「こんな見た目ですが、もう三十年ほどギルドマスターをやっているんですよー」
隣の応接室にてエドワーズとの面談が始まった。
純血の森人族(エルフ)である彼女が、冒険者ギルドのマスターという職に就いているのは非常に珍しいことだそうだ。
理由を端的に説明するなら、エドワーズが亜人だからだ。
冒険者ギルドは人種の活動圏のほぼ全域に分布し、国家間の垣根を越えて連携の取れる巨大組織である。
建前上は純血の人族だけでなく、亜人を含めた人種全体のための組織なのだが、要職に就く大半が人族というのが実情だ。
「ギルドマスターになる資格として種族は問わないなんて言っていますが、どうですかねー」
とはいえ亜人は人種のなかで四割強を占める大勢力であり(一枚岩かはともかく)、現場レベルではあからさまな差別があるわけではない。
エドワーズは元冒険者の叩き上げで相当の実力者だったこともあり、亜人たちからは絶大な支持を集めているそうだ。
ゆったりとしたローブ姿でソファーにちょこんと座る可愛らしい外見と、間延びした喋り方からはいまいち想像できないが。
「現場の亜人たちの事を思えば、僕みたいなのが頑張らないといけないんですよねー」
例えるなら刑事ドラマの、キャリア組に挑むノンキャリアみたいなものだろうか。
勿論これはギルド職員の話であり、当の冒険者たちは完全なる実力主義の世界である。
「それで本題ですが……」
「はい、三年前に現れたとされる異邦人及び竜族の方々の情報ですねー」
そう、冒険者ギルドを訪れたのはシンクの姉たちを探すためだ。
現時点で手掛かりは一切ない。
もし彼女たちが人種の生活圏で身分と収入を欲していたなら、その両方が比較的簡単に手に入るのが冒険者という職業だった。
冒険者として登録すればギルドのある街には自由に出入りすることができるし、依頼を受ければ収入を得ることも可能だ。
というわけでレヴァニア王国内で冒険者としての登録や活動をしていないか、王族の力を借りて聞きに来たのだが……。
「冒険者ギルドは王国とは別の組織ですので、王命であっても絶対ではないのですが……今回は情報収集に協力しましょう。ですが一つだけ条件、というかお願いがあります」
「なんでしょう?」
「神獣……トウジ様には冒険者になってもらいたいのですー」
「俺を冒険者にですか?」
「先ほど下で随分と注目されていませんでしたかー?ここまで騒ぎ声が聞こえてきました。それはトウジ様が珍しい姿をしているからだけではないんです。トウジ様はリリエルが現在おかれている状況をご存じですか?」
どうやらリリエルのプライベートな情報は、冒険者ギルド内では周知の事実だったようだ。
奴隷出身だということから始まり、仲間だった冒険者パーティーがリリエル以外全滅したこと。
それにより心を患い〈混沌教〉に救いを求めて、アトリエで絵を描き続けていること。
ゆるキャラが本人から聞いた情報は皆が知っていた。
さすが文明レベルの低い異世界ファンタジー。
個人情報保護?なにそれおいしいの?といった有様だ。
「リリエルは優秀で可愛い子でしたから、みんなが心配していたんですよー。……その、最初は突然神獣様とか言い出したので特に心配したというか、本当だったとは思わなかったといいますか」
エドワーズが上目遣いでこちらを見つめる。
まあ美女が突然謎の生物の絵ばかりを描き始めてたら、誰でも病状の悪化を疑うか。
「それで余計にリリエルを心配する輩が増えました。そして干渉を嫌った彼女が【神獣を見つけた者に報酬を支払う】依頼を出したんです。依頼にしてしまえば言い寄られても追い払いやすいのです。それにもし虚偽報告をして近づこうとしても、発覚すれば厳罰ですからー」
「なるほど、リリエルの態度とロビーでの出来事の理由が分かってきました」
つまりゆるキャラは【ツチノコ見つけたら賞金】みたいな扱いになっていたのだ。
リリエルの状況としては、竹取物語で公達に求婚されて困ったかぐや姫が、断る口実に無理難題を吹っ掛けるあれに近い。
「リリエルの状況と俺が冒険者になることと、何の関係があるんですか?」
「順を追って説明しますとー、まずトウジ様の身の安全が保障されます」
先程リリエルが受付に駆け込んだのは、依頼を取り下げるためだった。
ここまで案内してくれたギルドの受付嬢が一旦戻り、取り下げの受理をエドワーズに報告したので間違いない。
「ですが取り下げても、それが冒険者たちに知れ渡るには時間がかかります。もし偶然街中でトウジ様を見つけた冒険者がいたとして、取り下げを知らなければ強引に連れ去ろうとするかもしれません。その時にトウジ様が自身の冒険者証を見せれば、相手は強硬手段には出れないのですー」
何故なら冒険者同士の街中での争いは御法度だからだそうだ。
てか連れ去りって熱狂的過ぎないか、リリエルのファンは。
「次にトウジ様の身が安全だと分かれば、リリエル自身も安心します。あの子もトウジ様に迷惑をかけることは不本意でしょうからー」
そう言われると断りづらくなる。
特に断る理由も無いのだが……いや、待てよ。
「冒険者ギルドの権限で招集が掛かるとかはあるんですか?例えば国家間の戦争に徴兵されるとか」
「そこはご安心くださいー。冒険者ギルドが冒険者に課すのは、冒険者としての正しいふるまいと、依頼を可能な限り遵守するという二点のみです。冒険者はあらゆる意味で自由です。もちろん戦争に参加するのも自由ですが、その場合は依頼を受けて傭兵として雇われることになるでしょう」
ただし冒険者としての資格を維持するには、三か月に一度は何かしらの依頼を受けないといけないのだという。
そこがちょっと面倒だろうか。
ただ失効しても冒険者としての評価は下がるが、再発行は可能とのこと。
「その他に冒険者になれば、トウジ様自身の身分保障と収入減の確保にも利用できますよー。……あと正直に申し上げれば、冒険者ギルドとしても樹海の守護竜様の関係者との伝手が出来て嬉しいというわけです」
さすがに守護竜本人への勧誘は気が引けるそうだ。
相手の見た目は自身と変わらない小柄な女の子だが、人見知りモードなシンクはゆるキャラの膝の上で、ちびちびとお茶請けを食べていた。
「そういうことであれば、俺は冒険者になりましょう」
「本当ですか!ありがとうございます。それでは早速試験に移りましょうかー」
「えっ」