ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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51話:ゆるキャラとおのぼりさん

 馬鹿王子が乱入するというトラブルはあったが、その後はつつがなく情報交換も終わり離宮で一泊となった。

 

 トラブルがなければ王族たちと夕食という流れになっていたようだ。

 ある意味堅苦しいイベントを回避させてくれた馬鹿王子に対しては、感謝が必要かもしれない。

 

 ちなみにギルバート王子は、殺気を放ってきたシンクがトラウマになってしまったそうだ。

 ゆるキャラたちが滞在している間、離宮には一切寄り付くつもりはないという。

 さもありなん。

 

「あの王子の態度、最初のグラボみたいだったよね」

 

 根に持っているのかフィンが朝食の席でパンを食い千切りながら、ぐちぐちと王子の文句を言う。

 王族はいないのでゆるキャラたちとグラボのみのまったりとした食事風景だ。

 シンクの殺気に当てられて気絶してしまったメイドさんも、無事に復活して給仕をしてくれている。

 

「おいおい、一緒にしないでくれよ。さすがにあそこまで酷くないよ……ないよね?竜族は舐められたら負けだから、最初は強気な態度を取るのさ」

 

 なるほど、妙に高圧的な態度には理由があったのか。

 舐められたら負けって、やっぱり中高生のヤンキーのガンの飛ばし合いみたいだな。

 

 朝食が終わりまったりし始めた頃に現れたのは、トルギル国王の護衛騎士の一人。

 美人秘書然とした彼女だ。

 

「昨日は殿下が不敬を働いてしまい誠に申し訳ありません。本日はわたくしクラリーナが誠心誠意、守護竜様がたの護衛兼案内役を務めさせて頂きます」

 

 やや緊張した面持ちなのは、シンクの実力を垣間見たからだろう。

 シンクは角や尻尾はあるものの、見た目は幼女でのんびりした雰囲気だ。

 

 ギルバート王子のような事情の知らない……いや、彼は知っていて舐めてかかってきたのだが。

 そういう権力を笠に着て横暴を振る舞う王族や貴族に、守護竜の強さと危険性を知らせるには、昨日のトラブルはいい機会だったのかもしれない。

 

 !?もしかしてあの馬鹿王子は守護竜の実力を知らしめるために、わざと道化を演じて自ら殺気を……なわけないか。

 

「〈混沌の女神〉の分神殿が南地区で、冒険者ギルドが東地区でしたっけ。お手数ですが案内を宜しくお願いします」

「宜しくー」

「ん、よろしく」

「はっ、宜しくお願い致します!」

 

 クラリーナが軍人らしくメリハリのある動きで敬礼した。

 

 

 

 

「「ふわああああああ」」

 

 フィンとシンクが馬車の窓に貼り付き、外の景色を見て感嘆の声を上げる。

 ゆるキャラ一行を乗せた王族仕様の馬車は、王城を出て中央区にある貴族街を抜け、南地区の城下町に入ったところだ。

 

 窓の外にはザ・異世界といった風景が広がっていた。

 

 大通りを行き交うのは大勢の人族と亜人と馬車。

 およそ半数は人族だが、もう半数は部分的に獣だったり昆虫だったり、人族の要素がまるでなかったりする亜人たちだ。

 

 道の両脇には所狭しと商店がひしめき合い、様々な物が売られている。

 野菜が並べられていたり、肉が吊るされていたり、剣や槍が籠に乱雑に突っ込まれていたりする。

 

 店構えも露店から天幕、木造の小売店からレンガ積み三階建ての大店と、様々な形態が乱立していた。

 どこも非常に賑わっていて、発展途上国の市場通りのような喧騒に包まれている。

 

 初めて見る刺激的な世界に妖精少女と竜族幼女は心を奪われ、目をきらきらを輝かせていた。

 

「ねえトージ、あの饅頭おいしそう。トウジのと食べ比べしたい!」

「むう、あのモコモコした生き物がかわいい、トウジ飼うから買って」

 

 二人とも完全におのぼりさんだ。

 今馬車から解き放てば何処へともなく消えて、一生戻ってこなさそうである。

 

「はいはい、観光は今度ゆっくりしような。今は目的地があるから」

「ふふふ。守護竜様がたに我が国の事でこうもはしゃいで頂けると、国民としては嬉しいですね」

 

 微笑ましい光景にクールビューティーなはずのクラリーナの目尻も下がりっぱなしだ。

 ゆるキャラだって異世界転生の醍醐味に触れて、内心ではおのぼりさん三号と化している。

 後日改めて、じっくり観光したい所存である。

 

 中身はいい年をしたおっさんなので平静を装っているが、エゾモモンガの尻尾が左右に揺れるのをクラリーナに目撃されてしまったので、多分ばれているだろう。

 

 ちなみにグラボとは離宮でお別れした。

 彼は彼で忙しいのと、レヴァニア王国の守護竜が街中に出れば、市民に囲まれて大混乱になってしまうそうだ。

 やれやれ、超有名芸能人気どりかよ。

 

「南地区には商店が集まり、東地区は各種ギルドや役場といった行政地区になっています。西が住宅街で北が工業地帯です」

「へ~。あれ、神殿はどこに含まれるんですか?」

 

「各神殿は貴族街である中央地区と東西南北の各地区の境界に建立しています」

「へ~。あれ、〈混沌の女神〉の分神殿は違うんですか?」

 

 馬車は中央地区と南地区の境界どころか、城下町の外れに向かっていた。

 王都エルセルは大通り沿いを例外として、外縁に近づくほど地価が安くなり、治安も悪くなる。

 外縁の大通りから外れた裏道は、東西南北全ての地区にスラム街が存在していた。

 

「ええと、その、あまり有名ではない神様の神殿の場合は、外縁沿いになることが多いんです。信者が少ないと中央地区沿いの維持費は払えませんから……」

 

 ……なんとも世知辛い理由だった。

 そういえば前にフレイヤ先生から〈混沌の女神〉は他大陸の主神だと聞いたことがある。

 

「この四番目の大陸〈リガムルバス〉の守護神は〈地母神〉でしたっけ」

「はい。ですから〈地神教〉はレヴァニアの国教ですし、中央地区沿いで一番大きい神殿があります」

 

 などという説明を聞いている間にも馬車は進み、外縁の端である外壁が見えてきてしまった。

 大通りから外れると次第に街並みもみすぼらしさが目立つようになり、いよいよスラム街らしい雰囲気が出てきた。

 

「着きました」

「やっと着いたの?なんかボロい家だね」

 

 フィンの感想はあながち間違いではない……というか大正解だ。

 〈混沌の女神〉の分神殿は、木造平屋のボロアパートだった。

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