローブたちに向けつつ、もう半分を遥か上空へと向けた。

 オジロワシの望遠視力を使って、守護竜二体の()()()()()()()する。

 

 ……話し合いはもう終盤のようだ。

 

 空中で両腕を組み仁王立ちしているのが、我らがリージスの樹海の守護竜シンクレティーディアだ。

 サイドテールにしている深紅の髪が横風で揺れていて、眠たそうな紅い瞳は余裕の表れに見えなくもない。

 相変わらず赤いワンピースのスカートの中がノーガードだが、遠方故に誰にも見えていないから問題無い。

 

 シンクに対峙しているのは、青い鱗に覆われた全長七メートルくらいの巨大な竜だ。

 太い胴体に太い四肢と短い首と尻尾が生えていて、地上では四足歩行するタイプの竜のようだ。

 

 背中には体に似合わない小さな翼がついていて、ぱたぱたと必死に羽ばたいていた。

 繰り返しになるが、あんな小さな翼では物理法則のみで巨体を浮かすことはできないので、魔術的な力が作用しているのだろう。

 

 青い竜、グラボは既に満身創痍だ。

 体中至る所に生傷が出来ていて血を滲ませていて、よく見れば小さい翼も片方破れていた。

 

「Gaoooooooooooooooow!(生意気言ってすみませんでした!もう勘弁してください)」

「だめ、ちゃんと最後までとっちめる」

 

 勇ましい咆哮が大気を震わせたが、残念ながら内容は命乞いである。

 しかも風に乗って聞こえてきた無傷の幼女の回答は、無慈悲なものであった。

 

「Guaaaaaaaaaaaaaaaaa!(うわあああああああああ!)」

 

 自棄を起こしたグラボがブレスを放つ。

 大きく開いた口腔内から青白い火球が生まれて、シンク目掛けて射出される。

 ロンベルの《爆裂火球》よりも高温そうで高速な火球がみるみるシンクに迫り、小柄な体が呑み込まれそうになるが……。

 

「えい」

 

 シンクが右手の甲で払いのける仕草をすると、青白い火球はあっけなく弾かれた。

 軌道が逸れた火球は飛んで行った先で爆発四散する。

 視認性の良い青白い火花が均等に飛び散る光景は、日中だというのにまるで花火を鑑賞しているかのようだ。

 

 花火に見惚れていると、いつの間にかシンクの姿は青い竜の下方に移動している。

 そこから拳を突き上げながら竜の平たい腹目掛けて突進。

 シンクの体が硬い鱗に覆われた腹にめり込んだ。

 

「Guooooooooooooooon!(――――――!)」

 

 もはや意味を持たない悲鳴を上げて、グラボが空中で身をよじって苦しむ。

 攻撃の手を緩めないシンクは続いてグラボの頭上へ移動。

 

 両手の指を組んで、青い竜の後頭部へ叩き付けた。

 何そのZ戦士みたいな攻撃……。

 

 無防備な状態で頭蓋殴打されたグラボ少年は、きりもみしながら神殿とは反対の、祭壇の向こう側へ墜落する。

 そしてぴくりとも動かない青い竜の背中にシンクは降り立つと、ピースサインをしながら勝利宣言した。

 

「とっちめ完了」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。