ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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56話:ゆるキャラと冒険者ギルド

 ラディソーマについては後日、グラボに会って確認してみよう。

 とりあえず〈混沌の女神〉の分神殿での用事は終了した。

 

 次の目的地は冒険者ギルドである。

 そう、異世界ファンタジーでは登竜門とも言える場所だ。

 

 お約束の異世界あるあるが多数発生するかもしれないと考えると、ちょっとだけワクワクしてしまう。

 まあ、あるあるに巻き込まれる当事者になってしまうと、面倒以外の何物でもないのかもしれないが。

 

 なにやらリリエルも冒険者ギルドに用事があるそうなので、一緒に馬車に揺られて向かうことにする。

 王都エルセルの冒険者ギルドは東地区が本部で、他の各地区には支部がある。

 今回訪れるのはギルドマスターがいる本部だ。

 

 辿り着いた東地区は行政区だからなのか、南地区とは違って区画整理がきちんとされている。

 碁盤の目状に真っすぐ道が伸び、等間隔に建物が並ぶ風景は道産子にとっては馴染み深い。

 

「リリエルは何の用事があるんだ?」

「ええ、そのちょっと依頼を取り下げに……」

 

 何故かよそよそしい返事が返ってくる。

 先程〈混沌の女神〉の分神殿で、この後冒険者ギルドに行くと言ってからリリエルの様子がおかしい。

 

 リリエル自身に用事があるということも、うっかり言ってしまったような反応だった。

 何か心配事でもあるのかと尋ねようとしたが、丁度冒険者ギルドに到着したため聞きそびれた。

 

「赤いねー」

「ん、いい色」

 

 赤い煉瓦造りのノスタルジックな三階建ての建物だ。

 

 入り口の両扉を押し開き皆でぞろぞろと中に入ると、ロビーは吹き抜けになっていた。

 左手に受付カウンター、正面に依頼が貼り出された掲示板、右手に打合せ用のテーブル席が並んでいる。

 掲示板の左右からは階段が延びていて、上階と繋がっている。

 

 時刻は昼下がりということもあり、冒険者ギルド内部はそこまで混んでいない。

 六つある受付は二つ空いていて、掲示板の前の人はまばらだ。

 

 テーブル席は冒険者で半分ほどしか埋まっていないが、打ち合わせや雑談の喧騒が入口まで聞こえてくる。

 さすがに冒険者なだけあって、街を歩く一般人と比較すると皆屈強で精悍な顔つきをしていた。

 装備も街の衛兵レベルのものから、ゆるキャラの頬袋に入っていそうなお高そうなものまで多種多様である。

 

 不意に手前のテーブル席に座っていた中年冒険者が、ゆるキャラたちの存在に気が付いて一瞥した。

 そして華麗な二度見を決める。

 

「なん…だと…」

 

 彼が驚きながら呟くと、隣の若い女性もこちらを見て表情が凍りつく。

 二人の異変に気が付いた周囲の冒険者も、こちらを見ると一様に唖然とした表情を浮かべる。

 そうやって冒険者たちの視線が次々に集まり、冒険者ギルド内の喧騒は徐々にざわめきへと変わっていった。

 

 妖精族も竜族もゆるキャラも、珍しいから仕方ない反応かと思ったのだが……どうにも注目している先が若干違う。

 皆の視線はゆるキャラとリリエルを往復していた。

 

「し、神獣様だ」

「嘘でしょ」

「実在したのか……てっきり妄想じゃなかったのか」

「男たちをかわす適当ないいわけだと思ってたのに」

「!?てことはあの依頼を今受ければ!」

 

 ざわめきが喧騒に戻り始めるが、その中身はゆるキャラとリリエルのことで持ちきりだ。

 神獣って間違いなくゆるキャラのことだよな……。

 

「やば、トウジ様。私は用事を済ませてきますのでまた後程!」

 

 そう言うなり空いている受付カウンターに向かって、リリエルが慌てて駆け込んでいった。

 同じく駆け込もうとした、若い男の冒険者を張り飛ばしている。

 

 ……何が何だか。

 理由はわからないが注目を浴びっぱなしだと、シンクではないがだんだんと気恥ずかしくなってくるな。

 

 無論シンクはとっくに人見知りモードを発動させていた。

 ゆるキャラの赤いマフラーを引っ張り体に巻き付け、ぐるぐるとくるまって隠れている。

 小学生の頃誰もがやったであろう、学校の窓のカーテンを使ってよくやるやつだ。

 

「私たちも用事を済ませましょうか。約束はしてありますので」

「そうですね、お願いします。フィン、ちゃんとついてこいよ」

「んー」

 

 マフラーに包まれているシンクを抱きかかえると、ふらふらとギルド内を飛び回っているフィンに釘を刺す。

 

「国王陛下の遣いで参上した、王族護衛騎士のクラリーナだ。ギルドマスターにお目通り願いたい」

「はい、お待ちしておりました。ご案内致します」

 

 クラリーナが掲示板横に控えているギルド受付嬢に話しかけると、そのまま三階へと案内される。

 三階の中央にある立派な扉の前に到着したところで、吹き抜けからフィンが飛び上がってきて合流した。

 

「マスター、守護竜シンク様の遣いのご一行をお連れしました」

「はーい。入ってもらってー」

 

 扉の向こうからは幼い声で返事が返ってきた。

 

 室内に入って最初に目に入ったのは紙束の山だ。

 正面の事務机に、決裁待ちと思われる書類の山が高々と築き上げられている。

 

「ちょっと待ってくださいねー」

 

 紙束の向こう側に椅子の背もたれの上部が見えるが、声の主の姿はそこにない。

 いや、紙束の側面の低い位置から、ピコピコと動く長い耳だけが見えた。

 

「……はい、終わり。お待たせしましたー」

 

 紙にペンを走らせる音が止まると、椅子の背もたれが左右にがたがたと揺れる。

 ピョンと椅子から飛び降りたのか、紙束の横に現れたのは小柄な少女だ。

 金髪のおかっぱで、くりくりとした碧眼が可愛らしい。

 

「ようこそいらっしゃいました。樹海の守護竜シンク様とお仲間の皆様。僕がレヴァニア王国の冒険者ギルドマスター、エドワーズです」

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