ゆるキャラ転生   作:忌野希和

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62話:ゆるキャラとパスケース

「それじゃあ日を改めて登録しに……」

「畏まりました。今すぐ承ります」

 

 営業スマイルの受付嬢が即答する。

 希望があれば即時対応するようにと、ギルドマスターのエドワーズから言付かっているそうだ。

 

「銀冠でよろしければ第二位階まですぐにご用意できますが、如何なさいますか?」

「トウジとおそろいがいい」

 

 戦闘試験をパスされたうえに、あっさり階級も追い越されるところであった。

 伊達にレヴァニア王国の守護竜を一方的にボコっていない。

 

 そしてシンクが冒険者証を作るということは……。

 

「それじゃあ私も作る!」

「フィン様は通常の登録となりますので、銅冠の第五位階からとなりますが」

「別にいいよ!」

 

 色や階級には興味を見せずに、妖精族の少女が空中で宙返りをしながら元気よく答える。

 単に仲間はずれが嫌だった模様。

 

「トウジ殿、いやトウジ様があそこまで武勇に優れているとは思いませんでした」

「本当ですね、さすが神獣様。私が描いた数々の絵の通りの、勇ましいお姿でした」

 

 ギルド受付嬢が竜と妖精の冒険者証の準備をしている間に、クラリーナとリリエルからお褒めの言葉を頂く。

 こと戦闘力に関しては、素直に猫に感謝している。

 

 現代日本と比べればこのアトルランと呼ばれる世界は圧倒的に物騒だ。

 もし何の力も与えられずに転生させられていたなら、開幕灰色狼に殺されていただろう。

 

 ただ出来れば人の姿にして欲しかった。

 先輩異邦人のように美形にしろとは言わないが(元から美形だったかもしれないが)、せめて益子藤治の姿であれば、人間としての自我を失う恐怖は感じなかったはずだ。

 

 しましまあ、人の姿で今の様に美女二人に褒められた日には、だらしないにやけ面を晒していたかもしれない。

 

 過去にはイレーヌに迫られたこともあった。

 気心の知れた仲ならまだいいが、もし美人局にでも引っ掛かったらと思うと、ある意味人型の女性に()()()()()、ゆるキャラの精神構造を持っていて良かったとも言える。

 

 なお益子藤治の容姿で女性が寄ってくるのか?という根本的な問題は考えないものとする……。

 

 しょうもない事を考えているうちに、ギルドの受付嬢が戻って来た。

 絶対王者の竜族であるシンクは全ての手続きが免除されたわけだが、フィンも銅冠第五位階での登録なら細々とした手続きは免除でいいそうだ。

 

 というわけで剣山の一輪挿しの出番である。

 先ほどゆるキャラが使った直後に蓋が閉じられてからは、誰も触っていない。

 

 どうしても気になったので聞いてみる。

 

「針に前の人の血が付いていたりしないのか?」

「ご安心ください。入れ物に《洗浄》の魔術が付与されていますので常に清潔ですよ」

 

 《洗浄》とは対象を水洗いする生活魔術だ。

 洗浄能力は水の素洗い程度だが、術後に水が残らないので乾燥いらずで便利な魔術である。

 何故水が残らないのかと言えば、魔素(マナ)で作った水を洗浄後魔素に戻しているからだった。

 

 実はゆるキャラはこの魔術を既に何度も身に浴びている。

 樹海では毎日のようにフレイヤ先生がかけてくれていたし、戦闘試験で埃っぽくなったゆるキャラとシナンにはエドワーズがかけてくれた。

 

 フレイヤ先生曰く、「《洗浄》はあくまで下洗いだから、ちゃんと水浴びはしないと駄目ですよ。じゃないと抱き心地が(略)」だそうだ。

 というわけで針は最低限度の清潔さは保たれている、と今のところは思っておこう。

 

 シンクが針に親指を押し当てた状態で動きを止めた。

 何やら顔をしかめている。

 

 ははーん、さては注射みたいで怖いんだな?

 

 いかに最強生物と言えどもまだまだ子ども。

 怖がるのも仕方がない、どれどれゆるキャラが話しかけて気を紛らわして……。

 

「ささらない」

 

 違った。

 グラボ相手に傷つかなかった玉の肌なので、針が刺さらないのも当然か。

 

「ちょ、針がたわんでる。ストップ!」

 

 無理矢理刺そうとしているシンクを慌てて止める。

 

 結局シンクは自分で親指を噛んで血を出した。

 小さな口から覗いた歯は思いのほか尖っている。

 子どもと言えども最強生物だったか。

 

 フィンの方は滞りなく針が刺さったので、無事に登録が完了する。

 二人とも出来上がった冒険者証を見てにやにやしているが、ひとつ問題がある。

 

 冒険者証に通してある鎖が二人には長すぎるのだ。

 まあ切るなり二重に巻くなりやりようはあるが、折角ならお洒落になってもらおう。

 

 というわけで四次元頬袋から取り出したのは、定期券などを入れるのに重宝する〈コラン君パスケース(赤)〉だ。

 

 本革製で長さ調整が出来るネックストラップ付き。

 本体とストラップの間には、三十センチほど伸びる金属製のリールまで付いている。

 

 キャラクターグッズとは思えない本格仕様だった。

 その分値段も高いのだが……。

 

「何それ?」

「まあ見てな。シンクちょっとおいで」

「ん」

 

 冒険者証を眺めていたシンクが、トコトコとこちらへやってきた。

 

 銀色に輝く冒険者証を受け取ると、鎖を外してパスケースに入れる。

 パスケースのサイズより冒険者証は小さいが、厚みがあるので中で動くことは無さそうだ。

 

 片面が透明になっているので視認性も問題ない。

 反対側にはコラン君のイラストが焼きつけてあり、目立たないデザインなので大人の普段使いにもオススメだ。

 

 あとはネックストラップをシンクの体に合わせて、首からかけてあげれば……できあがり。

 

「ふわあああああああああかわいいいいい」

 

 自分の首から下がっているパスケースを掲げて、その場でくるくると回り出すシンク。

 ふむ、どうやら気に入ってくれたようだ。

 

「シンクばっかりずるい!私にも!」

「もちろん」

 

 フィン用に〈コラン君パスケース(緑)〉をぺいと吐き出して、銅色の冒険者証を入れる。

 さすがに小柄な妖精族が首にかけるにはパスケースは大きすぎるので、肩から鞄のようにたすき掛けにしてもらう。

 

「見て見ておそろいだよ!」

 

 回転しているシンクにフィンが合流した。

 きゃっきゃと仲良く喜ぶ幼女と少女を微笑ましく眺めていると、背後からプレッシャーを感じる。

 

「トウジ様、私の冒険者証もお願いしますっ」

「わ、私も……ええと冒険者証は無いですが……!」

 

 リリエルとクラリーナにもねだられて、結局全員分用意する事になったゆるキャラである。

 ちなみに色はそれぞれ白と茶色で、全員髪の毛の色に合わせた。

 〈コラン君〉グッズはカラーバリエーションも豊富なのである。

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