ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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59話:ゆるキャラと第三位階冒険者

 振り下ろした剣による攻撃は左方向へ受け流され、体勢も注意も左側に偏ったところで右側から蹴られた。

 今度は横っ腹を蹴られて石畳の上を転がる。

 

「神獣様頑張ってー!シナンなんかに負けないで」

「あんなに可愛らしい神獣様を二度も足蹴にするなんて……シナン後で覚えておきなさいよ!」

 

 ギャラリーの野次にシナンが渋い顔になる。

 シナン君、なんだか女性に人気無いな……。

 

 数合刃を交えてみたが彼の強さは、剣速、膂力共にイレーヌより少し劣る程度だろうか。

 だが、こと対人戦に関してはシナンの方が上だ。

 

 それもそのはず、樹海に住むイレーヌはほぼ対魔獣が専門だと言える。

 部族間の争いが全くないわけではないだろうが、樹海は常に魔獣の脅威に脅かされていため、亜人同士で喧嘩している余裕など無い。

 

 それと比べてシナンは冒険者であり、依頼によっては商隊の護衛で野盗と戦ったりすることもあるだろう。

 こうやって冒険者試験の試験官を任されるくらいだから、対人戦の手練れだと考えられる。

 足癖が悪いのもきっとそのせいだな。

 

 階級?は第三位らしいが、仮に第一位が頂点ならシナンよりもう一段、二段強い輩が冒険者には居ることになるのか。

 まあ今の彼が本気を出しているかは分からないが。

 

「今のを見てから避けられるのかよ。何の亜人か知らないがすばしっこい奴だ。でも剣筋や体捌きはお粗末だな。馬鹿正直過ぎて余裕で捌けるぜ」

「俺は剣を握ってまだ一週間ぐらいだから、まだまだひよっこなんだよ」

「……ちっ」

 

 煽って来たシナンを煽り返す。

 ゆるキャラを怒らせて隙を誘いたいのか、単に黄色い声援への当てつけか、まあ両方かもしれない。

 

 しかしその程度でキレるゆるキャラではない。

 日頃から着ぐるみ越しに聞こえる小学生の「どうせ中身はおっさんだろ」という言葉で鍛えられている。

 

 他にも着ぐるみの視界が狭い事をいいことに、見えない背後から殴られたり、尻尾を引っ張られて千切れかかったりもした。

 あいつらは無邪気で残酷だから手に負えない。

 

 他にも〈コラン君〉の妹キャラの〈ホロカちゃん〉を……閑話休題。

 

 幸いシナンのカウンターは虚を突かれても、なんとか痛打になる前に回避できる。

 なので彼にはイレーヌと行なった樹海の試練の時の様に、訓練がてらお付き合い願おう。

 

 樹海の試練も戦闘試験も決して訓練ではないのだが、慣れれば対処できるようになるのだから仕方がない。

 

 シナンが優秀なのはカウンターだけでなく、攻撃自体もこちらの虚を突く巧みなものだった。

 イレーヌもフェイントは使っていたが、あくまで剣を使った動きだけだったと思う。

 

 そこに視線誘導だとか体捌きによる攪乱を絡めつつ、シナンの場合は手足も飛んでくる。

 というわけで暫くの間、ゆるキャラは攻守関係なく石畳の上を転がりまくった。

 

 予想外の所から突然攻撃が飛んでくる様子は、まるで奇術を見せられているかのようだ。

 右手を大きく動かして注目を集めておいて、左手にタネや仕掛けを発動させるというやつだ。

 バレないようにタネを仕掛ける高度な技術も必要になるが、シナンは当然上手い。

 

 ……それでも幾度となく石畳の上を転がるうちに、少しずつ奇術もに慣れてきた。

 

 タネや仕掛け自体を看破できなくても、要は剣と同時にその他にも気を付ければ良いのだ。

 まあそれが難しいのだけれども。

 

 ちなみに多少蹴りを食らっても分厚い毛皮が守ってくれるので、無視してごり押しも出来なくもない。

 でもどうせなら見切った上で攻略したくなるのが、ゆるキャラの中の人の性か。

 アクションゲームは可能ならノーダメージクリアを目指したい派だ。

 

 おきあがりこぼしのように、何度どついても立ち上がるゆるキャラを相手にして、心身共に困憊しているのだろう。

 汗を滴らせたシナンの顔に、次第に焦りが見え始めた。

 

「舐めやがって!」

「うおっ!?」

 

 シナンが突然連撃を仕掛けてくる。

 

 これまでの巧みな剣捌きが嘘のように、正面からゆるキャラを潰しにかかってきた。

 とはいえ純粋な剣技と膂力なら彼はイレーヌ以下なので、防ぎきれないことはない。

 

 連続且つ乱暴に振り下ろされる剣を受け止めて続けて四撃。

 これ自体が大掛かりなフェイントかと警戒したが、今のところその兆しも無い。

 防ぎきったら反撃をしようと考えていた五撃目。

 

 ―――猛烈に嫌な予感がする。

 

 エゾモモンガとオジロワシ、両方の野生の感が告げていた。

 見た目に変化はない一撃だが、あれは躱した方が良いと。

 

 だがしかし、先の力強い四撃を受け止めるために、体に力を入れて踏ん張っていたため、回避行動が間に合わない。

 通常の攻撃ならすんなり回避にも移行できたのだが、そうさせないための布石だったのか……!

 

 腹を括って受け止めるしかない。

 怖気(おぞけ)で全身の毛を逆立てながらシナンの一撃を待ち構える。

 

 振り下ろされた剣は、ゆるキャラの掲げた剣が受け止めた……かに見えたが手応えがない。

 それもそのはず、シナンの剣はゆるキャラの剣を何の抵抗も無く断ち切った。

 よくある表現で例えるなら、熱したナイフでバターを切るように、というやつだ。

 

 ここでようやく彼の二つ名が〈斬鉄〉であることを思い出した。

 その名の通りシナンの奥の手は、鉄をも易々と切り裂く一撃だったのだ。

 

 思いっきり二つ名で手の内はネタバレしていたというのに、予測できなかった自分が恨めしい。

 

 ゆるキャラの剣が断ち切られた今、もう防ぐ手段は残されていない。

 障害物の無くなったシナンの剣が肩口に迫る。

 

 刃が潰してある剣でこの威力とは末恐ろしい。

 多少毛皮が厚いくらいではものともしないだろう……待機している治療術師さん、優秀だといいな。

 

 こうしてゆるキャラは、ばらりずんと肩口から袈裟切りにされた。

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